『So long !』 MVの感想 | AKB48、とある地方ファンの呟き

AKB48、とある地方ファンの呟き

とあるきっかけからAKB48のファンになりました。地方ファンの立場からいろいろと思ったことを綴っていきます。

AKB48の30thシングル『So long !』

発売から1週間経ち、そのMVを見た人はいろんな感想が持たれたみたいですが、これだけ批判的なコメントが目立つMVも珍しいことだと思います。

自分も実際に観るまでに、既にいろんな意見を見聞きしていたので、どんな感じなんだろうとやや心配の方が多かったです。
観終わった感想はとてもひと言では言えなくて、でもなんだが不思議なものを見たような気がしました。
と同時に、これは好き嫌いがはっきり分かれる作品であり、ダメ出しする人がいるのも無理はないなという思いを抱きました。

これがアイドルのMVなのかと聞かれて、素直にそうかと頷けるかというと、正直自信がありません。
MVとしての見るのであれば、批判する人の気持ちもわからないではないですが、もうここまで来るとMVじゃなくて劇映画と言ってもよいです。その証拠に最初にテロップで「A MOVIE」とちゃんと断りを入れていますし、MVというものに対する先入観を持ったままだとこの作品を楽しめないかなと思います。
自分も1回目はそんな感じで、呆気にとられて何が何だかがわからない混乱した状態でした。

しばらく日にちをおいてから、再度観直したところ、作品の世界感がすっと自分の中に入ってきました。その後自分の身に思ってもないことが起こったんですけど、それについてはまた後で書きたいと思います。


物語は新潟・長岡(山古志村)に住む女優志望の”夢”(渡辺麻友)と東日本大震災後に福島・南相馬から転校してきた”未来”(松井珠理奈)を中心に動いていきます。

2人の会話に出てくる『この空の花ー長岡花火物語』というのは大林宣彦監督の最新作で、2012年公開の映画で、2人はこの作品にエキストラで参加したという設定になっています。














このMVは『この空の花ー長岡花火物語』の続編、スピンアウト作品のような位置づけとなっています。
(高嶋政宏さんが、このMV出演のオフォーを受ける際に、箝口令が出てたため本当のことが言えず「映画の続編」と言われてたという話がありますが、あながち間違っていいないのかもしれません)

テロップの多様であったり、あからさまな合成などについても、同映画の手法を引き継いでいます。
自分はこの映画を観てないのですが、観た人の感想を観る限り、かなりアヴァンギャルドな作品のようですね。

『So long !』のMVを観て感じたのは、カット割りの多さで、目まぐるしく場面が切り替わり、いたるところで会話が飛び交い、過去と現代が交錯してて、観ている人は混乱してしまいます。

2004年の中越地震、2011年の東日本大震災がこの作品中、大きく取りあげられてますが、それだけではなく、戦時中の話や、戊辰戦争の話まで出てきて、長岡の歴史をなぞらえるようなつくりになっています。
長岡において、毎年8月1日に打ち上げられる花火は戦没者へ追悼を意味するものであり
2日と3日に打ち上げられる大花火フェニックスは2004年の中越地震から復興を願うものだということは不覚にも知りませんでした。


映像は、昨年映画公開を記念して打ち上げられた花火。最後は圧巻のひと言です。




福島から来た”未来”が転校してきた中越高校での同級生たちは


季衣(柏木由紀)・・・計算が得意
そら(高橋みなみ)・・・花火職人の娘
あかり(板野友美)・・・造り酒屋の娘
あゆ(島崎遥香)・・・鯉屋の娘
栞(大島優子)・・・だんご屋の娘

と皆、どこか珍しくて古めかしいネーミングとなっています。

仲間に囲まれ、楽しい日々を過ごす”未来”ですが、やがて故郷の福島に帰ることを決意し、その思いを”夢”に打ち明けます。

その場面の少し前、露天風呂の場面で高嶋政宏さんが生徒たちに水をかけられた時に、雨の描写に切り替わり「この雨、痛いな」という台詞は『この空の花ー長岡花火物語』と同じ台詞でシチュエーションは違いますが、映画を観ている人にはピンとくる場面だったと思います。
映画との関連でいうと、戦争で亡くなりながら現代に甦った少女”花”(猪股南)が言ってた「名前は花だけど、草のような人間」「草が化けて花になる」という言葉が印象的でした。

