諏訪内晶子を芸術監督とする国際音楽祭NIPPON2024が開催されているが、昨年のブラームスの室内楽マラソンコンサートに続いて、シューマンの室内楽マラソンコンサートを開催した。ブラームスの室内楽はほとんどが好きな曲なので、昨年はかなり楽しめたのだが、シューマンの室内楽については、一部愛聴している曲がある一方で、何度か聴いてみてもよく分からないまま、あまり聴かない作品も結構ある。とはいえ、実演でまとめて聴く機会は貴重であるし、実演で聴けばまた新しい発見があるだろう。小品などは省略されていたが、シューマンの室内楽のかなりの部分を網羅している演奏会ということで足を運んでみた。

 

2月23日(金・祝)東京オペラシティコンサートホール

全てシューマン

第1部

ピアノ三重奏曲1番(葵トリオ)

ピアノ三重奏曲2番(辻/佐藤/阪田)

ピアノ三重奏曲3番(シュミット/マインツ/福間)

第2部

ヴァイオリン・ソナタ1番(中野/秋元)

ヴァイオリン・ソナタ2番(シュミット/福間)

ヴァイオリン・ソナタ3番(辻/阪田)

第3部

弦楽四重奏曲1番(米元/小川/鈴木/伊東)

弦楽四重奏曲2番(中野/米元/佐々木/佐藤)

弦楽四重奏曲3番(カルテット・アマービレ)

第4部

幻想小品集(葵トリオ)

ピアノ四重奏曲(シュミット/鈴木/マインツ/阪田)

ピアノ五重奏曲(諏訪内/米元/マインツ/ガヤルド)

 

ヴァイオリン:諏訪内晶子、ベンジャミン・シュミット、辻彩奈、中野りな、米元響子

ヴィオラ:佐々木亮、鈴木康浩

チェロ;イェンス=ペーター・マインツ、佐藤晴真

ピアノ:ホセ・ガヤルド、阪田知樹、福間洸太郎

葵トリオ:秋元孝介、小川響子、伊東裕

カルテット・アマービレ

 

第1部の開始は午前11時で第4部が終わったのは午後8時40分頃という長丁場である。途中で1時間強の休憩が2回あったことを考えても6時間くらいは客席で聴き続けることとなる。「神々の黄昏」よりも長い時間座っていたのかと思うとなかなか強烈である。三連休の初日ということがあるのか、あるいは天皇誕生日で一般参賀のために皇居に行きたかった人が多かったのか、あるいはブラームスに比べるとシューマンの室内楽はそこまで人気がないのか、昨年のブラームスに比べると、客の入りはやや少なかった印象もある。

 

第1部ではピアノ三重奏曲が一気に演奏された。1番は葵トリオが担当していた。3曲あるピアノ三重奏曲のうち1番は唯一愛聴する作品である。初めて聴いたのがカザルス・トリオの録音であったが、漂う浪漫の香りに一発で虜になってしまった。ファンタジー溢れるコルトーのピアノ、ポルタメントを駆使した甘いティボーのヴァイオリンに、一人剛毅に歌うカザルスのチェロが絶妙のバランスでシューマンの浪漫を表現している。

 

葵トリオは1楽章の冒頭から阿吽の呼吸で開始し、緊張感のあるアンサンブルで鮮やかに、そして推進力をもって曲を進めていく。4月から名古屋フィルのコンサートミストレスに就任するというヴァイオリンの小川が音楽を引っ張っているが、それにいつの間にか都響の首席になっていたチェロの伊東がマイペースに低音で歌い、そこにバランス感覚のある秋元のピアノが曲の骨格をきっちりと作っている。素晴らしいアンサンブルである。午前11時からトップバッターということで、ウォームアップが少し足りなかったかもしれないが、最初から迫真のアンサンブルで迫力のある演奏に仕上がっていた。ロマンティックな1楽章の歌心もよかったが、特に偏愛する4楽章が熱く素晴らしかった。

 

2番は辻のヴァイオリン、佐藤のチェロに阪田のピアノという若手ソリスト3名によるアンサンブル。葵トリオの後に聴くと、さすがにソリストは個々の技術の完成度が高い。もっとも、まず2番は曲がよく分からない。各楽器がいろいろなことをやっているのは分かるのだが、何となく旋律といい、曲の運びといい、全体が有機的な一体感を持って迫って来ない。また、この3人は臨時編成のアンサンブルということで、葵トリオに比べるとアンサンブルの緊密さがない。阪田のピアノが実にクリアでいいし(ペダルをあまり使わずに非常に明快に弾くのが素晴らしい)、辻の朗々と歌う豊かなボーイングから繰り出される密度の濃いヴァイオリンの音色も素敵だし、それを受けての佐藤のチェロも朗々と歌っているので、演奏としては悪くはないのだが、他方、上手だなという印象以上に、音楽が迫ってくるところまでは行っていないように感じられた。曲との相性もあるかもしれない。この3人であれば、どちらかといえば、メンデルスゾーンやチャイコフスキー、あるいは、ラフマニノフの三重奏曲など合いそうに思われた。

