Yside








「僕、先生のこと……好きでしたよ」






あぁそうか。
俺の勝手な思い込みだったか。
シムは被害者で奴が加害者だって…
でも本当はシムも奴と繋がれることを望んでいた……ってことか…






本当に俺は部外者になってしまった。



何やってんだろ……。









「でもその好きは僕がチョンさんに抱いているような想いではありません。
兄のような、同じ境遇がゆえに共感や悩み相談、共有ができる大切な人という意味です」

"……………………"

『……………シム…?』

"チャンミン?"

「チョンさん、僕のお話を聞いてくださいね」

『………………あぁ』






どう話すべきか、どう言葉を組み立てるべきか悩んでいるようなシム。
時間にして5秒?10秒?俺的にはもっと長くに感じたけど、
シムが深い深呼吸をして言葉を発しだした。
















「ヒチョルヒョンも、先生も知っての通り僕はこの家では孤独でした。
両親は僕に興味がないから。僕は勉強さえ出来ていれば両親は喜ぶんです。
………あ、違いますね、勉強さえ出来ていれば両親は僕の存在を許してくれるんです」

『…………………』

「僕の趣味や特技なんかに興味もなく、
両親は僕のテストの結果だけ、数字だけしか見ていませんでした」

『…………………』




初めて聞くシムの家庭環境。
そんな風には見えなかったのに…




『でも、さっきシムの母ちゃんを見たけど優しそうだったけど…』

"それは俺様がいたからだよ"

『ヒチョルヒョンが?』

"言ったろ?俺様はシム家みたいなもんだって"

『どういう……』

「僕はこの家……の家業を継げません。
その代わりヒチョルヒョンがシム家を継ぐことになってます。
だから……ヒチョルヒョンに両親は期待をしているんです」

『え?シムの家って何してんの?』

"シム製薬。聞いたことあるだろ?
その社長さんがシムの父親だよ"

『シム製薬ってあの?!
この間なんかの新薬を見つけたってニュースになってたやつか?!!』

"おーおーニュースを見てんじゃねぇか。
まさにそのシム製薬"

『…………………』



まさかシムが韓国を代表する製薬会社の息子だったとは……






『ってなんでヒチョルヒョンが継ぐんだよ!従兄弟とはいえシム家じゃねーじゃん!それにシムが継げない理由がわかんねーよ、だって頭いいじゃん』

「僕はソウル大に行かなかったので」

『ヒチョルヒョンも行ってねぇじゃん』

"俺様はチャンミンの妹と結婚すんだよ"

『ヒチョルヒョンが結婚?!
いや、でもヒチョルヒョンはヤンキーじゃん!いくらシムの妹と結婚しようがシムに継がせずヤンキーに継がせるか?』

"ユノや、言っとくが俺様は頭はいいんだ"

『…………………』



そんなイメージ全く無いんですけど。







「ヒチョルヒョンは延世大学ですよ?」

『延世っ?!』




延世大学だとっ?!
ソウル大の次に難しいと言われている延世?!ヒョンが?
ありえない!だって高校時代は俺とつるんでたじゃん!



『ヒョン……まさか裏口入学…じゃ……』

"殺されたいか?"

『すみません!!』

「ヒチョルヒョンは実力ですよ?
小さい頃から成績優秀でした」

『まじ…か……』



知らなかった。
いつも一緒につるんで、バカしてたヒョンが延世大だなんて。






"話し反れてない?"

「あ、」

"全然チャンミンの気持ちの話をしてないんだけど"

「すみません」

"チャンミンは悪くないよ。
話を逸らすこのヤンキーが悪いんだから"

『…………………(イラッ)』





ムカつく!

ムカつく!!

ムカつく!!!








「で、えっと…そういう家庭環境が先生と同じで寂しさとか共有できる優しいヒョンって意味で好きでした」

"一度も僕をそういう意味で好きだと思ったことはないの?"

「はい……」

"じゃあなんで拒まなかったの?"

「…………先生の気持ちが分かるから。
寂しくて人肌恋しかったり、誰かの温もりを感じたいって思ったり」

"同情?"

「違います……僕も、寂しかったんです」

"……………………"

「誰かに必要と思われたかった。
存在価値を見出したかった」

"僕とセックスして気持ちよかった?"

「…………………」フルフル…

"チャンミン…?"

「ごめんなさい…」







シムは寂しさを紛らわす為に奴と…


つまり意図は違ったということか。

















"言ってくれればよかったのに"

「………………」

"言えないってやつかな。
気付いてあげれなくてごめん"

「………………いえ…」

"でも僕はチャンミンが好きだったから、
だから単純にシたかったってのもあるよ"

『ふざけんなよっ!』

"煩いな、最後まで聞いてよ。
これだからヤンキーは嫌いなんだ"

『………………うるせっ!』



"チャンミン。
僕は寂しくてチャンミンを求めたんじゃないよ。チャンミンが好きだから。
でも、チャンミンが受け入れてくれて勝手に舞い上がっちゃってた、
チャンミンも僕を好きでいてくれているってね"

「…………ごめん、なさい…」

"やだな。謝らないで"

「……………………」

"チョンさんがそんなに好きなの?"

「………はい」




お、不意に嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。




「先生がチョンさんを見つけてくれて、
本当に感謝しています」

"僕ってばとんだお節介野郎だね。
もしさ、チョンさんを見つけられなかったら、チャンミンは僕に心を寄せてくれた?"

「……………必ず見つけ出すって決めてましたので…」

"あはは、僕が入る隙間は全く無いってことね"

「ごめんなさい……」

"また謝る……。
次謝ったらキスしちゃうからね"


!!!!!!


『駄目に決まってだろ!』


黙って聞いてたら意味わかんねーこと言いやがって!



「先生は僕に1度もキスをしてこなかったですよね?
どんなに身体を繋げても…」

"キスってさ、セックスよりも神聖じゃない?"

「どういう…?」

"セックスは動物の本能だけど、
キスって愛情だと思うんだよね?
だから愛し合う者同士がする行為だと僕は思ってる"

「愛し合う者同士……」

"僕たちは愛し合う者同士じゃないから"

「………………」

"…………さ、邪魔者は帰りますかね。
このままここにいたらヤンキーに睨み殺されそうだからねww"

「先生…」













奴はそう鼻で笑いながら、
シムの部屋から出ていった。


1階でシムの母ちゃんと話している声が聞こえたけど、
数分後には玄関の扉が締まる音がした。





『帰ったみたいだな』

「はい」

『…………………』



えっと…俺はどうしたら……
勢いでここに来たわけだけど、
シムは用事があって実家にいるわけで、
自分勝手に連れて帰るわけにはいかねーし。







"お前らソウルに帰るんだろ?"

『俺は…うん』

「僕も帰りますよ」

"じゃあ俺様が見送ってやる"

『シムは用事があるんだろ?』

「用事は終わりました」

『何だったんだ?』

「妹へ誕生日プレゼントを渡すことです」

"俺様の未来の奥さんの誕生日だぞ"

「……そぅですね」

『…………………』



まだヒチョルヒョンが結婚とか、奥さんとか口にするのが変な感じ。





"俺様と結婚できるなんて幸せ者だと伝えとけよチャンミン。
宇宙一幸せ者だからな。新婚旅行は宇宙にでも行くか"

「…………結婚したら早速働いてください」

"げ、やる気を失わせるなよ"

「お願いしますよヒョン」

"へいへい"







ヒョンは珍しく頭をかきながら、
溜息をはいた。




"はぁぁぁ面倒だな"





ヒョンって絶対、
結婚に向いてい。








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