SF「三体」と世界の動き | 岩手県知事・たっそ(達増)拓也ブログ

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SF「三体」と世界の動き

 

 中国で大ヒットし、世界中で翻訳され、英語版はオバマ大統領も読んでいて、三部作シリーズ世界累計2,900万部に達したSF小説、「三体」(著者:劉慈欣)が、今年3月、アメリカのネットフリックスによって大作ドラマ化され、話題になっています。

 

 この作品は、世界中の粒子加速器に不具合が生じるところから、話が始まります。岩手県への建設構想があるILC(国際リニアコライダー)は、次世代型の最先端の粒子加速器ですが、ドラマ版には、現在の最先端、ジュネーブ郊外にあるCERN(セルン)の大型加速器も出てきます。

 

 世界中の粒子加速器が機能不全になることで、素粒子物理学の研究が全面的にストップしてしまいます。それによって、人類の科学全般が停滞する恐れが出てきて、さあ、どうなってしまうのか、というのが話の始まりです。

 

 素粒子物理学と、その実験分野である加速器科学による、物質の本質の探究こそが、人類の科学技術の基礎である、という考えが、「三体」のベースにあります。その「三体」が、中国で広く読まれ、世界中に広まり、今回のネットフリックス版ドラマによって更に広まることで、粒子加速器の重要性の認識も、世界に広がっていくでしょう。

 

 「三体」原作では、世界三大加速器が、北米、欧州、中国にある、ということになっていて、そこに日本は出てきません。中国や欧米に比べ、日本では「三体」が、あまり話題になっていないところが、作品中の日本の存在感のなさと、対応している感じがします。

 

 今回、中国の小説を、アメリカの会社が巨費を投じて映像化したわけですが、このような米中の連携は、エンタメの世界では多く見られます。ハリウッド版ゴジラの制作会社が中国資本になり、モスラのふるさとが中国雲南省になって、双子の女性中国人科学者がモスラの世話をするように描かれた、という例もあります。軍事のほか、半導体など、国家安全保障に関係する分野では、激しく対立して見せる米中ですが、生活関連産業や娯楽の分野では、平気で連携・協力しています。日本も、主体性を持って、科学技術や対外関係の方針を決め、実行に移していかなければならないと思います。

(終)