Cside












ハァハァッ


ハァハァッ



ハァハァッ






「すみません!遅くなりました!!」

"シムさんお疲れ様です。
ギリギリセーフです。
ユノくーん、シムさん迎えに来たよー"



ハァハァ…



僕は呼吸を整える。



『あ、ちゃんみーーん!』

「ユノお待たせ」ハァハァ

『オレいい子にして待ってたぞ!』

「………………」ジーッ

『ほ、ほんとだぞ!ね、先生?』

"えぇ、一生懸命お手紙書いてたもんね"

「手紙……?」







僕はシムチャンミン22歳。
社会人1年目で中小企業の総務の仕事をしている。

もともとは営業として入社したが、
ユノが我が家にやってきてから僕の生活は一変した。





ユノは僕の1歳上の姉の一人息子。

今年の梅雨真っ只中の6月に姉夫婦、つまりユノの両親が事故で亡くなってしまった。

ユノとは義兄の両親が喪主を務める葬式に参列した時に出会った。



確か生まれてすぐだったか一度だけ会ったことがあったが赤ん坊の姿だったからユノへの記憶は正直なかった。


姉が子どもを生んで5年ほど経っていたから、ユノの姿を見てすぐに姉の子どもだと分かった。








「ユノかな?」

『…………………』

「僕はね君のママの弟で…チャンミンっていうんだ。ユノが赤ん坊の時に一度会ってるんだよ?」

『………ちゃんみん?』

「そ、チャンミンだよ。
ユノは中に入らないの?」




ユノは葬儀場の入口で一人だった。
階段にちょこんと座り込み、
少し汚れたトラのぬいぐるみを抱きしめながら、泣くこともせず、ただただ真っ直ぐと出席者全員を見ている…そんな視線だった。






『ママとパパをまってる』



そう言ってトラのぬいぐるみをギュッと握りしめていた。






僕はこんな小さな子に現実をどう説明すべきか、言葉が何も出てこなくて、
「そっか」と言って中へと向かった。






























"だからウチはちょっと…"

"ウチもちょっと小さい子は…無理よ"

"やっぱり施設しかないんじゃない?"






葬儀後、僕の親も義兄の親もその他の親戚たちでユノを誰が引き取るかの話し合っている。
話し合っているというか、
擦り付けているって感じ。





それを聞こえているのかどうかわからないけど、ユノは部屋の隅で一人で体育座りをしている。




なんなんだこの空間。
こんな言葉をユノに聞かせたくないし、
親たちも自分の孫を何だと思っているんだ。


確かに姉は18歳という若さでユノを産んだ。
義兄も若かったはずだ。
反対を押し切っての結婚、出産だった。



でも、だからって……


















「僕がユノを引き取るよ」





気が付いたらそう親戚たちの前で宣言していた。






「皆いろいろ事情があるんでしょう?
だったら僕がユノを引き取るから、
もうこんな会話をユノに聞かせないであげて」

"チャンミン…じゃあお願いね"

"助かりますチャンミンさん"




そんな上辺な言葉をかけられ、
いつの間にか部屋に誰もいなくなっていた。


まさに解決したから解散って感じ。








ギュッ






ん?



「ユノ……」

『……………………』




僕のジャケットの裾を小さな手で握りしめているユノ。



「今日から僕がユノのパパだよ」

『パパ…?』

「僕と一緒に住むってこと、わかるかな?」

『……ちゃんみんと?』

「そうだよ楽しみだね」

『たのしみ!』




そうニッコリと笑った笑顔を僕は絶対に守ると誓った。




















あれから6ヶ月後。






「手紙って誰に書いたの?」

『てがみ?』

「さっき保育園の先生がお手紙書いてたって」

『うん!サンタさんにお手紙かいてた!』

「サンタ…さん?」

『もうすぐクリスマスだから、みんなのお家にもサンタさんがプレゼントを持ってきてくれるからって』

「…………………」

『だからお願いごとをお手紙に書いたんだ!』

「…………そっか。ユノはなんて書いたの?」

『それはね………ふふ、ないしょ!
サンタさんへのお願いだから』



























「どうしよう…」

"何?なんか悩み事?"

