2009年度地理A本試験[第4問]

 

問1 [講評] 実験的な問題。ちょっと考えればわかるっていうか、当たり前っちゃあ当たり前なんだよね(笑)

[解法] 最も低いのがイ、次がウ、そして一番高いのがア。チベット高原ですね。

ちょっと気になる? チベット高原の位置を確認しておきましょう。標高5000メートルっていえばかなり高いぞ!

 

問2 [講評] 気候判定問題だが、案外と難しかったりする!?知識が必要な感じは地理A特有かな。

[解法] まずは「年平均気温」に注目。原則として「気温と緯度は反比例する」。赤道に近ければ暑くて、極に近付けば寒くなる。最も低緯度のBで最も気温が高いと考え、4が該当。次いで低緯度のCが3となる。AとDがやや微妙だが、とりあえずAの方が低緯度ではあるので、Aを1、Dを2というように「代入」してみよう。

ここでその「代入」を確実にするためにさらに降水量に注目。ポイントはやはりA。ここは古代にはシルクロードが通っていた砂漠地域。もちろん降水量は極端に少ない。それに対し、Dはどうだろうか。シベリア高気圧に支配される冬季には降水量は極少となるだろうが、南東からの季節風が海から吹き込む夏季にはそれなりに降水量があるのではないか。

また農業で考えるのも一つのポイント。Aが位置するウイグルで行われる農業形態はオアシス農業や遊牧など乾燥地域特有のもの。それに対し、Dが位置する中国東北区は、アジア式畑作農業地域として春小麦や大豆の栽培などが行われている。どうだろうか?どちらが降水量が少ない感じがする?僕はAが少雨で、Dは比較的雨が多いと考えていいと思うんだよね。

 

ちょっと気になる? 気温判定問題について最も重要なポイントは「暑いか、寒いか」である。緯度が低ければ暑くて、緯度が高ければ寒い。もちろんこれだけでは判定できず、例えば低緯度であっても標高が高いところでは気温が低いわけだが、センター試験では特別な場合を除いて標高は考えなくていい。標高を考慮しなければいけない場合は、99B本第5問の気候グラフ判定問題などにみられるようその旨がきちんと問題文に示されている(注)。とにかく、図と気候グラフが与えられている場合には、まず緯度と気温の関係に注目するべきだ。

一方、降水量については後から考えればいい。気温だけでまず「代入」し、そこから降水量を考え、矛盾がないか、つじつまの合わないところはないか、確かめていったらいい。

(注)ただしこれには例外があり、南米大陸における気候判定問題の場合は、むしろ最優先で標高を考えないといけない。アンデス高原に位置するボゴタ(コロンビアの首都)、キト(エクアドルの首都)、ラパス(ボリビアの首都)などはいずれも高原都市で、緯度が低いにもかかわれず、年間平均気温は低い。

 

問3 [講評] 地理A特有の問題でしょう。都市名に関する知識が問われる。しかしその一方、シャンハイの風景などはテレビのニュースなどでもしばしば取り上げられているので、一般常識的な側面もある。まぁ、いずれにしても地理B的ではないわな。

[解法] どこから行こうかな?最もメジャーな都市としてホンコンから特定しようか。ホンコンは、GNI(経済規模)より貿易額が大きいという「特殊」な国(本当は国ではないけど、国とみなしてしまってもいいでしょう)。シンガポールとならんで「中継貿易」がキーワードとなる。よってキがホンコン。「世界有数の金融・貿易センター」とあるが、金融はともかく、貿易についてはまさにその通り。世界最大の貿易額を誇るシンガポールの港に次いで、ホンコンの港は貿易額世界第2位なのだ(知っておいてもいいかも)。

残りの2つについてはちょっとやっかいかも?でもここは素直に、シャンハイが今や世界の中心となる勢いを有する都市であることを考えればいいと思うよ。クの左手にそびえる巨大なタワーはシャンハイの象徴でもある。クがシャンハイ。

