生誕200年のブルックナー・イヤーである2024年であるがどうしても取り上げられる曲に少し偏りがある。個人的には大好きだが実演に接する機会が後期の作品の中では少ないのが交響曲6番である。ざっと見た感じでは在京のオーケストラも6番の演奏予定はなさそうであった。そんな中、1月に東京で6番を2回も聴ける。大フィルと札響の東京公演でいずれも6番が取り上げられるのである。素晴らしいことである。残念ながら、1月22日に予定されている大フィルの東京公演が仕事の都合でどうしても行けない。と悩んでいたところ、たまたま所用で関西に行く予定があり、その前日に午後休暇を取れれば何と大阪の本拠地で大フィルを聴けることに気が付いた。幸い、午後休暇も無事に取れたので足を運んでみた。

 

1月19日(金)フェスティバルホール

武満徹 オーケストラのための「波の盆」

ブルックナー 交響曲6番

尾高忠明/大阪フィルハーモニー交響楽団

 

大阪は中之島にあるフェスティバルホールには初めて足を踏み入れた。近代的な素敵なホールであるが、驚いたのは音響の良さである。2階の後ろの方の、天井が被っているそれほど良い席を確保していたわけではないが、物凄くクリアにオーケストラの音が届いてくる。大フィルは、東京でサントリーホールやミューザ川崎でも聴いたことがあるが、かなり印象が変わる。大フィルは、フェスティバルホールの音響に合わせて調整されているのかもしれないと感じた(ただ、尾高指揮の大フィルのブルックナーはサントリーホールで収録されていることもある。折角なので、本拠地で録音したらとも思うのだが、録音チームがサントリーホールに慣れているということかもしれない。)。

 

最初は尾高が得意としている武満作品から。映画音楽を管弦楽作品にしたこともあり比較的聴きやすい曲であるが、どうも武満の作品は苦手で、約13分の作品を何となく聴き流してしまった。大阪までの移動もあり(新幹線内で当然のようにビールも飲んでいたし)少し集中力を欠いていたかもしれない。ただ、大フィルの音色が素晴らしく、弦の柔らかい、ふくよかな響きが大変心地よかった。また、ホールの音響もあるだろうが、ハープやチェレスタの音が非常にクリアかつ生々しく響いてくるのが良かった。

 

後半のブルックナーに備えてコーヒーを飲んで気合を入れる。コーヒーを注文すると運びやすいようにトレイにコーヒーを置いてお手拭きも添えられて渡された。とても丁寧で感じが良い。あまり東京のホールでは経験しない。

 

そのブルックナーであるが、朝比奈隆以来のブルックナー演奏の伝統を誇る大フィルである。現在の親方である尾高の指揮の下で、非常にしっかりとした演奏を聴かせてくれた。最初の弦楽器の変則リズムの刻みから集中力が高い。音を落としていても非常にクリアに響く。そして、主題が入ってくるとその金管の迫力に圧倒される。各奏者が伸び伸びと吹いていて、それでいて非常にバランスも良い。尾高のブルックナー解釈は、速めのテンポで前に進めていくし、フレーズの終わりもあまりゆっくりせず、すぐに次のパートに入っていくので、いつも少し前のめりな印象を受けることがあるのだが、交響曲6番の1楽章の場合はかなり前のめりに進んでいく音楽なので、尾高の芸風と曲が合っていたようで全く違和感を感じることなく聴くことができた。考えようによっては、少し元気の良すぎる1楽章だったかもしれないが、ブルックナーの重厚な響きをたっぷりと堪能できた。

 

2楽章も速めのテンポで辛口の音楽作りなのだが、大フィルが演奏すると、不思議と実にブルックナーらしい音がする。ちょっとしたフレーズの作り方、弦楽器が管楽器のフレーズに合いの手を入れるところの絶妙のニュアンスなど、体に染みついていると思われる。そして3楽章も引き締まったアンサンブルで充実の演奏である。迫力も十分であるが、それが単なる元気さではなく、実に節度があって、ブルックナーの凝ったリズムを的確に表現していく。

 

4楽章もアンサンブルが素晴らしく良い。尾高の解釈は辛口で、「トリスタンとイゾルデ」の愛の死が引用されているところなども、きちんと響かせつつも、あまり歌い込まずさらりと進んでいく。どんどん前に進んでいく、一気阿世に振り切ったような演奏であったが、最後まで全く不満が残らない充実した演奏であった。尾高指揮のブルックナーについては、いつももう少しゆったりとしたもらいたいと感じる場所があるのだが、素晴らしい演奏は、多少、解釈が好みに合わなくても、そんなことを気にさせずに聴かせてしまう力がある。これまでなかなか満足できる6番の実演にあえなかったが、今回はかなり満足感があった。

 

東京公演に行けないのが残念だが、今回は大フィルのホームグラウンドで、一番オーケストラが調整された状態の響きで聴けたのは収穫であった。やはり本拠地で聴くのは格別である。

 

ブルックナーの6番は、月末に札響の東京公演がある。残念ながら札幌の本拠地での公演に足を運ぶことはできないが、こちらも楽しみである。徐々にブルックナー・イヤーが盛り上がって来た。