「……クリスマス」

"クリスマス?"

「ユノへのプレゼントに悩んでる」

"あぁ、ユノくんが来てから初めてのクリスマスだもんな"

「どうしよう…」

"悩んでるなら直接聞けばいいじゃん"

「それができたら苦労はしてないって」

"そんなの?"






同期のキュヒョン。
もともと同じ営業として入社したけど、
僕がユノを引き取ってから部署異動を希望したから今は違う部署。
ユノとも数回会っているし、気を許せる友人だ。





「サンタに手紙を書いてて、サンタさんにしか教えないって言ってて…」

"その手紙を見ればいいじゃん"

「あのなぁ、ユノは5歳だぞ?」

"???"

「つまり、字なんて書けないんだよ」

"なるほどな、ユノくんの独自の文字ってことか"

「ただの棒とか丸とかなんだよ…
はぁぁ手紙に書いたものじゃないものをサンタがあげたなんて、今後のユノの人生にどう影響するか……」

"大袈裟だな。どうにか聞き出せばいいじゃん"

「お前は良いよな気楽で」

"ま、頑張れよ。パパ"





パパねぇ












ユノは僕を一度もパパと呼ばない。
別に強制はさせていないし、
本当のパパが存在していたから、
僕をパパと呼べないことも理解はしている。



でもちょっと寂しかったりもする。





僕はユノに家族として、
認められていないのではないか。
そう思ってしまう……

























12月24日
今年は日曜日。
少し豪華なお惣菜と2人用のケーキを準備した。


子供の頃、クリスマスパーティーなんてしたかな?
記憶にないだけできっと僕も家族とチキンとかケーキを囲っていたはず。








『ちゃんみん美味しいね!』

「そうだね」

『このサラダが1番美味しい!』

「サラダが?」

『おう!』




サラダは僕がただ野菜をちぎって適当に和えただけ。
サラダ以外はスーパーで買ったお惣菜。
なのにサラダが1番美味しいだなんて…

もしかしてユノは僕に気を使っているんじゃないだろうか。
そう思うと胸が苦しくなった。










「ユノ、もう遅いよ早く寝よう」

『でもサンタさんが…まだ来てない』

「サンタさんはユノが寝ないと来てくれないよ。良い子のお家にしか来ないからね」

『!!!!!オレ良い子だぞ!
今すぐ寝る!!ほら、ちゃんみん早く!』

「はいはい。あ、歯を磨いて」

『おう!』








結局僕は無難なプレゼントを用意した。
おもちゃ屋さんに行き人気のおもちゃは既に売切。

「みんな準備早いな…来年はもっと早く行動しないと」

でもユノの好きなヒーローのトンレンジャーの変身グッズがあったから迷わず購入。


「喜んでくれるといいな」



















『ちゃんみん、サンタさん来てくれるかな?』

「ユノが今年良い子で過ごしたなら来てくれるよ」

『オレ…良い子……だった……?』

「ユノは良い子だよ」

『よかった…………』



スーッスーッ



スーッスーッ







シングルベッドに僕とユノは二人並んで眠る。
ユノ用のベッドを買おうか迷ったが、
もともと一人暮らしの僕の部屋にベッドを2つなんて無理な話で。
ユノも一緒に寝たいと言ったから、今は二人並んでいる。