残ったカがアモイだけれども、ここは台湾の対岸に位置する都市で経済特区が設けられている。台湾だけでなく、日本や米国の企業がさかんに進出し、工業地区をなしている。

ちょっと気になる? 「金融」っていう言葉の使い方に注意しよう。ホンコンではすでに「金融」センターとなっていることが示され、シャンハイについてはこれから「金融」センターを目指すような記述となっている。「金融=1人当たりGNIが高い地域」が大原則なのだが、ホンコンはすでに高い1人当たりGNIを有しており、東アジアの金融センターとしては地位を確立しているといえる。それに対し、シャンハイといえども所詮は中国の都市であり、1人当たりGNIは低い。金融の中心となるには、まだまだ時間がかかりそうだ。

ちなみにクで描かれている地区はシャンハイ東部の臨海地域であるポートン地区。輸出加工区でもあり、外国から多くの企業が進出している。今後、シャンハイの地図が出題されるかもしれない。地図帳などでみかけたらチェックしておくといいかも。

なお、経済特区については、今までは最大の経済特区であるシェンチェンのみが出題されていたし、地理Bで取り上げられたのもシェンチェンのみ。アモイなど他の経済特区を知る必要はないだろう。「経済特区=シェンチェン」で十分。

 

問4 [講評] こうしたベタな民族ネタっていうのは地理A特有のものではあるけれど、地理Bでもウイグルやチベットの位置ぐらいは知っておくべきだと思うよ。

[解法] ベタに行きましょう。AからPに広がる一帯はウイグル族が住むエリア。シンチャン・ウイグル自治区という。シルクロードに沿う地域で、砂漠など乾燥地域が広がり、イスラム教が主に信仰されている。

Qはチベット族のエリア。チベット自治区である。ここも少雨地域ではあるが、それよりも高峻な地形であることが重要!問1にもあったけれど、標高が数千mに達し、それに伴い気温も低い。「少雨」だけでなく「寒冷」であることもキーワード。

Rはモンゴル族。モンゴルに沿っているもんね。

ちょっと気になる? ウイグルとチベットは両方ともすごく大切なので要チェック!ともに少雨ではあるんだが、「低地」であるウイグルと「高原」であるチベットの地形環境の違いは絶対に意識しないといけない。

 

ウイグル 中国北西部(カザフスタンなど中央アジアに隣接) テンシャン山脈など一部に高山もあるが、基本的には低地 羊などの遊牧、山麓の湧水が得られるところなどではオアシス農業 シルクロードに沿いイスラム教

チベット 中国南西部(インドに隣接) 新期造山帯で現在も標高が高まっている高原 ヤクの遊牧 聖地ラサも位置しチベット仏教

 

こうしてみると、ウイグルとチベットって何の共通点もないんだよね。あえていえばともに少雨であることだけだけど、ウイグルは砂漠が広がっているのに対し、チベットは寒冷な高原だからね、自然景観も全然違ってはいるわけだ。両者を混乱しないようにしよう!

 

問7 [講評] おっと、ここでシェンチェン登場かっ!?さっきはアモイが登場したぢゃないか!地理Bでもシェンチェンが直接問われたことがあったので、本問については過去問そのまんまって感じ。とにもかくにも「シェンチェン=経済特区」なのだ。

[解法] 「シェンチェン=経済特区」なのだ。経済特区は5カ所あるけれど、君たちが覚えるのはシェンチェンだけでいい。正解は2。

ちょっと気になる? シェンチェンは経済特区の中でも最大の規模を誇る都市だが、ホンコンに隣接しており、そのホンコンからの企業進出が容易であるという優位点を持っている。白地図を用いて出題されても大丈夫なように、ホンコンの位置(つまりシェンチェンの位置と同じということ)を確認しておくといいかな。

 