 

3番は弦楽器が外国勢になる。ヴァイオリンのシュミットは最近あまり名前を見掛けないが、一時期かなり活躍していた人である。小澤征爾指揮するウィーン・フィルとのコルンゴルドのヴァイオリン協奏曲の音盤を架蔵しているし、イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全曲の音盤を初めて買ったのが、当時、Arte Novaなる劇安のレーベルに録音をしていたシュミットの演奏であった。割と甘い音色が特徴的なヴァイオリン奏者と思っていたが実演は初めてである。チェロのマインツは初めて聴く奏者である。こちらはやはり弦楽器が凄かった。音がかすれたり、細かいところは割と雑なのだが、弦楽器の音色が突然にウィーンのような欧州の香りをふわっと立てる。しかも、ここぞというところでは物凄く勢いよく弓を使うので、やたらと鋭い音色を出すので、迫力が凄い。これもシュミット一人だったらアンサンブルの中で浮いてしまったかもしれないが、チェロのマインツも同じ傾向であったので、アンサンブルとしてはバランスが良い。そして、福間のピアノも出過ぎず、かといって引き過ぎず、バランスのよい、センスのよい演奏である。3番もよく分からない曲だとは思っていたが、こちらは演奏が白熱していたので、割と面白く聴けた。曲も2番よりは理解可能であるし。

 

この3組の演奏をイタリア料理に例えると、葵トリオは、物凄い美味い家庭料理的レストラン、辻らは日本人の味覚に合わせて洗練させた料理を出す高級イタリアン、そしてシュミットらはイタリア人シェフがやっている本場のイタリアンというところか。本場のイタリアンは意外にワイルドだったりする。

 

第2部はヴァイオリン・ソナタ3曲が演奏された。シューマンのヴァイオリン・ソナタというと2曲という印象が強いが、最近は、シューマンがブラームスらとヨアヒムのために共作したいわゆるFAEソナタのシューマンが作曲した楽章にブラームスらが書いた楽章についても自作の楽章と入れ替えてシューマン単独の作品として完成させたソナタが出版され3番とされることが増えているそうである。

 

1番は中野と葵トリオのピアノの秋元のコンビが演奏した。日本音楽コンクールや仙台国際音楽コンクールで優勝したということで評判のいい中野のヴァイオリンは初めて聴くが、折り目正しい弾き方で、音色も美しいし、技術的には安定しているが、シューマンのヴァイオリン・ソナタ1番は濃密な浪漫の香りのする曲である。クラシック音楽を聴き始めた頃は、割とヒストリカルを聴き漁っていたせいか、初めて聴いたのがブッシュとゼルキンの録音であったが、とにかくその濃厚なロマンティックな音楽に一聴惚れした記憶がある。それと比べるつもりはないが、何かシューマンのソナタ1番には濃密な表情が欲しい。中野の演奏は、清潔感の漂う、丁寧なものだが、表情と起伏に乏しい。淡々と美しく弾いているような印象がある。むしろピアノの秋元が音楽に起伏を付け、むしろ刺激をヴァイオリンに与えて表情を付けていた。葵トリオの時には、弦楽器の濃厚な表現を受け止めている印象の秋元のピアノであるが、より表情が薄い中野が相手となると、かなり刺激的なピアノになるというのが、面白い化学反応である。1楽章はピアノがかなり盛り上げてくれたが、美しく抒情的な2楽章は盛り上げようもなく、ひたすら速いパッセージが続く3楽章は安定したアンサンブルではあったものの、やや楽譜そのままな印象に終わってしまったのは残念であった。シューマンのヴァイオリン・ソナタ1番をロマンティックに演奏するのは、中野には少し早いような気がする。

 

