Cside
















「遠足っ?!」

『おう!たのしみだな!』

「………ちょっ、明後日?!!」

『ちゃんみんと遠足〜♪
ちゃんみんのおべんと〜楽しみ〜』

「お弁当?!!???!」









明後日はこどもの日。
休みの日だというのに保育園の行事で親参加の遠足があるみたい…。
こんなギリギリに聞くなんて……ハァァァ





しかも…


お弁当持参だなんて?!
人生でお弁当なんて作ったことないし!



チラッ





『遠足〜遠足〜♪』



でも、ユノがあんなに楽しみにしているから頑張って作ってあげたい。


「親心ってやつか?」

『ちゃんみん!たのしみだな!』

「………そうだね。楽しみだね」















スーッスーッ




ポヨンとしたお腹を寝息ともに上下に動かしながら眠っているユノ。
僕の住むこの家に来てもうすぐ1年が経とうとしている。



怪獣のように日々僕の想像を斜め上の行動をするユノにぐったりするけど、



「お休みユノ」



でも、愛おしくてたまらない。










「さてと、お弁当のメニューでも考えるとするか」

僕は明後日に迫っている親参加の遠足で持参するお弁当のメニューをスマホで検索しながら僕でも作れるメニューはないか模索した。


























『ちゃんみん!トラさん!!』

「大きくて格好いいね」

『………かっこいい…ちゃんみんもトラさん好き?』

「え?うん好きだよ」

『そっか…ちゃんみんもトラさん好きなんだ…ふふ、一緒だね♡』

「そうだね」




遠足は動物園。
ユノはキリンやゾウに興味を持ちながらもトラに1番興奮していた。



しかし、










どの園児も両親が参加している。
今日が休みの日だから両親参加率が高いのだろう。



"あなた、ユノ君のパパ?"

「ん?………君は?」

"私はボア、ユノ君のパパよね?"

「え?あーーーー・・・」



パパかと聞かれるとなんとも答えづらい。
ボアと名乗った女の子は5歳児とは思えないほど堂々とそして大人びて見える。

ユノの友達かな?




『ボアちゃん、ちゃんみんはちゃんみんだよ』

"ちゃんみん?パパじゃないの?"

『ちゃんみんだってば!』




「………………」

ユノにとって僕はやはりパパではないようだ。こう強く言われると正しいことなのだが心にくるものがある。

グサッと鋭利なもので刺された、
そんな感覚。



「ボアちゃんはユノと同じクラス?ボアちゃんのパパとママは?」

"いないわ。パパもママも仕事だから"

「………え、そうなんだ…それは残念だね」

"………別に慣れたもんよ"

「…………そうなんだ…」

『ボアちゃん!あっちのシカさん見に行こうよ』

"シカ?私はもっと格好いい動物がいい"

『格好いい?例えば?』

"トラとかライオンね"

『トラさんはもう見たけど……いいよもう一回見る!行こう!』

"えぇ、ほらチャンミンさんも行くわよ?"

「え?あ、はい……」



なんて高飛車な子なんだ。
落ち着き、態度、口調全てが5歳児の仮面を被った30代ってところか?


でもユノもボアちゃんの為にもう一回トラを見に行くなんて、
優しいな。














あれ?


もしかしてユノ…















ボアちゃんが好きとか?
初恋?!!?!










「なんだか急にユノの成長を肌で感じてしまった」









トラを見に行くと、ちょうど餌やりの時間のようで人集りができていた。
当然、幼稚園児の身長から見えるはずもなくユノもボアちゃんもしょんぼりしていた。




「ユノ、肩車してあげるよ。ほら」

『肩車?』

「よいしょっと!」

『うわぁぁぁぁぁ高いぃぃぃぃぃ!』

「こら暴れない!危ないから僕の頭を掴んで。どう?トラさん見えた?」

『トラさん見えた!すごいお肉を食べてるよ!!』

「よかったね」

『あ、トラさん同士でお肉を取り合いしてる』

「どの動物界でも食事の時間は戦場ってことだね」

『ん〜?』




"わ!ゆの君のパパすごい!僕にも肩車やって〜"

"私も!"

「え?えー?」




見渡した感じどうやら他の子のパパ達より僕は頭一つ分ぐらい背が高いようだ。
その上年齢も若い。



"こら!お友達のパパを困らせないの!"

「いえ、僕は構いませんよ?
ユノちょっと下ろすよ?気をつけて」

『……………………うん』



"うわぁ高い!すごーーい!トラさんが見える!!"