問8 [講評] 地理Bではほとんど出題されない文字に関する問題。

[解法] 日本と中国の漢字は微妙に違うよね。中国の漢字は簡略体が使用されていたり、意外と日本人には読めないものもある。

ちょっと気になる? 地理Bで文字に関するネタが出題されたのは2例。一つが朝鮮半島のハングル文字で「独特の表音文字」という言い方で問われた。表音文字とは表意文字の反対語で、その文字自体は意味を持たず、発音のみを示すもの。英語のアルファベット(ローマ文字)がその典型だが、ハングルもその仲間。表意文字は、漢字が該当。

もう一つがインドに関するもので、インドの言語であるヒンドゥー教の表記には独特の文字が使われ、ローマ文字のようなものではない。

いずれもせよ、特別な話題ではないので、ノーチェックでいいだろう。

 

2009年度地理A本試験[第5問]

 

問1 [講評] 地理Bでもありがちな感じの問題。最近は子供や女性に関するトピックを取り上げた問題が増えているんで、こうした問題に慣れておくことが必要。

[解法] アフリカ大陸だけを取ってみても、A、B、Cさまざまに色分けされている。ちょっと難解なので、とりあえず1人当たりGNIで考えてみるか。とりあえず「1人当たりGNIと乳幼児死亡率は反比例する」ので、低体重の子供の割合の高低と1人当たりGNIは関係あることが推測できるよね。

アフリカ大陸で1人当たりGNIが高いのは、大陸最大のGNIを有する工業国である南アフリカ共和国と、アルジェリアなどアラブ産油国。これらの国でCとなっているので、ここで低体重の子どもの割合が低いと考えていいと思う。栄養状態も良く、十分は医療介護も受けられるので、低体重の未熟児は少ないはず。

それに対して、AとBの判定は難しい。全然わからないので、ここでもやはり1人当たりGNIで考えるしかない。アフリカで1人当たりGNIが低いことで特徴的な国は、例えばナイジェリア。OPECにも加盟するアフリカ最大の産油国だが、人口規模が半端なく多いので「1人当たり」の値はどうしても極小となってしまうのだ。さらにエチオピアもそうした国であることを知っておいてもいいかもしれない。コーヒーの原産地であり、現在もコーヒーの生産や輸出に経済が依存するモノカルチャー国であり、他に産業がないこともあり(しかも実は人口も意外と大きかったりするのだ)、1人当たりGNIは極端に低くなる。

この「1人当たりGNIが低い」ことがキャラクターである2カ国でこそ、低体重の子どもは多いと思われ、Bが「高」となる。そうしてみると、マリやニジェールなどサヘル地帯の国々でも「高」となっており、干ばつや砂漠化の影響により食料事情が悪く、十分に太ることができない子どもたちが多い。残念ながらそれは「貧困なアフリカ」を象徴する状況でもある。

ちょっと気になる? 地理Aではかつて「乳幼児死亡率」が問われた。今回もそれに類するものだろう。「低体重」すなわち未熟児なわけだが、そういった子どもは残念ながら、乳幼児のうちに死んでしまう度合いも低くはないと思われる。「乳幼児死亡率と1人当たりGNIは反比例する」のだが、「乳幼児死亡率と低体重の子どもの割合は比例する」と考えられるので、「低体重の子どもの割合と1人当たりGNIは反比例する」という公式もまた成り立つのだ。逆にいうならば、1人当たりGNIさえ上昇すれば(つまり経済成長さえ実現すれば)、乳幼児死亡率や低体重の子どもの割合は低下するということ。世界は経済なのだろうか。

 

