吉笑兄さんには、入門してからというものもう何度も飲みに連れて行って頂いている。本当にありがたい。
先日、2人で。
「ここ行ってみようか」
兄さんが指す厚みのある木のドアを開けた。
そこはバー。
こじんまりした店内、柔らかな照明がカウンターを映し、心地の良い音楽が薄くかかったその空間は、まるでそこだけ時の流れがゆったりとしている様だ。なんとも洒落ている。
兄さんも僕も、1杯目を飲み終えた頃。
僕がトイレに立ち、席に戻ると……カラカラカラカラ……うつむき加減にバーテンダーさんがシェイカーを振りカクテルを作っている。
すると兄さんが言った。
「“門出”をテーマに作って貰ってる」
まだ入門してそう間もなく先日初高座を終えたばかり、これから頑張らねばならない僕の“門出”に向けてくれた、吉笑兄さんのこれまた洒落た演出。しばらくしてバーテンダーさんがやってきた。
「こちら、スターティングオーバーです」
兄さんと僕の前に同じものが置かれ、改めて乾杯をし、僕らはグラスを口へと運ぶ。ひと口飲み、兄さんが言った。
「うわ…キツ!これ!何?うっわ…これはキツ…うん…キツイなぁ…うん、うわぁこれはキツイ…」
兄さん、それ僕の門出なんですが。