5歳児が一人で寝るなんて難しいよね。








そうしていつもより30分ほど少し遅くに寝たユノ。
小さな身体が寝息とともに動くのすら愛らしい。




そして僕はユノに気付かれないようそっと布団から抜け出し、ユノの枕元にプレゼントを置いた。







「ユノ、メリークリスマス」









































『ちゃんみーーーーーん!!!』





「………騒がしい。朝からどうしたの?」




ベッドの上でジャンプをし盛大に僕を起こしてくれる怪獣……ではなく、ユノ。



『プレゼント!プレゼントがある!!』

「良かったね。ユノが良い子だったからサンタさん来てくれたんだね」

『うわぁぁぁぁ!!
トンレンジャーの変身グッズだぁぁぁ!!
サンタさぁぁん!!』

「ちょっ、騒がないで……」グッタリ



全身で喜びを表現するユノを見て、
サンタになるのも悪くないなと思った。








『あれ?ちゃんみんは?』

「ん?」

『ちゃんみんのプレゼントは?』

「???」

『ちゃんみん良い子なのになんでプレゼントないの?』

「え?あぁ…僕はサンタさんにとっては良い子じゃなかったのかも。
ほらユノ、保育園に行く準備をしよう」

『………………』

「ユノ?」

『………………ちゃんみん、これあげる』

「え?これはユノがサンタさんにもらったトンレンジャーの変身グッズでしょう?」

『……………だってちゃんみんの方がオレより良い子だもん。
サンタさん間違えちゃったんだよ。
本当はちゃんみんにあげるものだったはずだよ』

「ユノ…」

『だから、はい』






ちょっと泣きそうになりながら、
僕にトンレンジャーの変身グッズを渡すユノ。

なんて優しい子なんだろう。



いつもは怪獣みたいに走って暴れてってしているけれど、
本当に優しい子。







「ユノは優しくてすごく良い子だね」

『…………………』

「だからサンタさんもユノにトンレンジャーをプレゼントしてくれたんだよ」

『でもちゃんみんは?』

「僕には、ユノがいるから」

『???』

「ユノが僕の側にいてくれることが、
僕にとってのプレゼントだから」

『よくわからない…』

「ふふ、実はねサンタさんには、
ユノとこれからもずっと一緒にいられますようにってお願いしていたんだ」

『……ほんと?』

「うん。だからサンタさんは僕にユノというプレゼントをくれた」

『………………ちゃんみん』

「最高のクリスマスプレゼントだよ」




そう言って僕はユノを抱きしめた。




『ちゃんみん……』

「ユノ、大好きだよ」

『オレもちゃんみんだいすきぃぃ!!』




小さなユノの手が僕の背中までは届かなかったけど、
だけど小さいながらに、僕を抱きしめてくれるユノ。

僕にとってユノは本当に大切で、
守り抜きたい…そんな存在。



















『せんせーい!おはよーございます!』

"ユノくんおはよう。
今日も元気いっぱいだね"

『ふふ、サンタさんが来てくれたんだー』

"そっか、良い子だったもんね"

『うん!じゃあねちゃんみーーん』

「はい。また夕方ね」

"シムさんおはようございます"

「先生、おはようございます。
今日もユノのこと宜しくお願いします」

"あの。ユノくんのサンタさんへのお手紙の件なのですが"

「………はい…?」




少し前に保育園の先生にユノがサンタに書いた手紙の内容が分かるかリサーチしていた。
その時は先生もやはりわからないとお手上げ状態だったはず。




"昨日、ユノくん教えてくれたんです"

「えっ?!」

"声を出してお手紙を読まないと、サンタさんには伝わらないって言ったら焦って読んでいました"

「…………その手がありましたね」



さすが子供慣れしている先生は違うな。



「で、ユノはなんて?」

"それが……………"



















"どうだった?サンタになった気持ちは?"

「悪くないよ。来年も、再来年もユノのためにサンタになる」

"へ〜さすがパパ。
で、結局ユノくんはサンタにお願いしたプレゼントって何だったわけ?"

「あーまぁなんでもいいじゃん♪
ほら仕事しろキュヒョン」

"はぁ?"








保育園の先生いわく、


"ユノくん、
『サンタさんへ、プレゼントはいらないからその代わり、ちゃんみんとずっと一緒にいたい』ってそうお手紙書いたみたいですよ"

「ユノが……?」

"ユノくん、シムさんのこと大好ですからね"

「…………そうですか…ありがとうございます…///」















今日も残業せずに定時で帰って、
ユノの好きなハンバーグでも作ろう。


口いっぱいに頬張りながら食べるユノを想像しただけで僕は幸せな気持ちになった。






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