Cside












「うわぁぁ♪」

『こら!走らない』

「ぶー。子供扱いしてる…」

『心配してんの。迷子になったら困るだろ?ほら、』 

「……………ん、」





ユノは僕に手を差し出し僕はユノの手を握る。











今日は新年のご挨拶に神様のお家でもある神社へユノとやってきた。
駅から神社への道中、
屋台のたこ焼き、ベビーカステラなどに僕はテンションが一気に上がった。


テンションが上がって走り出そうとした僕に冒頭のユノの台詞ってわけ。









子供扱いで手を繋ぐなんてバカにされているみたいだけど、
街中で、しかもこんなに人が大勢いる中で手を繋ぐなんて、
恥ずかしいけどちょっぴり嬉しかった。





僕たちはお世辞でも都会とは言えない郊外の田舎街で暮らしている。
空気が綺麗で、自然豊かな街。
ユノが僕のためを思って選んだ街と家。


知り合いは、近所のおばあちゃんとおじいちゃんぐらい。





でも今日は初詣ということで、
少し遠出をして大きな神社へとやってきたのだ。




「ここが神様のお家…」

『あの神様かどうかは分かんねぇけどな』

「それでも神様は見てくださってますよ」

『…………だな』




神様…
もともと僕は捨てられる運命のマネキンだったのを、ユノと出会わせてくれただけじゃなく、僕を人間にまでしてくださった。


僕にとってとっても大切なお方。




そんな神様に去年のお礼と今年の抱負をお伝えしに神社へとやってきたのだ。






















「神様、去年は本当に感謝しきれないほどお世話になりました。僕は今もユノと想いを重ね幸せに暮らしています。今年も変わらずユノが幸せになれるようサポートしていきます。ですので神様、僕の願いはユノの幸せです。ぜひユノの願いを叶えてください」




パンパンッ







"そなたは変わらないな…"クスッ





「…………え?今…」

『チャンミン行くぞ?』

「あっうん!」

『随分長く祈ってたな?何を願ったんだよ』

「ふふ、ナイショ♪」

『なんでだよー』

「ユノは?ユノのお願いはなんだったの?」

『俺?俺は勿論チャn…』



"ねぇ!あれってモデルのチャンミンじゃない?"

"絶対そうだよ?!やばっめっちゃ綺麗!"

"綺麗だけど、格好いい!"

"え?じゃあ隣にいるのって…噂のチョンユンホ?待ってめっちゃ格好いいんだけど"





近くにいた女性数名に僕たちのことがバレてしまった。
こんなに人がたくさんいる中で、
騒ぎを起こす訳にはいかない。


それはユノも同じ気持ちだったようで、






『チャンミンちょっと走れる?』

「うん…」

『手、離すなよ?』







そう言ったユノは僕の右手を握り、
人混みの流れとは逆走するかたちで走った。
僕はユノのスピードに合わすのに必死で、
学生時代の100メートル走を思い出すほどたった。



普段、部屋にこもって作業しているくせに何故か体力とか筋肉がすごいユノ。
今も僕は全速力なのに対してユノは軽々と走っているに違いない。




そうして必死に走っていると、
すれ違う人の肩に思いっきり当たってしまった。




「痛っ!」

"すみません。大丈夫ですか?"

「……はい、僕こそ当たってしまって…申し訳ないで……す」

"いえいえ"








あれ……?



ユ、ノ?






嘘…
はぐれてしまった?










僕がさっき知らない人と肩をぶつけてしまった反動で手を離しちゃったんだ。


どうしよう…
この人混みでユノを探し出すなんて…
ほぼ不可能だよ。






「あ、スマホ!……ッ家に忘れてきた…」







家を出る直前にコートを変えたんだった。
きっと変える前のコートのポケットにいれっぱなし…



うぅぅ、



ユノ…
















"大丈夫?"

「……………」

"えっ?!ちょっ泣いてんの?!!"

「あ、すみません…ちょっとはぐれちゃって」

"………………あれ?もしかしてモデルのチャンミン?"

「えっと・・・その、」

"ここだと人に押し潰されちゃうから、
こっちへ"

「えっ?!あ、りがとうございます…」






よくわからないけど、
歳はちょっと上かな?ぐらいの男の人が助けてくれた。
パッと見た感じ紳士的で落ち着きのある人。
僕がモデルをしているってことに気づいたにも関わらず騒がず僕を人気のない静かな場所へと促してくれた。






"はぐれたって電話は?"