『米百俵の精神』は時の小泉首相が使って流行語になったのを覚えている方もいると思いますが、もともとは長岡藩出身の小林虎三郎の言葉で、「百俵の米も、食えばたちまちなくなるが、教育にあてれば明日の一万、百万俵となる」という逸話に基づいています。

教室の場面で、片山先生(高嶋政宏)が生徒たちに、長岡市が「中越地震でお世話になった恩返しに」という理由で大槌町のがれきの処理を引き受けたという話を紹介し、その後に未来へ向けて歩き出す少女たちへのメッセージが送られ一旦物語りは一段落。役からAKB48のメンバーに戻り、被災地支援のダイジェストが流れます。一見関連のないと思われた、長岡とAKB48ですが、被災地との関わりという意味では確かにつながりがあったということを示す映像だったのかもしれません。

映像開始から約50分、ようやく歌のイントロが流れ出します。1回目は長いと感じたんですが、でも2回目に観たときは不思議と長いとは感じなくて、イントロが流れた瞬間、思わず感極まって涙が出ました。自分でも意図していないタイミングだったので、不意をつかれたようで、ドラマ「So long !」では全く泣けなかったんですが、まさかMVを観て泣かされるとは思ってもみなかったです。

歌の最後の場面、ウェディングドレスを着ている”未来”(松井珠理奈)とそれを祝福する仲間たち、あれは歌詞のとおり、”未来”の未来の願いを示唆していうように見えました。(ちなみに新郎役は篠田麻里子さんです)
このままハッピーエンドでめでたしめでたしとは終わらないのが、この作品らしいといえばらしいのですが、モノローグとも言ってもいい茂木健一郎さんからのメッセージと、
『この空の花ー長岡花火物語』の最後の(と思われる)場面が使われてて、花火が演出効果となってエンディング

最後はスタッフロールとメイキング、時間にいて約4分間ですが、これは別枠でもうちょっと観たかった気がします。
(MVは約64分ですが。実際に撮った映像はその何倍もあるはずですから)

このMVについて、決して派手ではないし、華やかさという点では物足りないと感じる人はいるかもしれません。そのまま学校の教材として使ってもおかしくないくらいメッセージ性の強い内容だし、重く感じる人もいるかもしれません。でも後から感動がじわじわくるというのはこの作品がただ者ではないということだと思うし、いろんな意味で印象に残る映像だったと思います。

「画面が暗い」とか「合成が惨い」とか言う声がありますが、それもこれも大林監督の手法であり、あえてトーンを落したり、あからさまなクロマキー合成を使用したのも表現方法のひとつとして意図的に行っているというのは、監督の他の作品を観ても感じる事ができます。
どこか大げさで芝居がかった台詞もそうです。
はっきり言って、そんなことは気に留めなかったし、そこに捉われてしまって、作品の本質から目を背けちゃうのは勿体ない気がします。
思い切って作品の世界感に身を委ねてみると、また違った見方ができるのではないでしょうか。

若い人にとっては「古くさい」と思われる方もいると思います。でもどこか懐かしくて、昔「時をかける少女」などを観ていた自分にとっては、琴線に触れる作品でした。(
原田知世さんのミュージカル調の歌で締めくくられる「時をかける少女」のエンディングは今で言うアイドルMVのはしりと勝手に思っています)

アイドルのMVとしてはある意味問題作だし、好き嫌いの分かれる作品だと思います。ひとつ言えるのはこんな作品を撮れるは大林監督だったからこそで、良くも悪くも洗練された今の若い監督には撮る事は難しいだろうし。
気になるのはこのMVを最初にみた秋元さんの感想です。先日放送されたドキュメンタリーでは、カップリング曲のMVにかなりダメ出しをしていたのですが、さすがに大林監督にはダメ出しはしないだろうし、でも、たぶん「面白いね」と言ってニヤリとしたんじゃないかと思います。