Cside












"シムくん。今までありがとう"

「それは僕の台詞です。部長には入社当初からすごくお世話になりました。なんてお礼をお伝えしたらいいか…」

"何を言っておる。ところで次のところは決まっているのかい?"

「それが決まってないんです」

"シムくんのようなしっかり者が?"

「ふふ、暫くゆっくりしようかなと思いまして」

"そうか。7年近く働き続けたからね。ゆっくりするといい"

「ありがとうございます。
本当にお世話になりました」ペコリ













僕は今日、新卒からずっとお世話になったこの会社を退職する。



"やりきったって顔だな"

「キュヒョン…まぁね。導入したかったシステムも、構築すべきだったフローも完成したから僕はもういいかな」

"そんな会社のためにユノヒョンとのニューヨーク行きを断ったなんて、ユノヒョンが知ったら泣くぞ?"

「…………ユノヒョンはそんな人じゃないよ」

"で、1年越しだけど行くんだろ?"

「…………………うん」

"ユノヒョンは何て?"

「実は伝えてない」

"はぁ?サプライズかよ?!そんなキャラじゃねぇじゃん!"

「サプライズ……とは違うかな。
なんていうか、怖い………から」

"怖い?"

「1年だぞ?もしかしたら僕のことはもう好きじゃないかもしれない。別の…人を好きになっているかも。恋人ができていたり、ないしは結婚なんてことも」

"ユノヒョンならブロンズヘアーのスレンダー美人と付き合うなんて朝飯前だろうし?"

「……………………」

"チャンミンから話を振ったくせに俺が乗ったら落ち込むんかよ"

「……………そういうわけじゃ、」

"大丈夫だよユノヒョンは。
チャンミンしか見ていないってか見えないと思うけど?"

「何その自信?」

"俺様の目に狂いはない"

「ま、今の営業部のトップ成績保持者のキュヒョン様が言うだ、受け流しておいてやるよ」

"最後の最後にユノヒョンに営業のノウハウを叩き込まれたからな"

「当時の残業エグかったしw」

"ニューヨークに行っても連絡しろよ?
帰ってくるってなったら尚更!"

「わかってるよ」














明日、僕はユノヒョンがいるニューヨークへ旅立つ。
どんな未来が待ってても、
僕は逃げない。




もう家も追い払って、家具も全て廃棄した。




僕に戻ってくる場所はもうないんだ。






































「excuse me. I want to go here, where is the subway?
すみません。ここに行きたいのですが、地下鉄はどこでしょうか?」

"If so, take this subway and you'll be there in about 40 minutes.
それなら…ここの地下鉄ですね。大体40分ぐらいで着きますよ"

「thank you!
ありがとうございます!」

"have a nice trip. I wish you good luck!
良い旅を!"







簡単な英会話を習得しておいてよかった。
スマホの地図を見せながら、
街行く人に声をかけてみた。



ニューヨーク支社があるのはここから40分ほどらしい。



「40分もしたらユノヒョンに会えるかもしれない」


そう思うと不安よりもドキドキが勝って、いてもたってもいられなくなった。




















「ここだ…」



ニューヨーク支社の前に到着した。
想像よりも遥かに高くて立派な建物にさすがニューヨークと思ったし、
こんなすごいところでユノヒョンは働いているんだと思うと、
なんだか身体がブルッと震えた。











エントランスにあるテナント一覧を眺めながら、
何階かな〜と視線を左右、上下に動かしていると、






『I will email you as soon as I get to my desk. Jody, I want you to be ready to put together a proposal and submit it.
俺はデスクについたらすぐにメールする。ジョディは企画書をまとめて提出する準備をしておいてほしい』

"OK!Yunho!!"

「ユノヒョン……」



たまたま外からビルに入ってきたユノヒョンをエントランスで見つけた。
ユノヒョンは少し小走りで一緒にいる女性とスマートな英語で会話を交わしている。







「あ……ユノ、ヒョン……ヒョン!」



僕の声にユノヒョンは気付かない。



そのことが相当ショックだったからか、
僕はその場から足が動かない。

行っちゃう…
ユノヒョンがエレベーターに乗ってしまったら、永遠に会えないんじゃないかとさえ思えて仕方なかった。




少し痩せたように見えるユノヒョン。
自信に満ちた瞳で以前よりもさらに男らさが溢れている。







"Hey!Yunho.Isn't that person Asian like you?
ねぇ、あの人ユンホと同じアジア人よね?"

『えっ?アジア人?ッチャンミナ?!!』

「あ、えっと……ひさしぶり…?」

『えぇぇ!!えっ?!』



ユノヒョンは駆け足で僕に近寄り、
僕の頬や髪に優しく触れた。



『本物?!ほんとにチャンミナ?
俺の夢?妄想?幻覚?!』

「えーと……本物…かな」

『チャンミナっっっ!!!!』



エントランスのど真ん中にも関わらず、
僕を力いっぱい抱きしめてくれたユノヒョン。
それだけで僕はニューヨークに来てよかったと思えた。




肺一杯にユノヒョンの香りを取り込み、
ユノヒョンを堪能した。
肺だけじゃない。
ユノヒョンの声に耳は喜び、
肌が触れ合う頬は火傷しそうなほど熱い。
シレッと腰に回した手は宝物を包んでいるかのようだ。



これほどまでにユノヒョンを求めてた。


ねぇユノヒョン。
僕はもう決めたんだ。





「ユノヒョン。二度と離れたりしないよ」





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