妖怪 「酒呑童子」(その23)-対 決- |         きんぱこ(^^)v  

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  きんぱこ教室、事件簿、小説、評論そして備忘録
      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

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酒呑童子(しゅてんどうじ) 大江山の首領。鬼・妖怪と呼ばれる。
虎熊童子 酒呑童子の四天王 (23)「対決」で逃げる
星熊童子 酒呑童子の四天王 (23)「対決」で死ぬ
金熊童子 酒呑童子の四天王 鬼ヶ城を守る
石熊童子 酒呑童子の四天王 (23)「対決」で死ぬ
羅刹童子 酒呑童子の重臣  (23)「対決」で死ぬ
夜叉童子 酒呑童子の重臣  (17)「亀山の怪」で死んだ
茨木童子 酒呑童子の重臣  若いが力があり副将となる
夕霧   葛城氏の姫。茨木童子の妻になる。

源 頼光  清和源氏三代目、摂津源氏の始祖。
渡辺綱   頼光四天王 先祖の源融は『源氏物語』の光源氏
碓井貞光  頼光四天王 別称 平 貞光
卜部季武  頼光四天王 別称 平 季武
坂田金時  頼光四天王 まさかりかついでキンタロウ
安部清明 陰陽師 大江山鬼退治を薦めた
冷泉院  時の天皇。奇行が多く変わった天皇
藤原実頼 冷泉院の奇行により関白として摂政

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 寅三つ。午前の四時半である。秋の夜明けは遅い。

 酒宴が開かれていた大部屋は静かだった。庭に焚かれていた火櫓も燃え尽き、僅かに赤い火を残していた。大部屋にはいくつかの囲炉裏があり、そこにくべられた炭が赤くいこっていた。秋山の朝は霜に覆われ、大江山山頂から見ると広大な雲海に見える。



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(この写真はSO-NETブログのハカセさんの写真を借りました。すばらしい写真見てきてください)


 静かな大部屋で一人の男の顔がむくっと起き上がった。渡辺綱

 横を見ると頼光が顔を上げずに目だけを開けてを見ていた。

(刀を取ってきてくれ)

 頼光に向かって目で話した。はむっくりと起き上がって辺りを見渡した。童子共も味方も鼾(いびき)高らかに眠り続けていた。酒豪のも最後はさすがに寝てしまった。しかし、心の隅では緊張が抜けない為すぐに目が覚めたのだ。


(さすがは酒呑童子。恐ろしいばかりの酒豪であった。)

 は静かに起き上がり、ゆっくりと廊下に出た。火櫓の残り火が屋敷を僅かに照らす。真っ白な霜が屋敷の塀の外を覆う。最初に案内された部屋に向かった。そのの後ろ姿を星熊童子の目が追った。


 は薄暗いが僅かな光を頼りに部屋に入り、荷物の奥に隠してあった兜と剣を取り出した。自らの剣を腰に差し、頼光の兜と剣四本を小脇に抱えて立ち上がろうとした時、どこからか声が聞こえた。


「なにをしておるのじゃ」

 綱は声の方向に振り向いた。

 そこに銀色に輝く一本の蜘蛛の糸が垂れてきた。その糸の上から一匹の黒い蜘蛛が降りてきた。蜘蛛はちょうど渡辺綱の目の前にまで下りてきて止まった。蜘蛛の背に人の顔が浮き出し、その顔が喋った。その顔は先ほど広間に居た星熊童子だった。

「おぬしらは、何者じゃ」


 はそれには答えず、抜き打ちざまに刀を逆袈裟に切り上げた。

シャーッ。

 剣が空を切る音がして蜘蛛は真っ二つに切り裂かれながら消えた。

「フッフッフッフ、どこを切っておる」

(あの酒は…やはり効かぬのか。)

「おぬしはあの酒は飲まなんだか」

「おう、飲まなんだ。棟梁は酒好きじゃがワシは嗜まぬ、都の回し者だな」

 は会話を続けがら声の動きを探っていた。声は部屋の中をゆっくりと移動している。綱は足元に置いた刀を足でゆっくりと外に滑らせた。


 がちょうど真後ろを向いたとき、僅かに刀に躓いた音がした。

シャーッ。

 刀がうねりを上げて振り上げられた。

「グオッ」

 刀は重い。振り上げた方向に体を移して刃先を返し、休まず水平に薙いだ。切先は童子の腹を割いた。

「フグッ…おのれ、見破ったか…無念」

 は更に刀を星熊童子の喉を突き刺した。大きな声を出されたくなかった。星熊童子は刺さった刀にぶら下がるように床の上に崩れ落ちた。


(こうしてはおれん)

