アブラハムは神様の指示に従いハガルとイシマエルを追放した。ハ
ガルとイシマエルは追放されて後、民族を形成し今日のアラブを形
成した。民族出発の根底には、愛される立場から追われて生きる悔
しさと恨みがあった。
神様はアブラハムを再び呼んで言われた。
「アブラハムよ。お前には最愛の一人息子イサクがいる。お前は三
種類の供え物に失敗したが、今度はお前の最愛の息子イサクを裂
き、私に捧げなさい。」
アブラハムは神様の指示に震えながら言った。
「一体あなたの願いは何ですか。あなたは私に約束されました。空
の星のように浜辺の砂のように生み増やすと。しかし私にはなかな
か子供が生まれず、ようやくのことでイサク一人を得ました。とこ
ろが今度はその子を殺せとおっしゃるのですか。本当にあなたは私
を愛しておられるのですか。」
神様は無言だった。
しかしアブラハムは心の内で言った。
「三種類の供え物では、私の不注意で悪魔に400年間もの所有権を
渡してしまった。神様の願いには命がけで応えなければならなかっ
たのに・・・。捨ててしかるべき私に神様は再び、何かを期待して
おられる。イサクは私の子ではあるが、それとて神様が造り私に下
さったのだ。神様の願いに今度こそ私は従おう。神様の願いなら最
愛の一人息子をも捧げよう。」
アブラハムは意を決して、最愛の一人息子イサクを連れてモリヤの
地に出かけた。イサクは既に成長して立派な少年になっていた。
イサクは言った。
「お父さん、神様に捧げ物に出かけるのに、火と薪はありますが、
供え物の羊は連れて行かないのですか。」
イサクはまさか自分が捧げられるとは思わなかった。
モリヤの地に着いた時、アブラハムは薪を積んで祭壇を作り、イサ
クを縛ってその上に乗せた。イサクは自分が供え物にされることに
驚いたが何の抵抗もしなかった。
イサクは心の内で言った。
「私の父と母は私をこよなく愛してくれた。祈りの中で老齢にして
生まれた私を目に入れても痛くないほどに愛してくれた。その父が
私を殺そうとしている。よほどの事情があるに違いない。
私よりも父の胸の痛みはもっと大きいに違いない。
母は私なしに一秒も耐えられない人だ。それを父は知っている。な
のに私を殺そうとしている。それ以上の事情があるに違いない。神
様のためにはどんな命令にも従おうとする父を見習って、私も父の
願いに喜んで従おう。」
イサクは観念して全てを父にゆだねた。
アブラハムはイサクを殺そうとして刃物を振り上げた。
その手を振り下ろそうとした瞬間、神様はアブラハムを呼んで言わ
れた。
「アブラハムよ、アブアハムよ。」
彼は答えた。
「はい、ここにおります。」
神様は言われた。
「イサクを手にかけてはならない。また何も彼にしてはならない。
あなたの子、あなたの一人子をさえ、私のために惜しまないので、
あなたが私を何よりも愛するものであることを私は今知った。」
この時アブラハムが目を上げて見ると、後ろに角をやぶに掛けてい
る一頭の雄羊がいた。アブラハムは行ってその雄羊を捕らえ、それ
をその子の代わりに燔祭として捧げた。
つづく
