Yside










『ヒョン!ここどうかな?』

"いいんじゃないか?"

『ありがとう。じゃあここは?』

"ここもいいと思うぞ"

『よかった!』

"良い調子じゃないかユノ。
楽しそうに仕事をしている。シムさんも喜ぶんじゃないか?"

『別に…仕事だし。シムの為とかじゃない』

"別にシムさんの為だなんて言ってないけど?
俺はユノが仕事を楽しんでいるように見えて嬉しいだけだけど…"

『?!!!?!
そ、そっそうだな!楽しいよ!!』

"ユノ……お前…"

『何…?』





シムとはあれから会わず、
メールでやり取りをしている。
希望の空の壁紙を数種類送ったり、
デスクもいくつかピックアップした。


シムはそれに対してきちんと意見も言うし、追加注文もしてくる。





意外と人使いが荒いってことが分かった。









デザインは初めてだし、
ホジュニヒョンの意見を聞きながらも、
1から関わるのは初めてだ。
ホジュニヒョンは俺が楽しそうに仕事をしているように見えているみたいだ。



実際楽しい。






でもそれがシムが関わっていなくても同様に楽しいのかは不明。







シムとのメールはビジネス的な文章だけど、
最後に一文、シムが俺に労いの言葉や、
ちょっと崩した言葉を送ってくる。
今日は空が澄んでいるとか、
道端で猫を見たとか、
本当に他愛のないこと。



それだけのことなのに、
俺は心が踊るように嬉しい。
以前のような関係はしない。
友人でもなく他人だと言い放った俺に、
シムは折れることなく俺に関わろうとしてくる。


どういう意図かはわからないけど、
深く考えることを俺は止めた。






良いんだ。
だって今の関係が今後変わるなんて考えられないから。
なんならこの仕事が終わればシムとは終わり。


だったらせめてメールの中だけでも喜びを見出したいものだろ?








"シムさんのこと好きだろ?"

『はぁっっ?!!?!!!』

"やっぱり図星www"

『ヒョン!揶揄らないで!!』

"揶揄ってないよ。
ただ青春だな〜なんておじさん臭く思っちゃっただけだよ"

『青春もなにも、違うし!』

"素直に認めろ。可愛くないぞ"

『俺は男だ!可愛くなくて結構っ!』

"やれやれ……"




俺のシムへの想いなんてバレてはいけない。たとえそれがヒョンでも。
気持ち悪いだろうし、
理解に苦しむだろうから。







"別に男だろうと、そうじゃなかろうと
可愛いは正義だと思うけど"

『………………』

"俺は別にユノがシムさんを好きでもなんも思わないよ。むしろ応援しちゃうね"

『………応援…?』

"大事なユノの恋をバカになんかしないよ"

『ヒョン……』





言っていいのか?
口にしてもいいのか?


そんなことしたら全てが崩れるんじゃねぇの?





『ヒョンが良くてもシムには言えない』

"ユノ…"

『俺は確かにシムが好きだ。
でもこのことはシムには言えない』

"なんで?友達なんだろ?"

『友達じゃない。そんな綺麗なもんじゃないんだ……』

"綺麗じゃないって何?
ユノがそう思ってるだけでシムさんはそんな風に思ってないよ"

『わかんないじゃん』

"分かるよ。
でなきゃユノに仕事を依頼しないし、
俺に友人だなんて言わないだろ?"

『…………………』

"案外シムさんもユノが好きかもよ?"

『ありえないよ……』

"なんで?シムさんに言われてないだろ?"

『言われてないけど…』



言われてないってことが、
俺を好きじゃないって証拠じゃね?
言うタイミングはいくらでもあったはず。
勿論それは俺にも言えることだが、





欲求不満の解消…




その言葉が俺の心を苦しめている……

























『お疲れー入るぞ』




カシャ





カシャ






「そこに座っててください」

『あぁ……』





カシャ





カシャ








少しずつスタジオらしくなってきたこの部屋で、
シムは見知らぬ女の写真を撮っている。
俺には顎で椅子に座れのごとく指示したくせに。





『空以外を撮ってんの初めて見た』





カシャ





カシャ












「今日は終わり」

"え〜オッパもっと撮ってよ"

「気分が乗らない」

"ひどっ!"

