第四章 ルシファーの葛藤
ルシファーは自分の境遇を思い巡らした。
「私は天使の代表だ。神様はいつも私を用いてくれた。神様はいつ
も私を最高の位置に立たせてくれた。本当に私は幸せだった。神様
の宇宙創造に参加するのは刺激的だった。スリルもあったし意外性
に満ちていた。百万、千万の美しい花を生み出した。何千億の生命
を生み出した。無数の星を生み出した。その度ごとにUMは私を呼
び、私に解説して下さった。本当にあの頃は楽しかった。
なのに・・・、この胸の寂しさ・・・、辛さ、私の神様はどこかへ
行ってしまった。私をアダムとエバ創造以前のように愛して欲しい
とあれほど訴えたのに、神様は耳を貸してくれなかった。
私を納得させようと同じ説明を繰り返すだけだ。私の心は一体どこ
に落ち着けばいいのか・・・。
神様がアダムとエバを見つめるあのまなざし、あんなに優しいまざ
しを見たことがない。神様がアダムとエバに語りかけるあの優し
さ、あんな優しい言葉を聞いたことがない。今まで私に向かってい
た万物の心は、今や全てアダムとエバに向かっている。花も木も海
も山も空も・・・、ことごとくアダムとエバに注目している。何と
いうことだ。神様は私を単なる使い走りとして利用してきただけな
のか。アダムとエバの登場のための手段に過ぎなかったの
か・・・。
アダムとエバが幼い頃は、素直に愛することができた。我を忘れて
世話をしたものだ。しかしアダムとエバが成長するにつれて私の心
は穏やかさを失った。私の位置はますます危うくなってきた。神様
が言われた通り、UMに最も近い位置はアダムに奪われそうになっ
てきた。もっと悔しいことがある。神様の最高の愛は私に向けられ
てきたと思っていたが、アダムに注がれる愛を見る限り私への愛
は、愛ではなかった。神様はアダムに、エバを与えた。こんな素晴
らしい贈り物があるだろうか。私には仕事という使命は与えられた
が、あれほど素晴らしい贈り物など想像すらできなかった。
花のプレゼントも、おいしい果物のプレゼントも私はあまり気に留
めなかった。しかしアダムにプレゼントされたエバには全く驚い
た。絶対調和の結婚を通して子供までプレゼントされるのだ。天使
の私には肉体がなく、結婚して子供を持つなんて不可能だ。何とい
うことだ。私に与えられたのは仕事だけだ。
どんなことがあっても私は最高の位置が欲しい。その位置を確保す
る以外に私の心は満足することができない。しかしそれには一体ど
うすればよいのか。神様はお前はねたみと嫉妬で動いていると言わ
れたが、このどうしようもない心をどう処理すればよいの
か・・・。」
ルシファーはいつの間には自分をコントロールすることに疲れてい
た。そして神様への愛はいつの間にか神様に対する復讐心へと変貌
した。
「あれほど訴えても神様は聞いてくれない。私の目の前でアダムと
エバを愛している。何が悪いといって神様ほど悪い者はない。初め
から人間創造なんて大それた考えが、そもそも間違っている。最後
に登場して何の働きもない者を、優先して愛するなんて言語道断
だ。たとえ、ねたみでも復讐心でも構わない。心のままに行動ある
のみだ。」
ルシファーはエバに近づき、優しく声をかけた。
「本当に神様は私以外の言葉に耳を傾けてはいけないと言われた
のですか?」
エバは答えた。
「ええそうです。お前達の第一の使命は使命完成であり、使命完成
とは神様の目的を正確に知って、神様から絶対それないことである
と教えられました。もしそこから外れれば私達は神様の原則から外
れ、死んでしまうと言われました。」
ルシファーは答えた。
「そんなことはありません。私は智恵の天使長と言われ、神様から
全権をいただいています。あなた達の教育係であることは良くご存
知ですね。神様はあなた達が善悪をわきまえる知恵者になってもら
いたくてそう言われたのです。そもそもあなた達に自体責任を与え
られたのは、神様はと同格の位置を与え、創造者の位置に立てるた
めでした。つまりあなた達の責任で判断しなさいというのがUMの
願いです。親の言うがままに判断し、神様の言われる通りに行動す
るとすれば、あなたの意志とあなたの責任はどこにあるのですか。
神様の言葉を鵜呑みにしてはいけません。深い意味が隠されている
のです。神様の本当の願いについては私がいつでも解説してあげま
しょう。わからないことがあったら私に聞いて下さい。いちいち小
さなことで神様に聞くまでもないでしょう。
今日は雨がどのようにして空から降るかを教えましょう。
生物は水なくして生きることができません。神様は海を造られまし
た。太陽の熱が海に注がれ水分が蒸発します。そして雲ができま
す。それは風に乗って山に運ばれます。上昇気流に乗って高く吹き
上げられると温度が下がり、空気中の水分が結露します。それが雨
となって空から降ってくるのです。神様はそのようにして生命の躍
動のために、水の循環システムを仕組まれたのです。」
エバは言った。
「ルシファー、あなたはどうしてそんなに頭が良いの。何でも知っ
ているのね。私の父から教わったことなの。アダムは何を聞いても
答えてくれないけど、ルシファーは本当にすごい。」
ルシファーは答えた。
「私は宇宙創造の初めからあなたのお父上のなさることは全部見て
きました。だから何でも知っています。きっと私以上に知恵のある
者はいないと思います。あなたの結婚相手としてアダムが約束され
ていますが、アダムは何も知らないでしょう。不安はありません
か。」
ルシファーは自分の計画を悟られないように、徐々に徐々にエバの
心をつかもうと行動を開始した。
つづく
