陰陽師河辺名字「今年一番の映画」14 |         きんぱこ(^^)v  

        きんぱこ(^^)v  

  きんぱこ教室、事件簿、小説、評論そして備忘録
      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

今年一番の映画は? ブログネタ:今年一番の映画は? 参加中

***登場人物***
安部清明 平安時代中期の陰陽師。ここでは陰陽師の力として現代と平安時代を自由に動ける術を持つ。母親は狐と噂されるが、実は現代の女性。
河辺名字 安部清明の友人。陰陽師。清明と同じく時空を移動出来る。両親は現代の人ではないかと言われているが定かではない。
泰三    現代のごく普通の少年。清明や名字が気に入って泰三の家に良く現れる
藤少納言 宮廷に使える女房の一人、清少納言に対して「とうしょうなごん」と呼ばれていた。怒ると顔の変化から分厚い化粧がピキッと割れる。しかし、その化粧の奥にある真の素顔を見た男はいない。
豆福    藤少納言に仕える子女房。かわいくて安部清明が密かに気に入っている。
************** 

「臨(リン)兵(ビョウ)闘(トウ)者(シャ)皆(カイ)陣(ジン)裂(レツ)在(ザイ)前(ゼン)」

 魔除けを意味する九字真言。
 陰陽師 河辺名字(かべのみょうじ)。

 安部清明がやってきた。
「やっておるな」
「おう、清明か。この間はわしが勝った」
「何を言うわしだ」
「お前が先に『あぢ!』と言った」
「いや、おまえは燃え出した服を見た家人が水をぶっ掛けた時に『ブワッ!』と言ったのが先だ」
「いやお前が先だ」
「いや違う、おまえだ」
「ならば、いつかもう一度対決をせねばならぬな」
「そうだな、そのチリジリになった髪の毛が治ってからだな」
「おまえはそんなズラをどこで見つけてきた、なんで金色の七三分けなのだ」
「この間行った現代の美容師から借りてきた」
「そんな髪型をしていると、鬼だと思われてもしらないぞ、今日は何だ」
「現代人が問うて来た。『今年一番の映画は?』だとな」

-----------------------------------

「えいが」
「そうだ、映画だ。現代に来て一番驚いたものが『えいが』だ。」
「あの、何時の時代でも見せられて、物語を自在に作れるやつか」
「そうだ、わしらの時代の式神より凄い」
「見たことがある、そして感動した」
「何を見たのだ」
「母べえ。山田洋次という、監督という仕事をする人が作った」

砂坂を這う蟻-1

母べえ - goo 映画


「知っておる、俺も見た。たそがれ清兵衛という映画も見た」
「たそがれせいべい」
「そうだ、面白いぞ」
「母べえによく似ているのか」
「監督が一緒だから良く似ている。この監督は普通のなんでもない家庭の中で一番大切なものは何かと言うことを映画で伝えようとしているのではないか」
「一番大切なもの、何なのだ」
「絆、信頼、愛情。そんなもののことではないか」
「なるほど」
「男と女、家族の絆、幸せ、裏切り、崩壊、そして何も信じない心。人の心は1000年経った今も何も変わらない」
「同じことの繰り返しだ」
「なぜこんなものがあるのだろう」
「ただ生きて、異性を求めて、子孫を増やす。人間の場合、それだけでは子孫が増えて行かないのだろう」
「愛情、欲望、夢、希望、不幸、裏切り……そういうことを感じ続けないと人間は種を継続して行けないのだ」
「だから、そういうことは1000年経とうが2000年経とうが何も変わらないのかもしれないな」
「人が普通、平凡、幸せに生きて行くのは簡単なようで難しい」
「わしらが1000年後の現代に来て一番驚いたことは何か」
「それは先ほども言った。文明の進化ではない。人が持つ心と煩悩は何年経っても全く変わらないということだ」
「母べえは強いな」
「男が不器用でも情けなくても、自分で自分を切り開きながら家庭を大切にしてゆく。これを真面目にやり続けておれば、女は協力してもくれるし、ついても来てくれるはずだ。子供だってそうだ」
「小さな嘘や裏切りの積み重ねが一番怖い」
「こういう映画を、たいらのみやこで見せてみたいの」
「電気がない」
「まあ、しかたがないか」
「それぞれの家庭がそれぞれのドラマだ」
「みんな、山田監督が作るような映画の中に居る」


次回 明日