「やっぱり人間を撮りたいと思えない」

"オッパが撮らせてって言ったくせに!"

「悪いな」

"もぅ知らない!帰る!!"







なんだか見ちゃいけない雰囲気。
シムってあんな口調になることあるんだ…
もしかして女性の前だと態度がデカくなるタイプ?



それとも…彼女……とか?





よくよく考えてみたら、
まだ完成していないスタジオに招き、
気楽に呼んで写真を撮る関係性なわけ…だよな?
それってやっぱり彼女じゃん。
さすがにシムが女性をもて遊ぶってことはしないと…思うし。






「今度ご飯奢るから」

"当たり前!"

『…………………』

"じゃあね"

「うん」

"………………こんにちは…"ペコッ

『こんにちは…』




彼女らしき女性は俺に一礼をし、
スタジオから出て行った。

礼儀ある女性のようだ。




ってなんか俺、姑みたいじゃねーか!
シムの周りにいる女性を査定しているみたいだ!








「お待たせしました」

『………………』

「どうぞ」

『ん、さんきゅ』



シムは俺の好物でもあるジャスミン茶のペットボトルを小さな冷蔵庫から取り出し差し出してきた。
彼女のことを聞いたほうがいいのか…
チラッとシムに視線を動かしても、
当の本人はなんも気にしてないって感じだ。



俺たちキスしていた関係で、
その俺に彼女を見られたっていうのに、
なんも感じてねぇってことか?




なんか、そんな無神経なシムに段々苛立ってきた。













『よかったのか?』

「なにがですか?」

『彼女、機嫌悪くなってね?』

「彼女……?」

『さっき撮ってたじゃん。
あんな冷たい言い方したら機嫌悪くなるだろ普通』

「………………いつもですから。
短気というか僕に甘えてるんですよ」

『…………………』

「そろそろ兄離れしてほしいです」





ん?





『兄離れ……?』

「えぇ、そりゃあ永遠に兄と妹という関係は変わらないですが、それでももう大学生になったので……」

『ストップ!!』

「はい?」

『妹……ってあの妹?
家族の?血の繋がりがある?』

「それ以外無いかと…」

『…………そっ…か。妹……』

「??」





妹がいたとは。
それなら気楽に完成していないスタジオに呼ぶし、あんな口調になってもおかしくはない。



つーか、
俺ってシムに妹がいたことも知らなかったんだ。
短期間だったけだ、
屋上でいくらでもシムのことを聞けたのに。何もしていなかった。
ただシムとキスして、写真を撮ってるシムを見て、またキスをする。





こんなんじゃあ俺がシムを好きだなんて気付くよしもねぇよな…
逆を言えばシムも俺に関心がないってことだ。
何も聞かれてないし。











「チョンさんのお母様はお元気ですか?
お一人でしょうから心配ですよね?」

『…………は?』

「会ってないんですか?」

『ちょっと待て。なんで俺に父親がいないこと知ってんだよ』

「……………委員長でしたから」




答えになってなくねぇか?
委員長ってクラスの奴らの家族構成を知るのか?
そんなわけない。
個人情報だし、知る必要がない。


じゃあ何故シムは俺に父親がいないことを知っている?







「すみません。気持ち悪いですよね?
僕がチョンさんの家庭環境のことを知っているなんて」

『…………いや、ただ何で知ってるのか…』

「知りたくなりませんか?」

『?』

「僕は知りたくなります」

『………………』

「好きな人のことは何でも知りたくなります」

『…………ん…?』




好きな人のこと…?
それって…





誰のこと?




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