続いて2番はシュミットと福間による演奏であるが、これは今回の演奏会の白眉というべきものであった。シュミットは線は細いが、鋭く、艶のある音色で、シューマンのソナタ2番を堂々たる風格で、やたらと気合を入れて演奏していた。1楽章の冒頭から非常に堂々とした弾き方で、首尾一貫して覇気のある演奏であった。1番に比べると取っ付きにくい印象を持っていた2番であったが、今回のシュミットの演奏を聴くと、実に風格のある堂々たる音楽で、なかなか良い曲である。今回最大の収穫であった。ちなみに、このシューマンのヴァイオリン・ソナタ1番と2番については、ジェラール・プーレとエッセールによる超絶の名演があるのだが(ERATO)、恐らく廃盤だし、再発売されている気配もなく非常に残念である。

 

第2部の最後はヴァイオリン・ソナタ3番である。ちゃんと聴いたのは初めてかもしれないが、ヨアヒムへのサプライズ・プレゼントとして、シューマンがディートリッヒとブラームスと共作して作曲したFAEソナタがベースにある。ブラームスの作曲したスケルツォが有名だが、ディートリッヒの作曲した1楽章とブラームスの作曲した3楽章(スケルツォ)の代わりに1楽章と3楽章をシューマンが改めて作曲して完成させたものであるという(なお、共作のオリジナル版には確かファン・クーレンの録音があったはず。)。このソナタ3番は、かなり技巧的なピアノの用法など面白く、阪田の安定した技巧が光っていた。他方、辻のヴァイオリンは、弓が弦に張り付いたようなしっかりとした音が魅力であるものの、レガート気味の少しべたっとした弾き方になっていて、たおやかな部分はいいものの、少し重ったるく感じられる部分もあった。もう少し軽快なところがあっても良いように思われた。

 

第3部は3曲の弦楽四重奏曲がまとめて演奏された。シューマンは、特定のジャンルの作品をまとめて書く傾向があったが、弦楽四重奏曲は室内楽の年といわれた1842年に最初にまとめて作曲された。作品番号も同じ41で枝番号の1から3番が付けられている。正直にいえば、シューマンの弦楽四重奏曲はあまり面白いと思ったことがなく、今回、まとめて聴いてその印象が変わるのかが一つ楽しみな点であった。

 

1番は葵トリオの弦楽器の二人に、米元がファースト・ヴァイオリンとして加わり、それに読響のソロ・ヴィオラ奏者の鈴木も加わった。この半分葵トリオのアンサンブルが実は素晴らしく、最初から弦楽器の音色が非常に調和し、アンサンブルの一体感がある。これは葵トリオの二人に、米元と鈴木という名手がうまく乗っかったためではないかと思われる。やはりアンサンブルの骨格がしっかりしていると、すぐにアンサンブルが安定するのだ。実に熟成した弦楽四重奏という感じであったし、セカンド・ヴァイオリンの小川が音楽に勢いを付け、ファースト・ヴァイオリンやヴィオラに刺激を与え、音楽を活き活きとしたものとしていた。弦楽四重奏曲1番はそれほど面白い曲だと思って来なかったが、面白い曲だとまでは思わなかったが、退屈せずにワクワクしながら聴くことができたのは、演奏の賜物であろう。結構楽しめた。

 

2番は、中野がファースト・ヴァイオリンを担当し、米元がセカンド・ヴァイオリンに回った。それに、N響の首席の佐々木とチェロの佐藤が加わる。ところが、この豪華なソリスト主体のメンバーが、意外にアンサンブルが悪い。技術的にはきちんと弾いているのだが、そもそも音色が調和しないし、音楽の方向性も今一つ定まらない。中心となって曲を作っている司令塔がいないということなのかと想像されるが、全員、普通に弾けてしまっていて、それ以上に音楽を一定の方向にまとめ上げようという意思が感じられない。若輩の中野にそのような役割は期待できないし、米元もそこまでリードしていたように見えなかった。曲が捉えどころがないところもあり、技術的には上手いが、何とも漫然と音楽が流れ続けるような印象で、聴いている方も集中力が続かなかった。やはり臨時編成のアンサンブルでシューマンの弦楽四重奏曲を面白く演奏するのは難しいのだなと実感した。

 

3番はカルテット・アマービレが担当した。この四重奏団には初めて接したが、チェロが男性でそれ以外は女性によるアンサンブルである。ヴィオラの中恵菜はソロでも活躍しているようであるし、チェロの笠沼樹も協奏曲のソリストとしても名前を見掛ける。唯一の常設の弦楽四重奏団による演奏ということで期待して聴いたのだが、残念ながらあまり好みの演奏ではなかった。理由は、特にヴァイオリンがソフトな音色で力感がないからである。ふわっとした、優雅な音作りなのだが、もっと弦を芯から鳴らすような、太い音色が好みということなので、純粋に音に対する好みの問題なのだが、聴いていて、もっとしっかり弾いてもらいたいと欲求不満が溜まってしまった。曲は意外に面白いなという印象であり、特に4楽章が聴きやすくいい曲だなと思ったが、演奏が好みではなかったのが残念であった。客の反応は悪くはなかったので、こういった演奏が好きな人もそれなりにいるのだろう。どうもこのカルテット・アマービレとは相性が悪そうである。

