数年前のことだ。

いつもの面子、友達数人とご飯に。

「ここ行こう」

友達の1人が言い出しそのお店に入ったが、いつも入るようなお店よりは少し小洒落た感じで何やら違和感を感じた。


その日、僕は誕生日だった。


しかし男どうしでそんな特別お祝いをした事もないし、と言うかそもそも友達は僕の誕生日も知らないだろうし、僕も皆の誕生日を知らない。別にわざわざ言うのもおこがましいし、そんな間柄でもないと思った。


案内された席に着き、注文し、適当に飲み食いしつつ、馬鹿な話をウダウダと交わしていた。いつもと代わり映えのしない面子と、代わり映えのしない馬鹿な話、代わり映えのしない……

照明が暗くなった。

すると店内には音楽が鳴り出し、その音楽に合わせて奥の方からゆっくりと店員さんがやってくる。

ロウソクの点いたケーキを持って。


(いやあ…正直いうと…)


僕はひっそりと思った。


(…こういうサプライズって苦手なんだよなあ…周りのお客さんは関係ないのに、なのに食事中に照明は暗くされて、大音量の音楽で会話は中断させられて、他のお客さんは「いや店員さんこの時間あったらさっき注文したの作って」とか思ってるんだろうな…迷惑かけてしまって…心苦しくなる…)


ケーキは、ゆっくりと近付いてくる。


(それにこういうのって目の前に来るまで「え?これ何?何これ?」のスタンス取らなきゃいけないんだろうけど、どう考えても無理あるよなあ…この時点で絶対に気付いちゃうし…あと何秒だろう…この時点で気付いてないフリするのって嘘くさすぎて恥ずかしいんだよなあ…)


ケーキは、あと少しで僕の前に。


(でも…………ありがたいよなあ…………)


ケーキは、もう目と鼻の先。


(結局、苦手は苦手だけど…嬉しいんだよなあ…やって貰うと。本当にありがたい。よし。皆に「祝ってよかった」と思って貰えるように大きくリアクションを取ろう)


ケーキがやって来た。
僕は叫ぶ。




「え〜!何これ!ちょっと、まじでー⁉︎」




ケーキは。




「待って恥ずいって〜!何お前ら〜!」




僕の隣を、通過して行った。




友達は皆、僕の誕生日なんて知らなかった。
別にそんなサプライズなんてしてなかった。
入ったお店が小洒落ているのは偶然だった。


「イェーイ!ハッピーバースデー!」


ケーキは僕の後ろのテーブルに到着し、男女6人ほどがクラッカーを鳴らし盛り上がっている。


「うそー!もう〜皆ありがとう〜!」


1人の女性がそう言ってロウソクの火を消すと他のテーブルのお客さんからもあたたかい笑顔、そして拍手が上がった。そしてその拍手が鳴り止んだ頃、照明はつき音楽は止み、店内にはまた、日常が戻ってきた。



立ち上がっていた僕は、とりあえず座った。