問2 [講評] 「見るだけ」問題だが、問われている内容はすごくおもしろいと思うよ。じっくり味わってください。

[解法] 問題そのものは簡単でしょう。正解はもちろん2。図を見てもわかるし、文章を読んだだけでもだいたいわかるよね。

せっかくなんで図を読解していろいろ考えてみよう。

図2参照。おおまかな点の配置をみていると、「右肩上がり」であることに気付く。比例定数は1って感じ(笑)。「動物性食料の割合(以下「動物性」)」と「1人1日当たり供給栄養量(以下「栄養量」)」は比例しているっていうこと。要するに、肉をたくさん食べている連中は、カロリーも高いっていうことだよ。もちろん動物性食料には魚介類も入るし、日本人は世界で最も魚が大好きな民族であるんだけれども、世界的にみればそれはやっぱり少数派なんだよね。インドのように主な動物性タンパク源を乳製品に頼っている国もあるけれど、そうしたミルク民族もやっぱり少数派。肉は飽食の象徴なのだ。

しかも地域差が明確。アフリカの国々は「動物性」も「栄養量」も低い。アフリカの国に低賃金国(1人当たりGNIの低い国)が多いことを考えると、「動物性」や「栄養量」は1人当たりGNIに比例しているっていうことがわかるよね。

とくにヨーロッパに注目するともっとわかりやすい。ヨーロッパの国って「動物性」も「栄養量」も全体的に高い。もちろん経済レベル(1人当たりGNI)も高い国が多いわけなんだけれども、やっぱり肉食民族ってことなんだろうね。

それに比べれば日本ってまだマシなような気がするんだよね。動物性タンパク源を主に魚から摂取している日本民族は、1人当たりGNIは極めて高く、魚を含めた「動物性」も高い国ではあるけれど、おそらく「栄養量」はさほど高くない。ヘルシーな国民性というか民族性を持った国なのだ。でも、最近のファストフードばかり食べている若者を見ていると、そうでもないような気もしてくるのだが。

ちょっと気になる? ネタ自体はおもしろいんだけど、ここからどうやって様々な問題に発展させていくのか、それについてはあまりアイデアがない。ノーチェックでいいかなぁ。

 

問3 [講評] これもおもしろい問題。いや、それどころか、今回の地理Aの全問題の中でもベストの問題なんじゃないか?これ、マジで深いぞ。

[解法] 考えることは多い。意識するのは「裏」と「キャラクター」、そして「ホイットルセー農業区分」。

まずこの表が、輸出と輸入に関するものであることを確認。もちろん重視するのは輸出の方。輸入からその国のキャラクターを特定するのは難しい。輸出品目からその国でどういった産業が発達しているのか推測するのは基本。

では「裏」から考えましょう。つまり「食料品」の裏を考えるのだ。「輸出額に占める食料品の割合」が低い国は、それならば何を輸出しているのだろうかということだ。「食料品」の裏としては、たとえば「鉱産資源」や「工業製品」などが考えられるんじゃないか。「輸出額に占める食料品の割合」が高い3や4は鉱産資源に恵まれず、工業もとくに発達していない国。一方、その反対の1や2は、豊富な鉱産資源を有するか、それとも工業国として工業製品の輸出が多いかのどちら。1・2を鉱業国・工業国と考え、3・4を農業国と考える。「裏」を考えることが必要。

さらに「キャラクター」について。ここで選択肢になっている4カ国が実に絶妙なのだ。めちゃキャラクターが濃い国ばかり!アルジェリアはOPECの代表国、コートジボワールはカカオの生産が世界第1位であることからわかるよう、プランテーション国。イギリスとニュージーランドはいずれも先進国であるが、イギリスが普通の先進国(普通に工業が発達している国っていうことです)であるのに対し、ニュージーランドは酪農製品や肉類の輸出が多い農業国なのだ。このキャラクターは決定的!

このことから、1・2はイギリスかアルジェリア、3・4はニュージーランドかコートジボワールとなる。

さぁ、ここから次のステップに行きましょう!それは農業の特徴について。ホイットルセー農業区分について考える。コートジボワールは「プランテーション農業」、ニュージーランドは「企業的放牧」を始めとして、北島では「酪農」、南島の東岸では小麦の栽培と羊の飼育がみられる「混合農業」である。どっちが3でどっちが4だ?

