常温ワンウェイシステム | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

「常温ワンウェイシステム」

って、突然言われても、何のこっちゃか分からんですよね。

大阪の印刷会社さんが行っておられる、湿し水の使い方の話なんですわ~。

 

普通、湿し水ってのは、冷却タンクで冷却をして、印刷機の水舟に入って、また

冷却タンクに戻って来ますよね。この循環に対して、循環をさせず、行った切りに

してしまう。これを「ワンウェイ」 方式って呼んでるワケです。行った切りで戻って

来ませんから、こりゃ冷却をする事は不可能なので、「常温」って事に成りますわね。

 

水舟の中の水は、印刷で消費された分だけ減って行きますから、減った分だけ、

タンクから補充して行く事に成ります。・・・これってね、私が40年前に使ってた、

ハイデルの単色機と同じなんですわ。水のボトルを付けて、自然落下で水舟に

湿し水を供給するって言うやり方です。こんな40年前の方式を、今頃???

 

ワンウェイの、行った切りにして、何かイイ事が有るのか? まずは、汚れた水が

冷却タンクに戻って来ない。これは、タンク屋の当社としては、非常に良い事です。

でも、この大阪の印刷会社さんの一番の目的は、廃液を出さないって事だったんです。

 

湿し水を普通に使ってたら、水を交換する必要が出て来ますよね。田舎なら下水に

垂れ流しでもイイかも知れませんが、都会では、これが「廃液」と言う事に成ります

から、処理業者さんに、有償で処理してもらう事に成ってしまうんです。

 

・・・しかしね、もし廃液だけの事が問題であるならば、「水無し」って言う選択肢も有ると

思うんですが、これはコスト高の問題でアカンのだそうです。この、常温ワンウェイシステム、

この会社さんでは、「技術力で成し得た」とか、おっしゃってるんですが、私に言わせれば、

「切れない包丁で野菜を切る事を『技術』とは言わん。包丁を研ぐ技を磨くべきだッ!」

などと、スゴイ反発を覚えてしまったので、実際に見に行って来ました。

 

・・・この会社の工場長さん、メチャ素晴らしい方でした。

湿し水を冷却しないって事は、極度に汚れやすく成ってしまうんですわ。ローラーその他に

少しでも不具合が有れば、こりゃ刷れたものじゃありません。水幅が極端に狭く、チョッとでも

水とインキのバランスが悪るければ、乳化するか、汚れるかの、どっちかです。

 

こうした事を逆に考えれば、常温ワンウェイシステムって言うのは、メンテをキッチリやって、

超狭い水幅の中にバッチリ入れる技術を身に付けなければ、こりゃ全く刷れないって事に

成るワケなのです。つまり、このシステムで刷る事が出来れば、それは全くトラブルの無い

印刷物が完成しているって事なのですわ。

 

メンテも適当、水とインキの出し方も適当。それでも、湿し水を循環して冷却してやって、

高性能なインキや、高性能なエッチ液、または、アルコールが有れば、普通に印刷が

出来てしまいます。そうした、いわゆる「ゴマカシ」が一切効かない究極の技術、それが

常温ワンウェイシステム。・・・確かに、その通りですね。

 

水を冷却しなければ、版面の温度は、40℃を越えます。これでは、本当に汚れて刷れません。

でも、この会社さんでは、30℃程度で、それ以上は上がらない。もし上がる事が有ったら、

それは、メンテ不良で、どこかにトラブルを抱えている証拠なのだそうです。

 

皆さんに、やってみぃ。などと言う気は、さらさら有りませんが、あえて許容範囲を狭くする事で、

より良い状況をキープして行く。これはこれで、確かにスゴイ技術であると、関心しました。