「スマホ忘れてしまって」

"じゃあ俺のスマホ貸すから電話しなよ"

「ありがとうございます!……ッ」

"どうしたの?"

「番号……覚えていないです……」

"あー・・そうだよな"

「………………ッ」




やばい、涙が出てきちゃう。









"ちょうどいいや、じゃあさ一緒に遊ばない?"




ん?




「えっと…僕知り合いと……」

"わかってるよ。でもはぐれてたんでしょう?
だからさ2人で遊べばいいじゃん?"

「はい?」

"モデルのチャンミンでしょう?
だったら男との遊びっていったら何か知ってるでしょう?"

「えっとそれって…」

"分かんない?ホテルにでも行こってこと"

「!!!!!!」

"男が好きなんでしょう?
正直初めてだけど、チャンミンめっちゃ綺麗だしイケる気がするんだよね"


「……ッ!!?!」


"男とセックスしてるんでしょ?"

「っ!!?!!やっ!触らないで!!」

"嫌がってる姿は可愛くていいね"



ゾクッ



いやだ!怖い!!
ユノ!助けて!!!



「ユノーーーー!!!」

"煩いな、楽しいことしよーよ"

「やだやだやだやだ!!ユノーーーー!」

"ここで騒いでも聞こえないよ。
諦めな?"




最悪だ…




ユノと逸れ、そのうえ知らない男の人にのこのこ付いていき、
あげく意味不明なことを言われている。







グスッ

神様すみません。
先程、ユノの願いを叶えてくださいとお願いしたところですが、
僕を助けてはいただけませんか?




自分勝手で我儘ということは百も承知です。







どうか、



我儘な僕をお許しください!














"ほら、行こ?"

「やっ!触らないでください!!」

"はぁ、手荒な真似はしたくなかったけど、これ以上騒ぐようなら仕方ないな"

「…………どういう…意味で、すか?」

"口で言っても分からないなら力で分からせるだけってことだよ"

「…………それって…」





僕は恐怖で足が竦んでその場から全然動けなかった。
そんな僕を見て男は鼻で笑い、右手を大きく振り上げた。








やばっ殴られる…





ギュッと目を閉じた瞬間、


















『何ふざけたことしてんだよ』

"…っ痛っ"



痛みが伴うと思っていたのに、
一向に痛みが来ないどころか、ユノの声がした。



ゆっくり閉じていた目を開くと、
そこには右手を上に振り上げている男の腕を掴んでいるユノの姿があった。



「………ゆ、の…」

『探したぞチャンミン』

「ふ、う……ぅぅごめ、ん」

"痛っ!何るんだよ!?"

『それはこっちの台詞だっつーの。
俺のチャンミンに触ってんじゃねーよ』

"俺の?あぁ、あなたが恋人のデザイナーか"

『そうだよ。ふざけたマネしやがって』

"申し訳ないが喧嘩では負けたことないんだよね。
悪いが痛い目に遭いたくないなら、さっさと消えたほうがいいよ"

『喧嘩ねぇ。あんたダサいな』

"なに?!"

『暴力で人を支配しようとしてんなよ。
そんなことで俺の大切な人を差し出すわけねーだろ』


「ゆの…」キュンッ


"こんなに綺麗なチャンミンを独り占めしやがって"

『は?』

"男好きってだけでチャンスあったのに、
デザイナーごときに渡してたまるかよ"

『…………お前まさか…』




男の右手はユノにずっと掴まれていたのに、左手でユノのお腹をめがけて手を振りかざした。

「ユノ!!!!!」



"うっ!!"



「ふぇ?」



"く、……っ"

『悪いが、俺は合気道の世界大会3位なんだよ。ま、ガキの頃の話だけど』

"………………クソッ!!!!!!!"