 は突き刺した刀を引き抜き、四本の刀と頼光の兜のみを持って足早に大広間へと戻った。


 頼光は今か今かとが戻るのを待っていた。 

 突如、酒呑童子の大鼾(いびき)が消えた。そこへが戻ってきた。

「殿、これを」

 は兜と剣を頼光に投げ渡した。頼光は兜を被り剣を抜いて上段から酒呑童子の首めがけて振り下ろした。酒呑童子の目がカッと見開き、頼光を見据えた。

「ヌウォーッ」

 酒呑童子頼光の剣を右手で受け止めた。剣は童子の右手を竹を割るように引き裂いた。

「グウォッ」

 血飛沫(ちしぶき)が舞い上がる、酒呑童子は転がりながら大剣を左手で掴んだ。


「おどれらーっ、何者じゃあ」

 その声は屋敷を震わした。屋敷の者は皆その声で飛び起きた。

「我は源頼光とその四天王。帝の命により悪鬼酒呑童子を成敗いたす」

「グウォーッ、卑怯な者共よ。」

 立ち上がった酒呑童子の後ろには気のオーラが舞い上がり、怒りと悲しみを表した鬼の亡霊が舞い上がった。

「鬼と化して都の者を連れ去り、悪事数え切れぬ鬼共を、今この剣で斬って捨てよう」

「悪事三昧はおのれ等であろう、平和な村に攻め入って女を犯し男を切り捨て、わし等を鬼と呼ばわる。この卑怯な仕業。ワシ等にはお前らのような横道はなーい!」

 酒呑童子は左手で剣を振りかぶり、頼光めがけて渾身(こんしん)の一撃を見舞った。

ジャキッ。

 頼光酒呑童子の剣を頭に受けた。兜から火花が散る。しかしその力に屈してよろめいた。



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(注:私の物語とこの絵とは内容が異なります)



「殿っ」

 渡辺綱はよろめいた頼光を支えて酒呑童子と対峙した。酒呑童子はそれには構わず頼光に二の太刀をあびせにかかった。

「都のもの、死ねい」

「シャーッ」

 酒呑童子の太刀を渡辺綱が受け止める。頼光は横から酒呑童子の左腕を切って落とした。

「グワッ」

「棟梁っ」

 後ろから石熊童子の声がした。


 羅刹童子卜部と対峙していた。自慢の跳躍で卜部を頭上から斬り捨てようと飛び上がった。しかし、なぜか飛び上がれずに床に転げた。卜部はすかさず羅刹童子の首を切り落とした。

 そこへ石熊童子の剣が飛んできた。それを坂田金時が受け止めた。横から碓井石熊童子の頭へと剣をから竹割りに振り下ろした。

ガキン。

 石熊童子は西洋の丸い兜をつけていた。碓井の剣は鎧に跳ね返されて石熊童子の横につんのめってしまう。すかさず石熊童子が剣を振り上げる。

「うぉー」

 坂田金時石熊童子めがけて剣を前に出したまま体ごと突進した。

「ぐふっ」

 坂田の剣は石熊童子の肝臓を貫いた。肝臓を突かれると人間は即死となる。


 酒呑童子は両腕を失って立っていた。

「おのれ、外道共。何が都だあ。人の欲を集めただけの国などこの世にいらんわ。この体朽ちようとも、おぬしらの末代にまでも化け続けてやろう」

 頼光は剣を横に構え、無抵抗の酒呑童子の首めがけて振りぬいた。

 酒呑童子の胴は血しぶきを上げてどっと倒れた。首は壁に当たり床を転げた。

 怒りの炎が吹き出る目は次第に黒くなり、とうとう炎も消え去った。


「棟梁っ」

「ぐわっ」

 酒呑童子の家来が一斉に部屋に入ろうとした。しかし横から刀や槍が飛んできた。捕らえられていた都人だった。

「源頼光、帝の命による鬼退治。今ここに酒呑童子の首を討ち取ったり」

 頼光は声高らかに叫んだ。それを聞いた酒呑童子の家来達は改めて主人をなくした絶望を感じて床に崩れ落ちた。


「綱と碓井、すぐに鬼ヶ城へ向かってくれ」


霧の合間から東の空だけ僅かに明るい日が差しはじめていた。



【24へ続く】

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