Yside










「美味しいですぅぅぅぅ♪」

"お口に合ってよかったわ〜
チャンミンくんったら美味しそうに食べてくれるから作った甲斐があるわよー"

「美味しそうじゃなくて、本っっ当に美味しいんですよっ!!」

"あらあら嬉しいわ〜"

『…………………』




チャンミンは母ちゃんの作った何気ない煮物や炒めもの、あと味噌汁を食べて大きな瞳をウルウルとさせながら母ちゃんに向けて上目遣いをしている。




"チャンミンくんってば可愛いのね〜
もっと食べてね!"

「ありがとうございますぅぅ♡」

"こんな可愛い子がユノとなんて、
勿体ないぐらいだわ〜"

『…………………』



なんだろう。
チャンミンの上目遣い攻撃にヤられてるところを見ると、
やっぱり母ちゃんと俺って親子なんだなと改めて思う。



それかチャンミンが天性の小悪魔なのか…












『両方だな』

「なひはでふか?」モグモグ

『いや、別に』

「???」モグモグ




リスやハムスターみたいに口いっぱいに頬張っているチャンミン。
それを横目に呆れている俺。



そんな俺たちをニヤニヤと煩い顔で見ている母ちゃん。






この構図は予想外だ……


























「お邪魔しました」

"またいつでも来てね。
ユノ!定期的に帰ってきなさいよ!"

『わかってるよ』

"わかってないからこうやって言ってるんでしょうがっ!"

『今度からはちゃんと帰るから』

"チャンミンくんも、定期的に来てね。
おばさん今日以上に腕を振るうから"

「ありがとうございます。
本当にどれも美味しくて…ユノさんが羨ましいです」

『普通だよ』

「僕にとっては"普通"じやないので…」

『…………悪い…』

「いえ…」

"…………チャンミンくん?"





母親の飯を食うことを普通としていないチャンミンの言葉に母ちゃんは不思議でならないみたいだ。
俺だって初めは知らなかったし、
聞いたとて不思議で仕方なかった。
あの母親に直接会うまでは……







「僕の母親は僕に手料理…だなんて
中学を卒業する頃にはなくなっていました。ほとんどがコンビニか外食、たまに妹が分けてくれていました」

『チャンミン……』

「忘れかけていましたが、
やっぱり手料理って温かいですね…」

『……………………』

"……………チャンミンくん…"






たったこの言葉だけで、
母ちゃんは何かを察したみたいだ。






「すみません暗い空気にしてしまいました」

『別に』

「また来ます。その時は、」

"ユノと一緒じゃなくても、
チャンミンくんだけでもいいのよ。
いつでも来てね"

「…………ありがとうございます…」グスンッ

『母ちゃん…』

"長居させちゃったわね。
終電大丈夫かしら?"

『やばいかも。じゃあまた』

「失礼します」ペコリ









俺とチャンミンは駅に向かって歩き出した。



何かを話すってわけでもなく、
ただ真っすぐ前を見て。






小さな田舎の小さな駅。




駅前は発展を遂げてはいるけど、
駅自体は昔のまま。
暗い中ポツンと佇んでいる姿が見えてきたその時、






"ユノ!チャンミンく〜ん!!"

『ん?』

「後ろから声…が?」




揃って振り向くとそこには、
結構な全速力で俺たちに向かって走っている母ちゃんがいた。




『母ちゃんっ?!!』

"間に合った……"ハァハァハァ

「どうしましたか?」

『忘れもんか?』





俺は咄嗟にパンツのポケットに手を添え、
スマホと財布を確認した。




なんだ忘れてねぇじゃん。






じゃあチャンミンが忘れ物か?
珍しい。












"チャンミンくん……ハァハア…これ…を……"

「…………これ…?」

"余ったお惣菜で申し訳ないけど、
タッパーに詰めたわ。
あとおにぎりも。電車の中で食べて。
電車て食べなくても、冷凍しても大丈夫だから"ハァハァハァ

「…………………」

『…………母ちゃん』

"お節介だったかしら?"




まさか母ちゃんがチャンミンの為に余り物をタッパーに詰め、
おにぎりを作り走って来てくれただなんて…




『ありがとう…チャンミン食うだろ?』

「…………………」

『チャンミン?』

"チャンミンくん?"





下を向いて何も言葉を発しないチャンミン。



でも、




僅かだけど、肩がプルプルと震えている。











「あ…、ありが…っとござ……ッいま、す」

"チャンミンくん?"

「僕…嬉しすぎて……どうしたらいいか…」

『チャンミン……』

「大事にいただきますっっ!!」

"そうしてくれると嬉しいわ"







そう言ってどこのブランドか分からない紙バッグに入った複数のタッパーとおにぎりを両手で大切に持っているチャンミンを見ると、
もっと早くに母ちゃんに会わせておけばよかったと少し後悔した。


















『まじで今食うのか?』

「温かいうちに食べないと」

『あっそ…』



KTXに乗りソウルに向かう道中、
あんなに俺ん家で飯を食ったというのに、
受け取ったおにぎりを早速食べているチャンミン。


どんな胃袋してんだよ全く……








それでも嬉しそうに食べているチャンミンを見るとそんなことどうでもよくなるし、
もっと見たい。

なんて思ってしまう。







それにしても、


なんでこんな食ってんのに太らねぇんだよ…






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