Yside








『好きとか簡単に使うなよ』

「どういうことですか?」

『…………………』




シムはきっと人間的に俺を好きとか、
そういう思考なんだと思う。
俺がシムを想う好きとは違う。




「好きな人に好きと言ったらダメなんですか?」

『意味とかあるだろ』

「意味?好きに他の意味なんてありませんよ」

『…………………』

「チョンさんは僕の気持ちをいつまで目を瞑るんですか?」

『…………いつまで?』

「学生の頃からチョンさんは僕の気持ちを見ない振りをしていました。
迷惑なのはわかりますが、結構傷つくんですよソレ」

『…………………』

「そりゃあチョンさんにとっては欲求不満を解消するためのキスだったかもしれませんが、僕にとっては好きな人とのキスなんです。見ない振りなんて……辛いです」




今、シムは何を言っている?
俺の心の中を声に出しているのか?




それとも、






俺の耳に入ってくる言葉はシムの気持ち?



















『…………………』

「言葉も出ないですか…」

『………なぁ、それってシムが俺を好きってことか?』

「ずっとそう言ってますけど」

『その好きはあれか?……その………
人間的な好きってこと…だよな?』

「…………そう思いたいってことですか…」

『…………………』





シムは少し乾燥気味な唇を甘噛しながら、
眉をハの字に下げ俺を見つめる。



シムの表情も言葉の意味も今の俺の脳内では処理しきれない。



だって処理してしまったら、
シムが俺と同じ想いだって錯覚してしまうから。






何か言わないと。
何か反応しないと。














「ずっとチョンさんのこと好きでした。
屋上で二人だけの秘密基地で過ごしているみたいな感覚も、
キスをすることで少しでもチョンさんと繋がれていると思えたことも」

『………………』

「僕はずっとチョンさんに恋い焦がれていました」

『…………シム』

「告白できてよかったです。
でもこれもきっとチョンさんにとっては一方的で迷惑になっているんでしょう?
でもスタジオのデザインは最後までチョンさんにお願いしたいです。
きっと嫌だと思いますが僕の我儘を聞いてください」

『………………』

「お願いします」




畳み掛けるように話すシム。
いつも冷静で何考えているか分かんねぇ奴だったのに、
今のシムはなんつーか人間的。
苛立ちや悲しみが言葉の節々から感じられる。




でも、





俺の想いとか全無視するシムにちょっと腹立ってきた。









『何一人で完結してんだよ』

「…………………」

『俺の気持ちは無視か?』

「…………………」

『俺がシムを好きだって気持ちを無視すんのかって聞いてんだけど』

「…………………」

『俺が退学を受け入れたのはシムを守るためだし、
こうしてソウルで働いてんのだって、
シムがソウル大にいるんじゃねぇかって思ったからだし…』

「…………………」

『それなのに突然俺の前に現れて、
一方的に話して終わりって言うつもりかよ』

「…………………」

『…………………』




シムは大きな瞳をさらに大きくさせ、
このままだったら目ん玉落ちちゃうんじゃねーかと思ってしまう。
ま、ありえねぇけど。





「突然なのはチョンさんです」

『はぁ?』

「突然いなくなるし、
突然ホームページに現れるし、」

『それはそっちが勝手に見……』

「それに!ずっと僕の気持ちを見ないふりしていたのは大罪ですよ!!」

『…………………』




さっきも言ってたけど、
シムの気持ちに俺が無視していたと思っているようだ。
勝手に勘違いしやがって、





『そもそも俺はシムの気持ちを見ないふりなんてしてねーよ。
だってシムの気持ちに気づいてねぇし、
今知ったとこだし』

「……………へ?!」

『だから勝手に怒ってんじゃねぇよ』

「そんな……」





シムはヘナヘナ〜と膝から崩れ落ちた。





「僕…ずっとチョンさんに気付かれていると……それで見ないふりをしているものだと思っていました……」

『なんでそう思ったんだよ』

「だって……欲求不満解消の為だって…」

『え?』

「キスの理由……そんな感じのことを言っていたので。
てっきり好きだと言うなというメッセージと受け取っていました」

『……まじかよ』




まさか、


まさかシムが俺と全く同じ理由で悩み苦しんでいたとは。

俺たちは一体何をやっていたんだ。






「チョンさんも僕を好きなんですか?」

『……/// さっき言っただろーが』

「ちゃんとした言葉で聞きたいので、
もう一度言ってください」

『はぁ?!んなもん恥ずかしくて言わねーよ』

「………………」シュン…

『………あぁぁぁぁぁ!!仕方ねーな!!いいか耳の穴かっぽじってよーく聞けよ』

「………………はい」

『………………』

「………………」





シムは期待からかキラキラとした瞳で俺を見つめる。
くそ…
こんな羞恥ありえねぇ!



でも仕方ねーか。
こんなキラキラした瞳に見つめられたら、
可愛くて言うしかねぇじゃん。










『…………俺はシムが好きだ』

「………………」

『学生の頃からずっとずっと好きだから』

「…………はい…」

『だから俺と…………付き合え』

「………………ふふッ」

『………何笑ってんだよ』

「なんか……付き合ってくださいと言ってもらえるかと思っていたんですが、
さすがチョンさんですね」

『別にいいだろ…///』

「ふふふ…」

『……で?どーなんだよ、
付き合うのか付き合わねーのか』

「………………」

『………………焦らしてんじゃねぇよ!』

「ふふッ♪すみません。
こちらこそ僕と付き合って下さい」

『………別に、いいけど』

「耳が真っ赤ですよ?」

『うるせぇ!!』





シムは俺の耳に触れようとしたけど、
必死になって阻止した。
今この状態で触られるのは、
なんとなく良くない気がするから!!






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