 

第4部はピアノ三重奏のための幻想小品集から始まった。これは葵トリオが担当したが、これは大変な名演であった。実質的にはピアノ三重奏曲であるが、小品集のような側面もあるので、ピアノ三重奏曲4番にはならなかった曲である。葵トリオは、個々の楽章の個性を見事に描き分けつつ、全体的にシューマンらしい魅力を見事に引き出していた。この演奏会の二つ目の白眉であった。ウォーム・アップが十分ではなかったであろう、午前中のピアノ三重奏曲1番と違い、楽器が非常に鳴り出していたというのも良かったのであろうが、小川のヴァイオリンの艶のある音色、伊東の朗々たるチェロの音色が充実しており、秋元のピアノもそれをよく受け止めていた。これは名演といっていいであろう。

 

その後は名曲のピアノ四重奏曲とピアノ五重奏曲である。ジュリアード弦楽四重奏団が、バーンシュタイン及びグールドと組んだ録音や、デムスがピアノを担当した録音などを聴いてかなりのお気に入りの二曲である。まずはピアノ四重奏曲は、ピアノが阪田で、ヴァイオリンのシュミットとチェロのマインツが加わりヴィオラは鈴木という組み合わせである。まず敢闘賞は阪田のピアノで、これが非常に安定しつつ、攻めていて良かった。ペダルを多用しないクリアな弾き方ながら、曲の骨格をよく理解して音楽を組み立てていた。これにシュミットの鋭いヴァイオリンとよく歌うマインツのチェロに、アンサンブルの名手の鈴木が加わるのだから悪いはずはないが、非常に充実した演奏であった。聴いていて全く不満がない。4楽章で、阪田のピアノの楽譜がめくってもページが戻りそうになるというのが続き、譜めくりの人が四苦八苦していたのがかわいそうであったが、阪田は全く動じることなく安定したピアノで最後まで弾き切っていた。ほぼ暗譜していたのだろう。

 

ちなみに、最近は紙の楽譜を使う人と、タブレットを使う人が分かれてきていて、ピアノでも阪田は紙の楽譜で、福間はタブレットを使っていた。ピアノ五重奏曲を弾いていたガヤルドもタブレット。タブレットの場合には、足で踏むと楽譜がめくれるペダル(ボタン)があるので、譜めくりが必要ないというメリットがあるし、めくったページが戻ってきてしまうといったこともない。個人的にはタブレットは少し見にくいし、何となく不自然な感じがして好きになれないのだが、メリットも大きいし、デジタル化の波は楽譜の世界にも及んでいるのだろう。

 

最後はピアノ五重奏曲である。ここで初めてヴァイオリンの諏訪内とピアノのガヤルドが登場した。セカンド・ヴァイオリンに米元、ヴィオラに佐々木、チェロにマインツというベテランで固めたメンバーである。まず驚いたのが、一人増えただけなのに、音量が格段に大きくなったこと。線の細いシュミットから、ヴァイオリンが二人に増えた上、うち諏訪内がグァルネリ・デル・ジュスを使っていることもあるのだろう。響きが一気に充実した。ピアノのガヤルドがなかなか個性的な演奏で、表現力が豊かで、比較的常識的な解釈で臨んだ弦楽器に対し、いろいろと仕掛けて来ていて音楽の表情に奥行きを出していた。このアンサンブルでは、実は米元がなかなかいい味を出していて、旋律を取ることの多い諏訪内のファーストよりも、アンサンブルの要となる部分を弾くことが多いせいか、何となく弦楽セクションの司令塔のようになっていた感じがあった。基本的には良い演奏だったが、美しいゆったりとした2楽章の後半で、ヴィオラなどが2楽章冒頭の旋律をピアノの速いパッセージに乗って弾くところなどが、テンポ設定が速過ぎて落ち着かない。この辺はピアノのテンポ設定に少し疑問があった。ただ、ガヤルドのピアノは技術的に安定しているし、解釈も個性的なので、楽しく聴けた。溌溂とした3楽章や、なかなかスケールの大きい4楽章などは充実した演奏であった。やはり最後はベテラン勢でしっかりと決めてくれた。

