3月は年度末ということで仕事も忙しいし、送別会シーズンでもあり予定のやり繰りが難しくなる。そんな時期に限っていい演奏会も多い。困ったものである。楽しみにしていた読響の定期演奏会、ジャコの指揮で小曽根真を迎えてのラヴェルのピアノ協奏曲やプーランクの組曲「典型的動物」にワイルの交響曲2番という意欲的なプログラムは、どうしても外せない仕事が急に入ってしまい涙を飲んでチケットを無駄にした。サラリーマンの悲哀を感じる瞬間である。ラヴェルのピアノ協奏曲をジャズ出身の小曽根がどう調理するのか聴きたかったし、ワイルの交響曲2番などと滅多に聴けるものではなかっただけに残念極まりない。腹が立ったので、特に演奏会に行く予定を入れていなかった翌日に東フィルの演奏会に行ってしまった。バッティストーニ指揮するオルフのカルミナ・ブラーナである。まあ馬鹿騒ぎの曲を、ノリの良いバッティストーニであれば悪くはないだろう。

 

3月13日(水)東京オペラシティコンサートホール

レスピーギ 「リュートのための古風な舞曲とアリア」第2組曲

オルフ 世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」

ヴィット―リア・デ・アミーチス(Sop)、彌勒忠史(Ct-Ten)、ミケーレ・バッティ(Bar)

新国立劇場合唱団(指揮:冨平恭平)、世田谷ジュニア合唱団(指揮:掛江みどり)

バッティストーニ/東京フィルハーモニー交響楽団

 

前半はレスピーギの「リュートのための古風な舞曲とアリア」の第2組曲。偏食気味の聴き方をしているので、レスピーギは「ローマの松」ばかり聴いており、この曲集はあまりきちんと聴いてこなかった。古い作品の編曲だったかなといった認識しかなかったのだが、聴いてみると、確かにバロック風の曲が並んでいるのだが、レスピーギがかなり手を入れているのだろうか、なかなか立派な管弦楽曲に仕上げられている。オーケストレーションの達人といわれているレスピーギの面目躍如たるところもある。チェンバロを使いつつ、二人の奏者に弾かせたり、ハープを効果的に使ったり工夫が冴えている。

 

暗譜で指揮していたバッティストーニは、ひなびた優雅なバロック風の音楽を、まるでピリオド・アプローチのように、刺激的な切れ味の鋭さも見せつつ演奏させる。20世紀の作曲家が、あえて懐古趣味的にバロック期の音楽を現代の管弦楽団で演奏するために編曲したのに、これを20世紀後半以降の別の意味で懐古趣味的なピリオド・アプローチを応用して演奏してしまうとは、何という複雑怪奇な状況だろうか。結果として、のんびりとした音楽が、現代人の耳にも聴きやすい、適度な刺激のある、楽しい演奏に仕上がっていた。意図的にやったのであれば、バッティストーニの作戦勝ちと言いたくなるが、単に、バッティストーニの芸風で指揮したら、結果としてこのような演奏になっただけの気もする(要するにこちらの深読み)。いずれにしてもメリハリとエッジのよく利いた小粋な演奏に仕上がっていた。

 

後半はカルミナ・ブラーナ。チェンバロを弾いていた二人の鍵盤奏者は2台のグランドピアノに移っている。合唱団は、2階の指揮者の正面のオルガンの下に児童合唱、向かって右に少し真横の席も使って男声合唱、左に女声合唱と配置されていた。こちらも修道院で発見された世俗的な歌をオルフが20世紀的な感性で蘇らせた懐古趣味的な側面もある曲である。中世の乱痴気騒ぎをオルフが近代的な管弦楽法と大合唱団で再現した作品である。

 

バッティストーニはいつもながらテンポが速い。曲と曲との間をあまり取らずどんどん進めていく。新国立劇場合唱団が素晴らしい精度で、迫力の歌唱で魅せていた。そして、第1曲や第2曲などバッティストーニに真骨頂で、速めのテンポで実にノリがよく上手に盛り上げ、合唱団と管弦楽が頂点で物凄い迫力になる。会場のオペラシティはこの種の曲をやるには小さめのホールであるが、その分、会場中に音が響き渡り、音圧というか、迫力が凄いので意外に好きであるが、今回は特にオペラシティ公演を選んだのは大成功であった。

 

全体的に速めでどんどん先に進めていくのだが、オペラを得意とするバッティストーニらしく、曲の雰囲気によって表情を次々と変えていく。基本的には明るめの表情でいくが、独特の抑圧された明るさのようなもの、人間の各種衝動を開放したような感情の爆発などはきちんと表現出来ていたように感じられた。

 

合唱は、新国立劇場合唱団のみならず、世田谷ジュニア合唱団もなかなか熱唱しており良かった。ソリストは、特に安定して良かったのはバリトンのバッティで声も美しく、よく通る声ですっきりと歌っていた。カウンターテノールの彌勒も丸焼きにされる白鳥の歌を、なかなか芝居気たっぷりに、思いを込めて歌っていた。声質と曲調がかなりシンクロしていて良かった。ソプラノのアミーチスは、声を張り上げると少し絶叫調になってしまうところが気になったが、欧州では夜の女王も歌っているという実力者で、張りのある、良く響く美声で特にソプラノ独唱の23曲目「愛しい貴方」などは天使のように澄んだ美しい歌唱で癒された。

 

最後までバッティストーニが派手に鳴らして終わる。期待したとおり、オルフの馬鹿騒ぎを、バッティストーニが上手に鳴らしまくってくれた。少し速過ぎると感じる人もいるかもしれないが、個人的には特に実演ではなかなかな迫力で良かった。録音していたように見えたが、録音として聴くとどうなのだろうか。東フィルとバッティストーニは相変わらず、絶好調でご機嫌である。少しだけ前日の読響の演奏会に行けなかった鬱憤を晴らせたように思った。