●質問
輪転機では、パイリング(ブラン残り)を防止するために、「湿し水を多目に出す」
と言う方法が有ると教えられ、何の疑いも無く、湿し水を多目にして、印刷をして
来たのですが、成田さんのQ&A等を読んでいると、どうもこの方法は違うような
気がして来ています。あまり他社の事を知らないので分からないのですが、実際に、
湿し水を多目にして、パイリング防止をしている輪転会社とか、有るのでしょうか?
また、このやり方は、本当に正解なのでしょうか?
●回答
正直なところ、私は「枚葉機」専門なので、輪転機に関しては詳しく知りません。
ですが、「湿し水を多目にして、パイリングを防ぐ」と言う考え方、また実際に、
そうしておられる輪転会社さんは、何軒も有りました。
でもね、私、その考え方は間違っていると思います。パイリングを防ぐ為に湿し水を
多目にする。実際に、多い湿し水で、印刷中の刷版がテカテカに光ってしまっている
光景も、何度も、この目で見ています。
例えばですよ、適正なインキ量を、適正な少ない湿し水で制御している時にですねぇ、
パイリング(ブラン残り)が起こるからと言う理由で、湿し水を多目にするってのはね、
こりゃ、どう考えても、おかしいんですわ。
水もインキも、適正な量で印刷しているのに、パイリング防止の理由で、湿し水を多く
してしまったら、そこには、明らかに、余分な水が存在してしまうワケですよねぇ~。
その余分な水が、インキに入り込み、インキを劣化させてしまう。
劣化したインキは、転移能力が落ちますから、紙への着肉が悪く成る。転移や着肉が
悪く成ってしまえば、こりゃ、ブラン残りが激しく成ってしまう。 って言うのが普通の
考え方ですよね。基本的に考えれば、水もインキも少な目にして、インキの性能を劣化
させる事なく印刷が出来れば、パイリング防止や、その他の点に関しても、確実に良好
な状態をキープする事が出来る。と考えるのが普通だと思うんですわ。
・・・分からない事は、誰かに聞けばイイ。と言う事で、若手の輪転機オペレータさんに
聞いてみました。「ええッ!パイリング防止で、湿し水を多目にする?そう言えば昔、
そんなやり方を聞いた事が有ります。でもそれは、もう30年も前のやり方だと思います。
今は30年前と比べて、インキもブランも良く成りましたから、そんな事をする必要は全く
無いと思いますよ~。」
実際に、彼の工場の輪転機は、版面がカラカラに成るほど、水が絞られています。
そんな状態なので、網点もベタも、超キレイです。そして、ついでに、輪転機その物も
超キレイなんですわ。湿し水を多目にしている所の輪転機は、乳化したインキが、
いろんな所に飛散ってしまって、まぁ汚いこと、この上ナシ!です。
・・・枚葉機の技術継承と、同じなのかなぁ。
30年も40年も前から受け継がれている技術が有って、周りの資材や機械が進化して、
今では過去の遺物に成ってしまったような技術でも、先輩から教わったやり方を信じて
延々と、何の疑いもなく引き継がれて行ってしまう。
チョッと基本を勉強しさえすれば、それが間違ったやり方だと、すぐに分かるのですが、
「ウチは長年、このやり方で通してるんだッ!」とか言って譲らない。そう言ってる人に
私は言いたい。「んじゃ、あんた、携帯電話やスマホも持たず、未だに10円玉を持って
公衆電話を使ってるのか?」 なんてね(笑)。