 

なお、各部の最後には、その部に出演した演奏者が全員で舞台に出て来ていたが、第4部の最後には、全ての部に出ていた奏者のほぼ全員が登場してカーテンコールに応えていた。そんな中で、アンコールとして諏訪内とガヤルドがクララ・シューマンの3つのロマンスからの1曲を演奏し、演奏会の締めくくりとしていた。諏訪内は昨年の室内楽の演奏会でもこのクララ・シューマンの3つのロマンスを弾いていたのでお気に入りの曲なのであろう。常にクララへの愛に溢れていたシューマンの室内楽マラソンを締めくくるのに愛妻クララの作品を持ってきたところは諏訪内の粋な計らいというべきだろう。

 

長丁場で疲れるが、こうしてまとめてある作曲家の室内楽を集中して聴けるというのは貴重な体験であるし、色々と発見もある。昨年のブラームスと今年のシューマンと来たこの室内楽マラソンコンサートだが来年以降はどうするのだろうか。余計なお世話だと思うが、勝手に企画を考えてみよう。まずブラームスとシューマンとなると、続きとしては、メンデルスゾーンとシューベルトが思い浮かぶ。メンデルスゾーンであれば、6曲の弦楽四重奏曲、2曲のピアノ三重奏曲、弦楽八重奏曲に2曲の弦楽五重奏曲などもあり、ヴァイオリン・ソナタもある。若書きの室内楽がかなりの量あるが、その辺なしでも、一日のマラソンコンサートには十分な量がありそうだ。シューベルトは、ピアノ五重奏曲「ます」に弦楽五重奏曲、2曲のピアノ三重奏曲にアルページオーネ・ソナタ、ヴァイオリンとピアノのための作品も6曲ある。問題は15曲もある弦楽四重奏曲をどうするかだが、これは後期の作品に限定して演奏すればいいのではないか。

 

他に質量ともに室内楽を作曲した主要な作曲家というと、フォーレやドヴォルジャークがいる。フォーレは、2曲のヴァイオリン・ソナタ、2曲のチェロ・ソナタ、ピアノ三重奏曲、弦楽四重奏曲、2曲のピアノ四重奏曲に2曲のピアノ五重奏曲と充実している。これも一日かけて演奏すると良さそうだ。ドヴォルジャークは、弦楽四重奏曲がかなり多いが、それ以外にも、4曲のピアノ三重奏曲、2曲のピアノ四重奏曲に2曲のピアノ五重奏曲、(確か)2曲の弦楽五重奏曲に弦楽六重奏曲と素晴らしい作品が並ぶ。弦楽四重奏曲を後期のものに限定すれば、あるいは弦楽四重奏曲抜きでも一日かけて演奏するのに良さそうだ。

 

他にも、ショスタコーヴィッチも良さそうだ。15曲の弦楽四重奏曲も充実しているが、2曲のピアノ三重奏曲、ピアノ五重奏曲、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのためのソナタとかなり重量級のラインナップになる。弦楽四重奏曲をセレクションにして、ピアノの入る曲を中心に組めば、かなり充実した一日のプログラムが組めそうだ。バルトークも、6曲の弦楽四重奏曲に2曲のヴァイオリン・ソナタに2曲のヴァイオリンとピアノのための狂詩曲、ピアノ、クラリネットとヴァイオリンのためのコントラスツに、2台のピアノと打楽器のためのソナタまでやれば、かなり充実したプログラムになりそうだ。

 

ただ、個人的に期待したいのは、フランクとその弟子の室内楽を一日でというもの。フランクには、ヴァイオリン・ソナタ以外にも、弦楽四重奏曲、ピアノ五重奏曲という傑作があり、さらに、初期の作品ながら素晴らしいピアノ三重奏曲1番などもある。これに弟子のショーソンの室内楽、ピアノ三重奏曲、弦楽四重奏曲にピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のためのコンセールを加え、ついでに同じくフランクと同じフランス・オルガン楽派のヴィエルヌの室内楽を加えると素晴らしいだろう。ヴィエルヌといえば、ヴァイオリン・ソナタやチェロ・ソナタもいいが、ピアノ五重奏曲が素晴らしい。ピアノ五重奏曲は、ピアニストの阪田がインタビューで弾いてみたいと言っていたので、企画すれば実現可能性は高いのではないだろうか。

 

来年以降も芸術監督の諏訪内に頑張ってもらい、この室内楽マラソンコンサートの企画は続けてもらいたい。