Yside











"なんかさー元カレがより戻したいとか言ってきてんだけど?"

"は?向こうから別れたいって言ってなかった?"

"そーなの。やっぱりお前がいいーだって"

"キモいんだけど?で、どーすんの?"

"いやいや、どうするも無いから。
戻るわけ無いじゃん。別れ話したくせに調子乗んなって言うつもり"

"さすが♪"






あの〜
この状況は不味くないか?


駅のホームに入ってきた電車にチャンミナと乗り、いつもなら混んでいる車内も運良く二人分の席が空いていたから座ったのだが、


隣の大学生?くらいの女性二人が
チャンミナの耳に入れたくない会話をしている……






チャンミナお願いだから聞かないでくれ!
俺は今すぐにでもチャンミナの両耳を塞いでやりたいぐらいだった。




でもそんなこと車内で出来るわけないし、
もしやってしまったらチャンミナが顔を赤くしながら怒ってしまう。


………想像したら可愛かった。











「ユノヒョン…どこまで?」

『ん?』

「降りる駅どこ?」

『あぁ、過ぎてるよ』

「えっ?!じゃあ次の駅で戻らないと!」

『今日はチャンミナを家まで送るよ』

「え…?」

『チャンミナに聞いてほしい話もあるし、もし良かったらチャンミナの家に上げてもらえないかな?』

「…………………」

『だめ?』

「話って……なに?」

『それは後で』

「…………………わかった」

『ありがとう』




チャンミナは下を向きながら小さな声で了承してくれた。

少し強引だったか?



もしかして怒ってる?











二人並んで座っているから、
チャンミナの顔を確認することができない。








でも、


チラッと視線だけチャンミナに向けると、
真っ赤になった耳が見えて、
怒ってないんだってわかった。


その態度に、その姿に、



たまらなくキスがしたくなった。





















暫くするとチャンミナはスッと座席から立ち上がり、

「この駅だよ」

『おぉ、』


チャンミナの言った駅は俺の最寄り駅から8駅ほど離れた駅だった。




『なんだ、割りと俺たち近いじゃん』

「ユノヒョンは都会な駅で、僕は田舎駅だよ。改札なんて3つしかないし」



ピッ



『不便か?』



ピッ




「朝は改札前でかなり混むから」

『なるほどな』





俺はチャンミナの後ろを付いていく。





「右、」





「ここを左」








「……このアパート」

『駅近じゃん』

「だから田舎駅を選んだんだよ」

『ふーん…ッて、オートロックじゃねぇの?』

「男なんだからオートロックなんて必要ないよ」

『いやいや、チャンミナには必要だから!』

「…………何を…とりあえず入って…」

『…………おじゃましまーす』



チャンミナの家は、
5階建ての3階角部屋。

オートロックは無いけど比較的新しい建物だった。




玄関の扉を開けて入るよう俺を促すチャンミナ。
玄関からわかる。


『めっちゃ綺麗にしてる』

靴はすべて片付けられ、
玄関に不要なものがない。


俺なんて靴何足出しっぱなしだっけ?


「そこに座ってて、飲み物でも準備するから」

『あ、お構いなく』



せっせとケトルを準備するチャンミナの後ろ姿を筆頭に、
端から端まで隅々と部屋を見渡す。


ここにチャンミナが一人で住んでんだ…



付き合ってた時は実家暮らしだったから、
チャンミナの家に行ったことがなかった。
いつも俺の家で、ゴロゴロ…イチャイチャしてたなぁ




ん?







なんのキャラクターか分からないフィギュアが綺麗に陳列されている棚に近付いた。
そこにはフィギュアだけでなく、
漫画本も綺麗に並べられていたんだけど、



「ユノヒョン…何し…ッッ!!!!!」

『あ、チャンミナこれ…』

「っ!見ないでよ!!」

『ごめん…、でもたまたま見えて…』



バッ!!!!





俺が見つけたのは漫画本でも、フィギュアでもない1枚の写真。
それをチャンミナは俺から奪った。



「………………」

『チャンミナ、それって』

「………………」

『俺だよな…?』

「………………」

『チャンミナ?』



写真に写っていたのはどう見ても学生の俺一人と桜の木が写っていた。


桜の花びらが舞う季節。
あのころの俺って…チャンミナと付き合ってなくないか?
俺たちが付き合い出したのは夏前だったはず。



じゃあなんでチャンミナが付き合う前の俺の写真を飾ってんだ…?





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