第十三章 イエストライアングル
悪魔はじっと考え込んでいた。そして一人でつぶやいた。
「いよいよ私の最大の敵が誕生する。かつてアダムが生まれてくる時には、うれしさと期待で胸がいっぱいだったが、今度ばかりはそんなことは言ってられない。神様はいよいよ準備を完了する。そしてWHY代表として完全な一人子を立てようとしている。彼を私の領域に引き込めば決定的勝利だ。もし私が敗北すれば完全に全てが神様のものとなる。これまで何度もトライアングルの奪い合いをしてきたが所詮は天使レベルの戦いだった。しかし今度は違う。正真正銘の神様の子だ。私の攻撃をかわそうと、神様はイスラエルの版図を拡大して善の天使界を準備してきた。一人子を守る盤石の垣根を用意しようと神様は必死でイスラエルの訓練をして来た。「主よ、主よ、一日も早くおいで下さい」と一人子を待ち望む選民思想で基盤を整えて来た。しかし、イスラエルの周りには私の所有する悪の天使世界が強力な権力基盤を持っている。ローマ軍隊は強力だ。イスラエルごときをつぶすのは、いとも簡単だ。だからといって公式違反はできない。トライアングルの法則と三大責任を中心として、神様の愛が勝つか、私の嫉妬心と復讐心が勝つか、一世一代の大勝負だ。私は絶対勝つ。一人子を倒すには、まず垣根となっている善の天使世界を破壊しなければならない。私の武器、嫉妬心と復讐心、誤解、中傷、嘘八百全てを駆使して攻撃しよう。
まず誕生と同時に攻撃を開始しよう。モーセは生まれた時、私の部下ファラオは男の子を皆殺せと命じた。私はまずユダヤのヘロデ大王をたきつけよう。ヘロデは私にそっくりの残虐さを持っている。彼は権力掌握のために妻と二人の子供さえ殺した。これほど冷血漢なら私の目的を達成してくれるだろう。」
悪魔は不安感を植え付け、イエスを攻撃させようとヘロデの心に働きかけた。
「ヘロデ、お前はユダヤの大王だ。お前は最高の支配者だ。しかしお前の支配している民はお前を尊敬していない。表面ではうまいことを言っているが心の中ではお前をさげすんでいる。そんなことが許せるか。それだけではない。イスラエルの民はお前を王と呼んでいるが、その実、王の王がやってくると信じている。マラキの予言によって、民衆はエリヤの出現と神様の子の出現を待ち望んでいる。ヘロデ、お前は王だ。王の王が現れればお前はその子分となる。民衆は皆その王の王を待ち望んでいる。この大いなる謀反を放っておいていいのか。お前のプライドはどこにあるのか。ヘロデ、お前のやるべきことがある。あらゆる預言者、占い師を動員して神の子がどこに出現するか調べ上げるのだ。そして可能性がある地域の子供をみな殺せ。」
神様はいつも真剣かつ深刻だった。その神様が一層真剣かつ深刻になった。神様はミカエルに言われた。ガブリエルも聞いていた。
「ミカエルよ、いよいよ時が来た。私の子が誕生する。この日の到来をどんなに待ったことか。悪魔に染まった人間のかすかな善の本性を頼りにようやく基盤を整えることができた。私の全ての期待を背負ってこの子が誕生する。ヤコブの生涯も、モーセの苦労も、ダビデの基盤もこの子を迎えるためにあった。本当にうれしい。
しかし一抹の不安があることも事実だ。アダムの時は希望一色だった。周りにはアダムを歓迎する環境だけがあった。ルシファーですらその時は喜んでいた。今回は全く違う。幼子に襲いかかろうとする狼が世界を覆っている。私が幼子を守るために造った垣根は貧弱な。その上その民族はローマ帝国の属国だ。垣根のイスラエルの民ですら、どこまでもしっかりと守ってくれるか不安が大きい。いくら教育してもすぐ悪魔に惑わされてしまう。」
神様は思い直して心の内に言った。
「私が心配しているようでは困ったものだ。私の子はきっと立派に使命を果たしてくれる。アダムができなかった三大責任を必ず完成してくれる。その時私は心の底から喜びに満たされる。私の国が完成するのだ。」
ガブリエルが言った。
「ご主人様、いつでも私に命じて下さい。預言者ダニエルには私がメッセージを伝えました。今回はもっと重要な時です。あなたは伝えたいことをたくさんお持ちです。私がいつでもお手伝い致します。」
早速ガブリエルは神様の願いを伝えるために行動を開始した。
祭司ザカリヤは民衆を代表して宮に入り祈っていた。
ガブリエルは言った。
「恐れるな、ザカリヤよ。あなたの祈りが聞き入れられた。あなたの妻エリサベツは身ごもって男の子を産む。その名をヨハネと名づけなさい。お前達は老齢になっているが神様はあなたに子供を賜るのだ。その子は洗礼をもって多くの者を悔い改めに導き、神の一人子の証し人となるであろう。彼は道を整え全てをWHY代表につなげる使命を持っている。」
ザカリヤは言った。
「私が年老いているだけではありません。妻でさえ、もはや子供を産めるような年ではありません。どうしてそんなことが起こるでしょうか。」
ガブリエルは言った。
「神様の約束を疑うとは何事か。あなたのことが成就する日までおしになるであろう。」
この時以来ザカリヤはおしになり何も話せなくなった。
つづく