ユノは殴りかかってきた男を片手でいとも簡単に投げた。
背負投?っていうのだろうか…
僕は合気道とかテコンドーを習っていないからよくわからないけど、


とにかくユノは一瞬で男を退治した。


一瞬の出来事過ぎて、
瞬きもできていない。


ただただユノが格好よかった。









暫くして、警察が来て男は連行された。















『はぁぁぁチャンミンが無事で良かった』

「うん。助けてくれてありがとう」

『いきなり手が離れてビビったよ』

「本当にごめんなさい」

『携帯に連絡しても出ないし、』

「あ、家に忘れたみたいで」

『…………はぁぁぁぁ』

「迷惑かけてごめん…」シュン…

『別にいいよ、チャンミンに何があろうと俺が守るから』

「ユノ…」

『あーー、でも新年のお願い早速使っちまったな』

「お願い?」

『チャンミンをずっと守ってくださいって願ったんだよ』

「ユノ……」

『新年早々願い事叶えてもらっちまった』

「…………………ごめん、」

『ん?』



ユノは僕のことを願ってくれたのに、
僕は咄嗟に自分のことを助けてほしいと願ってしまった。



「神様…僕は憐れです、命の恩人でもあるユノを想うはずが…咄嗟に……自分の…うぅ」

『チャンミン?!』

"そなたの願いは、この男の幸せだったはずだが?"

「……………神、様?」

"この男の願いを叶えてほしいと聞こえたのだが…"

「はい、でもあの男に襲われそうになったとき咄嗟に僕を助けてほしいと願いを変えてしまいました。僕は憐れです。
大切なユノを…」

"そんなこと聞こえなかったが?"

「へ?」

"本殿の前で言った願いしか聞いていないが"

「…………………」

"そなたの願いは、このチョンユンホの幸せ、そうであろう?"

「…………は、い。でも…」

"よってそなたは憐れでもなんでもない。
ただの…恋人を想っている人間じゃ"

「神様…」

"ではでは、私はまた本殿に戻るよ。
たくさんの祈りを聞かねばならないんでね"

「………ありがとうございます」





僕は姿は見えないけど、
神様に手を合わせ一礼した。








『神様いっちゃったな』

「うん」

『いっつもいいとこ取りするんだよな』

「ふふ、いつも見守って下さってる証拠だよ」

『ま、そういうことにしとくか』

「ユノ、もう一度神様にご挨拶しに本殿に行ってもいい?」

『あぁ、そうしよう』







そうして僕たちはもう一度本殿へと向かった。




















あとから聞いた話だと、
男は僕の熱烈なファンみたいで部屋の壁一面に雑誌の切抜きを貼っていたようだ。

ファンというか僕を恋愛の対象で見ていたみたいだ。






『俺たちの存在に気づいた女性たちが神社にいることをSNSにアップしたみたい。
それを見たあの男がたまたま同じ神社にいてチャンミンを探したみたいだ』

「そうだったんだ」

『奴の家は俺たちの家からそう遠くはないらしい。どうする引っ越すか?』

「………ううん。大丈夫」

『本当に?』

「この街が好きだし、
それに僕には合気道世界大会3位のユノがいるから大丈夫!」

『世界大会ってもう15年以上前の話だぞ?』

「それでも、ユノは僕を守ってくれる。
でしょ?」

『…………あぁ、守るよ。絶対に』

「ふふ、ありがとう」





チュッ




『よしチャンミン!今からベットに直行だ!』

「今からってまだ夕方だよ!?」

『夕方……ちょうどいい。今からだと10回はできるな♪』

「じゅっ?!!無理!死んじゃう!!」

『俺の幸せを願ってんだろ?だったらな?』

「ひぃぃ!!ちょっ、!!」






そのまま僕はユノに抱き上げられ、
寝室のベットに運ばれた。


スプリングの効いたベットに降ろされた瞬間、
僕の唇、頬、耳、そして首へとチュッチュッとリップ音をたてながらキスをするユノ。
少しうっとりとした僕を見て、



『朝までコースになりそうだな』ニヤリ

と口角を上げ超絶イケメンの顔で見下された。


これは…ガチのやつだ………



「ッ神様!僕をお守りくださいッ!
このままじゃ死んじゃいますぅぅぅ」





"ハァァ……そんなことで願いを使うでない。
私には聞こえなかったことにするよ"




『覚悟しろよチャンミン。
朝までまだまだ時間があるからな〜』





「ギャーッ!!ユノ!!っあ、ん♡」

『チャンミン。愛してるよ』





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