もちろん3と4とで大きな違いがある「輸入額に占める食料品の割合」に注目するのだ。4は多くの食料を外国からの輸入に依存しており(20%を超える)、3はそうでもない(10%より低い)。4っておもしろいんだよ。食料品を輸出して、食料品を輸入している。これってどういうことだ?これはこう考えるしかないよな。「商品作物を輸出し、自給作物を輸入している」ってパターンだ。コートジボワールはプランテーション作物としてカカオを栽培しているわけだが、これはもちろん商品作物。これは一応チョコレートの原料になるのだから「食料」ではあるけれども、食糧すなわち主食として腹を満たすものにはならない。主食となるような穀物については、外国からの輸入に頼っているのが現状なのではないだろうか。商品作物の生産が優先され、自給作物の生産がおぼつかない。カカオを売ったお金で、小麦などを海外から買っているわけだ。世界にはヨーロッパや米国のような小麦輸出地域はいくらでもある。アフリカは彼らの「いいお客さま」でもあるわけだ。

このことを考えれば4はコートジボワールになるんじゃないか。一方、3はニュージーランド。「新大陸」に含まれるニュージーランドは「商業的」な農業が営まれている。たとえば米国を考えてみよう。米国は小麦の生産が世界第3位であるが、輸出は世界第1位。つまり国内自給は最優先としても、輸出することについても主眼が置かれ、小麦の栽培がなされているということだ。このように、主食となる穀物を作りまくって、国内の自給を満たすと同時に、輸出にも力が入れられているというのが新大陸の「商業的」な農業の本質だとしたらどうだろう?ニュージーランドだって新大陸のメンバーだ。農産物の輸出割合が高い国であるが、国内自給率も高く、そもそも農産物を海外からの輸入に頼っている国ではないだろう。これで納得。矛盾点はない。実に美しい。

ちなみに、問5の選択肢2が興味深いのでそちらも参照してみよう。「モノカルチャー経済により食料が不足する地域では、自給用作物の増産に向けた技術協力が必要とされる。」とある。「モノカルチャー国」っていうのは例えばコートジボワールのようなプランテーション農業国。こういった国では商品作物の栽培が優先されるために、自給作物の生産は軽視され、いつまでも食料自給率は上がらない。上の文章についても、「必要とされる」ということはまだ実現していないってことだよね、以下のように読み替えることもできるんじゃないか。「コートジボワールでは、食料が不足しているが、自給用作物の増産は進んでいない」。どう?アフリカは実は農業がさかんな大陸ではないのだ。お菓子(チョコレートだね)の原料を作ることは、厳密には農業とは言わないんじゃないかって僕は思いさえする。

ちょっと気になる? 講評では軽く書いてしまったけれど、解法を書きながらもこの問題の奥深さに気付いた。これ、マジですごい問題だぞ!ニュージーランドもコートジボワールもいずれも農産物の輸出国なのだが、ニュージーランドは穀物や肉類など自給的性格の強い農産物を輸出していることからわかるように、基本的に食料自給率は高い。まず国内ありきで生産し、余った分を輸出に回るというニュアンス。それに対しコートジボワールはカカオだけに特化した農業を行っているため(商品作物の単一栽培を「プランテーション農業」というのだ)、カカオの生産は極端に多いものの、それ以外の作物の栽培はほとんどなされていない。もちろん、本来必要なはずの穀物の栽培も。間違っているよな。このせいで、彼らは商品作物を輸出し、自給作物を輸入するという貿易構造をもつことになるわけだが、これは「農産物を輸出し、農産物を輸入する」というわけのわからない貿易構造ともいえるわけだ。どうなんだ、この問題?深すぎるぞ!?

 

問4 [講評] 水に関する問題。水のネタはセンターでは06B追で登場しているんだが、私大入試でも最近はしばしば目にするネタ。現代社会を象徴するトピックではあるんやね。

問題そのものも十分に過去問が意識された良問。オーストラリアのスノーウィーマウンテンズ計画は鉄板だね!

