銭形平次

 
十手と投げ銭、名推理。
平次親分、大活躍の名作です。


ずいぶん長い間、
先生と共に、
僕もこの作品に携わる事ができました、、照れキラキラ



ある日の現場

ラストシーンの撮影の時の事です。



殺陣シーンを撮り終わり、


「本日のラストカット、見送る平次のアップです」

 
助監督さんの声。


捉えた悪人が連行されるのを
平次が 見送るシーンです。




ご存知の通り、
平次親分には十手がつきもの。


以前のブログでもご紹介した通り、
( https://ameblo.jp/tate-mine-rantan/entry-12583469753.html )
 

橋蔵先生はカットによって
何本もの十手を使い分け、

弟子の僕は、
その全種類の十手を常に腰に下げ、
いつ命ぜられても
すぐ出せるようにしておりました。



 
アップのカットで使うのは、
本身とよばれる
金属製の重い十手。


僕はそれを選んで、
先生に渡しました。


先生はそれを手に、
監督さんや殺陣師さんと
何やら言葉を交わします。


「 よーし本番いこう、
  ヨ~イ、スタート
ビックリマークカチンコ 」

 
監督のサインがかかります。


連行される悪人たちを見送る平次

お縄までの過程を思い、
フゥ、、とため息、、


ハイ、カ~ット!!!


、、、と、なるはずだったのですが

カットの声がかかりません。


あれ、、?
誰か とちったのかな、、?うーん


と思った、その時です。


橋蔵先生、
 
本身の十手を
顔の位置まで持ち上げて、
 
十手の鉤に指をかけ、

西部劇の拳銃さながらに、
クルクルッと回し、
ヒュツと翻して 帯にスパッ。


「 ハイ、カ~ット!オッケェイビックリマークカチンコ



、、、!!!びっくり

 


僕は唖然として、
しばらく動く事ができませんでした。


躰に日舞を叩き込んだ先生の
十手を回し、収める動き、、

息も忘れる美しさキラキラキラキラ


と、、それはもちろんなのですが



それより、僕が驚いたのは、、、



これより何日も前の事。


しばらく空いた 現場の待ち時間に

僕は 何となく手持無沙汰で
腰に下げた数本の十手を眺めておりました。


一本抜いて


先生のように構えてみたりして

 

何気に 鉤に人差し指を入れ、
くるくる、、なんて
一人遊びをしておりました。
 

 

これ、こうやってクルクルッと回せたら
西部劇みたいでカッコええやろなあ、、
照れキラキラ
 

 


すると

傍でそれをご覧になっていた先生、、


「 ランタン、それ いいねえ、
 
 回すとかっこいいよねえ
ほっこり

 やってみたいけどねえ、
 できないんだよねえ、、、」




えっ、、?えっ


いつだって
何でも器用に美しくこなされる
先生らしからぬお言葉に
少々驚いたのですが、、



「 人差し指、自由に使えなくてねえ 」



、、、びっくり


 

若い頃

手にしていたガラスのコップが割れ


そのガラスの破片で

人差し指を深く切り


筋を傷めてしまって

それ以来、
人差し指が自由に使えないのだ、と。



そうかあ、、ショボーン



しかし、

人差し指は

刀を握るのに避けられない
比較的 キーになる指です


その 自由のきかない人差し指で

よくこれまで

あんな刀捌きで
人が真似できないような
美しい殺陣をされていたものだ と

僕は感嘆したものですが、、キラキラ



その会話があった後での
この十手捌きです。


鳩が豆鉄砲を食ったくらい驚きました。


、、、豆鉄砲くらった鳩の姿、知らんけどあせる



一発OKで この日の撮影は終了。

 

 

現場が 撤収作業を始めても

 

言葉にならずに
先生の顔をしげしげ見ていた僕の目は、

口より大声で


「今の何で!どうしたんですか!目


と、語っていたのでしょう(笑)



先生は、ニコニコ~ほっこり と笑って


「 ランタン、行くよ? 」

 

と、再び帯から十手を抜き、


先程と同じく、
クルクルッと鮮やかに回して見せてから、
僕にホイッと十手を渡しました。


「 わかったかい?ほっこり


何と、、

 

人差し指でなく、
中指を鉤に入れ、回していたのですが、、


これを真似しようとしたら、
回らないのです。

僕の人差し指でやったら
簡単に回った十手が


中指に持ち変えると


逆上がりが出来ないみたいに
ちょっと上がって落ちてしまう。


先に歩き出す先生の後を追いながら
何度も試してみるも、
やっぱり十手は 回りません。


その様子を

振り返ってご覧になった先生は

うふふっと笑って、
話してくださいました。


「人差し指がダメなら
 中指でやりゃいいんだと思ってね、
 あれからずっと稽古してみたんだよ 」



そう言われてみれば、、うーん


古くて使わなくなった
傷だらけの 本身の十手

見なくなったなあ?
と思っていたのですが


先生、これをご自宅にお持ちになって

 

 

四六時中一緒にいる僕ですら

気付かぬところで


お稽古されていたんですね、、



橋蔵先生は



撮影でも舞台でも
ここ一番の大切なお芝居がある時は


演技のプランを立てられたり
セリフを覚えたり


一人、黙々と
夜中まででも稽古しておられる方でした


そうして 人知れず努力した結果
完成した 素晴らしいものを

ある日突然 やって見せて
度肝を抜いて見せるのですびっくり



僕ら 役者は

プロとして
これを生業として やっている以上


中途半端なものを
お見せするわけにはいきません


人にお見せする時は
完璧なものでなければならない

 

と思っています


その途中で

こんなに頑張ってます!
こんな事してます!



いくらアピールをしたところで


人が見て 気持のよい完成形を
お届けできなければ

プロの仕事ではないのです



満を持して

完成されたものを

初めて 人前に出す

 

 

先生の ポリシーだったのでしょうキラキラ

 


そんな 橋蔵先生の
人知れぬ努力の賜物に

感動し続け
追い続けてきた 僕も


稽古のプロセスは
人に 見せるものではないと
一人 淡々とやる方です


これでよし、と納得し
完成するまでは
人に お見せしません
(稽古風景の取材などがあれば致し方ありませんが)



橋蔵先生の貫かれた
このスタンスに


改めて感服した 出来事でした照れキラキラ

 

 







先生の


日本舞踊仕込みの

しなやかな 指先の動き

 

舞扇の 巧みな扱いそのままに

くるくると 舞う十手

 

指先のハンディを感じさせない

鮮やかな 十手捌きは

 

本当に 美しかったですキラキラキラキラ

 

 

 

この 十手のクルクルッ、は

毎回されるわけではありませんが

 

 

アクション篇の お話などで

定番的に お使いになる技となりましたひらめき電球

 

 

僕の一人遊びを ご覧になった先生が

 

 

稽古を重ねて 実現して

銭形平次の 定番ポーズになっていった事で

 

 

自分の 一部が

先生と一緒に 出演させてもらっているようで

 

ちょっと嬉しくなった僕でした、、照れラブラブ


 

 

 

ちなみに、、

 

再現映像。

 

 

 

うちにあった十手が 小さすぎて
鉤に 僕のごつい指が入らなかったので
 
チャッカマンで再現してみました(笑)
 
 
 
苦無などでは
比較的 簡単に回るのですが
 
本身の十手は
なかなか、、あせる
 
 
 
銭形平次のファンの方は
見覚えがあるかもしれませんね、、ほっこり