Yside








カシャッ





カシャッ









『そんなに写真が好きか?』

「写真.…というよりも空が好きです」

『ふーん』

「空は広くていつも僕たちを見守ってくれています。空が蒼いと心穏やかになりますし、空が泣いていると僕まで悲しい気持ちになります」

『………ポエマーかよ』

「………………」

『空以外は撮らねぇの?』

「撮ったことないですね……」

『ふーん』





いつもの屋上。
いつもの昼休み。





俺は母ちゃんの弁当で、
シムは購買かどっかで買ってる菓子パンとかおにぎりを食ってる。






『シムはさ、なんでここで食ってんの?』

「ここで食べたら駄目なんですか?」

『駄目っつーか……俺と食っても楽しくねーだろ?』

「……………楽しくない…?」




俺の言葉に菓子パンを口に含みながら動きが止まるシム。
なんだかその姿が、
食い意地の張ってる奴に見えてちょっと笑けてしまった。




「チョンさんとの時間は楽しいです」

『……………やっぱりシムは変わってるな』

「…………………」

『他の奴らは俺のこと問題児のヤンキーっつって怖がってんのに。
シムは俺のこと怖くねーの?』

「………怖くないですけど…」

『俺の噂とか知らねーのか?』

「噂…?」

『噂も知らねーで俺に近づいたっていうのか……』




まぁシムが噂話とか耳にするタイプではないってことぐらいは分かる。
じゃあ数々の俺の嘘の噂をシムに伝えたら、シムは俺から離れるだろうか……





『他校の奴と喧嘩しまくってるとか、
酒とか女関係。あとなんだっけ…
暴力団と繋がってる…とか』

「…………………」

『だから他の奴等は俺を怖がってんだよ』

「…………………」

『シムもこんなこと聞かされて俺のこと怖いって思っただろ?だから……』

「全く怖くないですね」

『は?』

「だってチョンさんは僕になにかしましたか?僕はチョンさんに怖いことをされた記憶がありません。だから怖くないです」

『……………あ、っそ…』

「はい」




そう何でも無いように話し、
シムはまた空の写真を撮っている。
なんだよそれ……





めちゃくちゃ嬉しいじゃねぇか。








カメラを覗く為に片目を閉じながら、
口をポカーンと半開きにしているシム。
シャッターボタンを押す人差し指が、
シムにしては男らしい。



細く長い首を猫背のせいで無駄遣いしていたり、
横から見ても分かるぐらい形の良い頭。



こうしてじっくりシムのことを見ていると、


















『なぁキスしねぇ?』



「…………………キス?」



!!!!

は?俺何言った今?!
キス?そんなの思ってもねーのに!
男とキスなんてそんな欲求ない!



『悪い!今の無し!キャンセル!!!』

「………………」

『まじでどうかしてた、おま…シムのことそんな風に見てねーから!誤解すんなよ?!』

「………………」




必死に違うと言っている俺を、
パチパチと瞬きをしながら斜め45度に顔を傾け何か考えているシム。





『言葉の綾っつーか、
最近ご無沙汰だし、だからってシムをそんな風に見てねーってこれ二回目!』

「いいですよ」

『おっ、さすがシム。気にしねーか』ホッ

「いえ、なのでいいですよ」

『?』

「キス、してもいいですよ」

『は……?』




今シムの奴、していいって言ったか?
いやいやそんな訳ない。
優等生で委員長でもあるシムが学校でキスだなんて。
しかも相手は同性で問題児のヤンキーだぞ?


シムは至って普通の表情。
だから俺の聞き間違い。
そーだよな。当たり前じゃねーか…ハハハ




「チョンさん、だからいいですってば」

『………幻聴?』



そうか昨日の体調不良が完全に治ってないんだ。
だから幻聴が聞こえてしまうんだ…



「もう!幻聴じゃないですってば!」

『ッ!!!!』



シムは俺の顔に自身の顔を近づけ、
ジッと俺の瞳を見つめる。



シムの綺麗な瞳と長い睫毛が微かに揺れていて、もしかして緊張してるのか?



なんだよ。
していいって言いながらも緊張してるとか、わけわかんねーよ。






でもさ、



なんかこの感じのシム…















可愛いな。









『シム……知らねーからな』

「………………」



チュッ




「……………ん」

『………………』

「……………あンッ、ん」

『………………』




グチュッ



「………んん、ッ」

『………………』




チュッ




俺はゆっくりとシムの唇から俺の唇を離しながらシムの表情を恐る恐る見る。




『シム……お前………』

「チョンさん……」




瞳をトロンとさせながら頬を紅く染めたシムの表情はひどくエロい。
いつもは少し乾燥気味のシムの唇が、
うっすらと唾液を纏い潤いがあるように見える。
その唾液が俺のものかもしれないと考えただけで、
俺の下半身は反応した。




『そんな表情するな』

「そんなって…?」

『そんなは……そんなだよ!』

「………………」



俺は自分の髪をグシャグシャっと乱し、

『はぁぁぁぁぁ……』

と溜め息にも似た深呼吸を深くした。





『今のは…単なる興味本位だ。
お互い女がいないから、ただ欲求不満を満たしただけ。だから忘れてくれ』

「チョンさん…?」

『悪かった』

「………………」

『戻るわ』

「……………はい」



俺が屋上の扉に手を掛けたところで
チラッとシムに視線を送ると、
シムはカメラのレンズを覗き込み
いつもと何も変わらず空の写真を撮っていた。




にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村