[解法] ア~ウ、いずれも非常に重要なトピックなので、どれから考えてもいいし、どれについてもぜひ知っておいて欲しい。

とりあえずアから。ここでは「海水の淡水化」がキーワード。サウジアラビアは砂漠国で天水に頼っただけでは飲料水が不足する国であるが、豊富なオイルマネーを利用して海水から淡水を得る巨大施設を設けている。自然に逆らうとは、おそるべし、オイルマネー。

イについては、「干拓」が重要。浅い海に堤防を築いて、内側の海水を排水し(オランダの風車がそのために利用されたのは有名な話ですね)、干拓地が造成された国、オランダ。オランダはそもそもは3万平方キロメートル程度の面積であったが、干拓によって4万平方キロメートルに国土を広げてしまった。干拓地というのは、その作り方からもわかるように標高は海水面よりも低い。オランダは国土の4分の1が海面下にあるのだ。

ウはスノーウィーマウンテンズ計画。マリー川流域の企業的穀物農業(小麦栽培)はこれによるもの。オーストラリアは、国土の東部を縦断する山脈によって、太平洋側の多雨地域と西側の少雨地域に分けられる。山脈東麓を流下するスノーウィー川をダムによりせき止め、そこから山脈の下に導水トンネルを設け、西側のマリー川流域への灌漑用水とする。何ともスケールの大きな話だが、それもまたオーストラリアということだろうか。

ちょっと気になる? いずれも過去問ネタ。しかも地理Bで出題されたもの。これぐらいは簡単に解きましょう。いい問題ですね。

 

問5 [講評] これ、いいっすね。っていうか、この第5問って全体的に問題の質が高くない?難しいって意味じゃないよ。過去問のネタがしっかり反映された、しっかり勉強した者にとっては解きやすく、そうでない者にとっては難しいというわけだ。

[解法] セオリーは「灌漑は塩害を助長する」というもの。乾燥地域において人為的に農地に水を与えることを灌漑(かんがい)というが、これには塩害(土壌塩性化)のリスクが伴う。植物に水が全て吸収されればいいが、そうでない場合は、余った水分は土中に浸透し、地中の塩分(カルシウムやナトリウムなど)を溶かし込み、水溶液をつくる。乾燥地域の強い蒸散作用によってその水溶液は地表へと持ち上げられ、さらに水分だけ空中に蒸発するものの、塩分は「おいてけぼり」を食らって、地表面に残ることになる。これが何回もくり返されることにより、塩分が地表面に集積、すなわち「塩害」が生じるのだ。

塩害を防ぐためにはどうするか。もちろん灌漑を止めるのがベストなのだが、しかしそれではそもそも農業ができない。より自然と調和した形で、バランスよく、灌漑が行われなくてはいけないのだ。代表的な方策が「点滴灌漑」。水を点滴(つまり一滴ずつ与える)ことによって植物の根に過不足なく水分を吸収させ、水を余らないようにする。これならば水溶液ができるはずもなく、塩害も抑えられる。灌漑は緻密(ちみつ)に行わなくてはいけない。適切な灌漑とはすなわち「ていねいな灌漑」でもあるのだ。

このことを頭に入れて、文章を読んでみよう。もちろんターゲットは選択肢3である。「土壌の塩類化(塩性化)により穀物の栽培が困難になった地域では、大規模な灌漑施設の導入が必要とされる」とある。そもそも土壌塩性化の原因は「灌漑」にある。灌漑によって生じた塩害を防ぐために、さらに灌漑施設を充実させるとはどういうことか。しかも「大規模」なんて、新大陸の企業的農業じゃないんだから、そんなに雑にやってしまっていいもんなんか。点滴灌漑のように、丁寧に行ってこそ、塩害は防止できるのだから、やはり「大規模」ってのはマズイと思う。思いっきり灌漑を行うことで、いっそう塩害が深刻になるのが関の山でしょう。というわけで3が誤り。

ちょっと気になる? 98B本にこのような選択肢がある。「ナイル川下流の乾燥地域では、乾燥農法から灌漑農業へ切り替えることによって、土壌の塩性化を防いできた」。どうだろうか、これが誤文であることに気付くかな。「灌漑は塩害を助長する」ものなのだ。灌漑は適切になされてこそ意味があるもの。そもそもが土地に負担がかかるものであるので、単に灌漑を無造作に行うだけでは絶対に逆効果なのだ。灌漑と塩害の関係はセンター必須!

