Yside









"じゃあな、たまには顔出せよ?"

『はい』

"あと、俺様の結婚式には呼んでやるよユノや"

『え、ちょっとそれは……』




ヒョンの結婚式なんて破茶滅茶になりそうだし、それにヒョンのキスシーンなんて見たくない!



"俺様からのブーケトスをもれなくユノに投げてやろうと思ったのによ"

『いやいやブーケトスは新婦がするから』

"どっちがやろうと関係ねぇよ"




やっぱり破茶滅茶だ。









「ヒチョルヒョン、妹をよろしくお願いしますね」

"おうチャンミンも、ユノをよろしくな"

「………はい」









駅前のロータリー、
ヒチョルヒョンは俺とシムを見送るとは言ったものの、
あっさり"じゃあな"と行って去っていった。


なんか明日もまた会うみたいなそんな感じのテンションだった。




シムの家を出るとき、
シムの母ちゃんは俺を汚いものでも見るかのような視線で頭の先からつま先までを舐めるように見ていた。
まぁシムの友達にしては仮にも類友とは呼べない俺の身なり。
何者なのか見図られたんだと思う。




でもヒチョルヒョンが、
"俺様の可愛い後輩"と軽く紹介してくれたからか、シムの母ちゃんは俺に向かってニコッと笑ったから、
ヒチョルヒョンの効果は抜群みたいだ。
にわかに信じがたかったヒチョルヒョンの結婚話も真実なのだと納得せざるを得なかった。













『……………帰るか』

「そうですね」



お互い地元に戻ってきたにもかかわらず両手が空っぽ状態がなんだか笑える。
シムは元々日帰り予定だったし、
俺に関しては突拍子の無い行動だったからまぁ荷物なんてあるはずがない。







ソウルの地下鉄とは違って田舎の電車はほとんどがボックス席になっている。
俺の隣の席になんの迷いもなく座ったシム。


体ごと窓に向け、
移りゆく景色を見つめている(と思う)
一体何を考えてる?









『まさかヒチョルヒョンがシムの従兄弟だったとはな』

「………………えぇ」

『全然キャラ違ぇし、
しかも結婚となると義理の弟がヒョンだって、シムも大変だな』

「………………はい」




なんだかわかんねーけど、
気まずい空気。









「チョンさんはどうして来たんですか?」

『は?だから何度も言ってっけど、
シムを迎えにだな』

「どうして迎えに行てくれたんですか?」




こっちを見ずに窓に顔を向けながら、
俺に話しかけるシム。





ん?







シムの丸い後頭部越しでも分かる特徴的な耳が、真っ赤に染まっている。



『………シム耳が…』


そう俺は話しかけながらシムの右耳に触れた。
だって火傷してしまうんじゃないかってほど赤かったから。



でもそれが悪かったんだろう…





「!!!!!ッ」ビクッ

『あ、悪い』




驚かしてしまったみたいだ。




『なんか、すんげー赤くなってっから…』

「あ、」



すぐさま両耳を両手で隠すように覆い、

「恥ずかしいとすぐ赤くなってしまうんです……」

『……………そうなんだ…』





はて?何が恥ずかしいんだ?
耳を触られたこと?
いや、赤くなってっから触ったわけだからそれは違うはず。






『なぁ、何が恥ずかしいんだ?』

「………そんなの…あ、お弁当!
すいませーんお弁当お願いします!」

『おいシム…』

「チョンさんも食べますよねお弁当」

『まぁ』

「お弁当2つお願いします。
僕は鮭弁当で、チョンさんは?」

『幕の内…』

「お願いします!…………ありがとうございます」



車内販売の弁当を2つ購入し少し満足げなシム。
つーか話途中だったよな?





パクパクと一定の速度で弁当を口に運ぶシムをジッと見ているとまたしても、


「だから恥ずかしいですってば」






やっぱり恥ずかしいみたいだ。
でも何故だかわからん。






『なぁさっきから何が恥ずかしいんだよ』

「……………そんなの、」

『そんなの?』

「わかるじゃないですか」

『いやいや、わかんねーから聞いてんじゃん。頭良い奴は人の脳内までわかんのかよ』

「そういう意味ではなくてですね、
その…だからその……」

『………………』




モゴモゴと切れの悪い言葉を並べるシム。




『なんだよ!』



ちょっとイラッとして大声を出してしまった。
幸い車内には人は1人しかおらず、
チラッと見られたがすぐに寝る姿勢になった。




「チョンさんが僕を迎えに来てくれたって事実が嬉しくもあり、恥ずかしいです!」

『………///』

「ただの日帰なのに迎えに来るだなんて」

『日帰りなんて知らなかったし』

「日帰りでなくても、
迎えに来てくれるってこと自体が……
ってチョンさんはどうして迎えに来てくれたんですか?」

『それは…
昨日シムとちょっとケンカっぽくなってしまったし、その上地元に帰るだなんて言うし』

「…………………」

『なんか永遠に帰ってこねぇみたいに思ったんだよ』

「そんな…」

『別にちょーっと思っただけだから!』

「……………ふふふ」

『それに写真…』

「写真?」

『荷物、スタジオに届いて開けたんだ』

「…………………」

『シムの許可は得てるってホジュニヒョンが言ってたから!』

「別に開けてもらっていいですよ」

『………………そしたら俺の横顔がデカデカと写されてて』

「はい」

『いつ撮ったんだよって思って』

「はい」

『そしたらタイトルが"最愛"だって知って』

「はい」

『すんげー嬉しくて会いたくなったんだよ!』

「……………はい」

『シムのことちゃんと理解してやらないとって思った』

「ありがとうございます。
ふふふ、泣かないでくださいよ」




ズズズッ



『泣いてねーし』ズッ




なんか思い出したら涙が勝手に出てきた。
シムが俺の話をジッと聞いてくれてる感じとか、今、目の前にシムがいるっていう安心感からか、



人前でなんて泣いたことない俺の目から、



水滴が流れる。








「チョンさん。

嬉しいです。ありがとうございます」




ゴシゴシと涙を拭っている俺の手の甲に、
シムはそっと手を添える。





なに?
シムは聖母マリアかなんか?







「僕の最愛のチョンさん」







そう俺に最大級の告白をしたシムが、
ゆっくりと目元にあった俺の手を太ももまで降ろし、
乾燥気味の唇を俺の唇に押し当てた。








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