"すみませんご迷惑を。うちの旦那歳で腰を痛めてしまって肩車なんてできないんですよ"

「気になさらないでください」

"お若いんですね?ユノくんパパ"

「はは…まぁ、」




そうしているうちに僕は何故か子どもたちではなく、子どもたちの母親に囲まれていた。

えーと、ちょっとパパさんたちの視線が痛い…







『ちゃんみん!!』

「………ん?どうしたユノ?トラさんに飽きた?」

『ちゃんみん!ちゃんみんはオレのでしょ?!』

「……………ん?」

『他の人にデレデレしちゃめ!』

「デレデレだなんて……」

『めーーー!』

「あーはいはい。僕はユノのものだよ」

『本当?約束!』

「はい。約束」

『ちゃんみーーーん♡』



小虎のような勢いで僕にタックルを喰らわせたユノ。
他のママさんたちに、

"あらあら〜"

なんて言われてしまった。



甘えたい年頃なのだろう。








"大変ね、チャンミンさん"

「へ?あぁ……ん?」



ボアちゃんがボソッと発した言葉の意味が理解できなかった。

親は大変なものだ。
特にユノみたいな活発な男の子は。


でもそれ以上にユノは僕に全力で愛情を表現してくれる。
ちゃんみん、ちゃんみんと。






















"お昼の時間です。
皆様、お弁当を広げてなるべくグループになってお召し上がりください"



先生の声で皆一斉にお弁当を広げだした。




そこには色取り取りのおかず。
流行りのキャラ弁だったり、
デザートに苺などのフルーツまであった。




僕は、持っていたお弁当箱の蓋を開けるのを少し躊躇していた。


『ちゃんみん?』

「ごめんねユノ。
他の子たちみたいに上手にできなかった」

『????』  




パカッ




『わーーー!オレの好きなハンバーグ!』

「……………ユノ」

『唐揚げもある〜』



茶色のものばかり、
冷凍のものもあるし、正直スーパーのお惣菜を詰めたものもある。

色物として卵焼きは頑張ったけど!




それに、




『おっきぃぃぃぃ!!』



ユノの顔ほどあるのではと思えるほどのおにぎり。

質より量の男飯丸出しじゃないか。





"ユノくん、私のママが作ったおかずと交換する?"



う、子どもは素直すぎて時に残酷だ。
ユノのお弁当が余りに不憫に感じたのだろう……



『え、やだ…』

「ユノ…?」

『ちゃんみんが作ってくれたんだから、
オレが全部食べるの!』

"でも、私のママが作ったお弁当の方が美味しそうだよ?"


うッ……
痛いところ突くんだから…


『ちゃんみんが疲れているのにオレのために朝早く起きて作ってくれたんだから、オレが食べるの!
昨日とかその前からいろいろ考えてくれてたんだから!』

「……ユノ………」

『オレはちゃんみんが作ったハンバーグが大好きなの。
それにこんなでっっかいおにぎり作れんのちゃんみんしかいないし♪』



えっと…嬉しいんだけど、
最期のは恥ずかしい!!!








"ちゃんみんさんが好きなのね"

『うん?違うよ?
だーーーーいすきなんだぞ!』

「……………ユノ…」


ボアちゃんの一言でユノの熱弁は終わった。
いや、それどころか今度はボアちゃんに、

『ちゃんみんは優しくて、かっこよくて、ぎゅーしてくれたらあったかいんだよ』

など別の熱弁が始まってしまった。



近くにいたパパさんママさん達には、

すっごく愛されてますね、とか
愛情ちゃんと伝わってますね、など

ニコニコしながら言われてしまった。




僕は、恥ずかしすぎて、
「ははは……」としか返事ができなかった。




『ほら、ちゃんみんも食べないと動物園を全部見れないよ?』

「……うん、そうだね」

『ふふ、ちゃんみんの唐揚げおいし〜♡』

「それはそれは、ありがとう」






























スーッスーッ


スーッスーッ





「全く、はしゃぎすぎだなユノは」


遠足から帰ってきてマンションのドアを開けたと同時ぐらいに、
スイッチが切れたかのようにユノは眠ってしまった。


「相当はしゃいでたもんね」






ユノは男飯なお弁当を褒めてくれたけど、来年の遠足までにはなんとか色取り取りのお弁当を作れるようになろうと決めた。



そう決意して冷蔵庫を開けると、
今朝たくさん作ったハンバーグや唐揚げが
ラップに覆われながら入っていた。





「……夕食用にしてたっけな」






『ちゃんみん……?』

「あれ?起きたの?」

『う〜ん……』


少しポワ〜として目をごしごししながら起きたユノ。


『おなか減った』

「…………ユノ、ハンバーグと唐揚げでもいいかな?」

『…………………』

「やっぱお弁当と同じは嫌だよね?」

『なんで?オレちゃんみんが作るハンバーグも唐揚げもだぁぁぁいすき!』

「…そっか、………ありがとう」ニコッ

『うふふ、ちゃんみんも大好き♡』






「……ッおっと、」




小さな小虎が僕の足元に勢いよく抱きつき、僕のズボンを皺になるんじゃないかと思うほど強く握っている。


僕はユノの頭を撫でながら、
「ユノ、ありがとう。僕も大好きだから」

と言うと、


目を線になるほど細め、
ニッカ〜と笑顔で僕を見上げてくれた。






ユノ、本当に大好きだから。
君の優しさも、君の温もりもちゃんと伝わっているよ。






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