 

問6 [講評] この問題もいいなぁ。地理B受験者もぜひ解いてほしい問題だよね。ネタそのものよりも、文章ニュアンスでしっかり誤りを指摘するテクニックを鍛える意味がある。そしてそれより、やっぱり君たちがこれから生きていく中でこうした「食の安全性」は非常に重要なわけだ。こうした意識を養っておこうよ。

[解法] これ、実は正解は1なんだよね。どうだろう?文章のニュアンスを観察してほしい。1では「禁止」っていう強い言い方でしょ?2では「取り組みが行われている」、3では「取り組みが強化されている」、4では「問題となった」。どうだろう?はっきりと強い口調で「断言」しているのは1だけなんだわ。「断言口調に誤りあり」ということは、現代文の試験なんかでは常識なんでしょ?センター地理にしたって、こうした文章読解問題は現代文的なノリで解くことが必要であり、そうした観点から1が誤りであることがわかる。2にしても「取り組みが行われている」だけで、それは徹底したものではないかもしれないし、3にしても「取り組みが強化された」けれどそれは完全ではないかもしれないし、4にしても「問題となった」かもしれないけれど、すでに人々はそれを忘れているかもしれない。要するにあいまいなのだ。

というわけで解法はここまで。でもここからさらに深く考えてみようよ。遺伝子組み換え作物は、病害虫に強いとか、生育期間の短縮などが期待され、非常に生産性が高い。でも人間に与える影響にはまだはっきりとしない点も多く、我々の口に「直接」入る部分についてはほとんど規制されている。しかし家畜の飼料などにはどんどん使われており、つまり「間接的」には我々の体内に入ってくるということ。これってどうなんだろう?家畜の飼料であるトウモロコシや大豆の多く(っていうかほとんど)を米国からの輸入に頼っている日本としては、その米国で食の安全基準が緩いことは、実は大問題であったりするわけだ。米国は生産性と合理性をひたすら追求し、安く手軽な農産物を大量に生産する(そう、「栽培」ではなく、あたかも工業製品のように「生産」するのだ)。そんな米国に、間接的とはいえ、多くの食料を依存している日本。これでいいんだろうか?

ちょっと気になる? さすがに米国もヤバいと思っているのか知れないけれど、遺伝子組み換えによる農産物の生産は今後抑えられるという予測もある。しかし、これまた米国のことだから、隠れてそういったヤバいものを作り続けるに決まっているんだよね。BSEの時の肉牛がそうだったじゃない?

ただ、だからといってこの遺伝子組み換え農作物はあながち全否定されるものでもない。要は人間の口に入らなければいいだけなんで、例えば、バイオマスの原料としてはこれほど適しているものはない!現に米国では開き直ったかのように遺伝子組み換え技術によるトウモロコシの栽培が増加しているのだが、これらは主にバイオエタノールに加工され、燃料として利用されるようだ。どうだろう?これはなかなかいいアイディアなんじゃない?バイオマスで生じる問題の一つに食料供給の問題があって、本来人間が食するべき農作物がアルコールに転化することによって、食料不足が生じるのではないかという懸念。しかし、このように食料用は食料用、燃料用は燃料用(もちろんこちらは遺伝子組み換え)と作り分けることによって、そのような不利益は生じないってことになるよね。実は遺伝子組み換え技術は世界の未来を担っているのかもしれない。そういうことだ。