妖怪 「酒呑童子」(その4)-平安の夜ー |         きんぱこ(^^)v  

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      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

茨木童子の食事を待っているうちに夜も深くなってきた。夜叉童子が言った。


「さあ、今日もぼちぼち都に入ろうか」


茨木童子は聞いた。


「都に、何をしに行くのだ」
「取り返しにじゃよ。わしらの村の者が都人に襲われる。そいつらの家を捜して盗られた物を取り返し、二度と襲っては来ぬように見せしめにするのじゃ。ついでに酒や女も奪って帰る。女は人質にもなるで」


 酒呑童子は言った。
「わしらの村、大江の里は都人が来なければ平和な所だった。奴らは村人を襲い、奴隷にして寺をどんどん造りだす。どれだけの男が死に女が襲われ、子供が生きる宛て無く彷徨ったことか。武器や人手では都人には敵うまい。ワシ等を鬼と呼ぶなら、鬼と呼ばせて鬼となろう。」


「俺も行っていいのか、今までに俺のことを馬鹿にした奴らに仕返しをするのだ。」


「わかった、それならば俺について来い。色んなことを教えてやる。ただし、闇雲に殺傷陵辱はするでない。よいか」


「わかった、棟梁の言う通りにする」


「虎熊童子よ、この夜の宛てはどこだ。」


「今宵は、二条大路西京極坊(この頃は横の道を『条』、縦の道を『坊』と呼んだ)に住む、葛城何某という者の屋敷じゃ。ふた月前の福知山報恩寺の村を焼き尽くした一団の頭目じゃ」


「そうか、わかった、ではいつものように別れよう。あの月が真上に来たときに始めるぞ。」


童子達は蓮台野付近を飄々と散って行った。


「茨木童子、お前はわしに着いて来い」


 そう言うと酒呑童子は若い女の姿になって、草むらをゆっくりと都に向かって歩き出した。
 茨木童子は、まだそこまでの術は使えなかった。童子はやさしい顔をした童(わらべ)の姿で、女装した酒呑童子について行った。



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 平安京の夜は暗い。道は土塀に覆われて夜に歩くには月明かりか菜種火を頼るしかない。


 酒呑童子達は月に数度、こうやって大江山から京の近くの老ノ坂峠まで出向いて、夜な夜な憶えのある者の邸を襲っては山に戻って行った。


 蓮台野は嵯峨野にある化野(あだしの)と同様、都の郊外にある墓地だった。墓地と言っても庶民や縁故の無くなった無縁仏のある墓地だった。中には墓すら無く、野ざらしにされた死体も多く、夜な夜な成仏できなかった霊が行き場もなく彷徨い歩いたという。そんな霊が終結して妖怪の姿となり、真夜中に彷徨い歩いた。

 その妖怪の群れを見ると必ず災いが起きたといわれる。都人はこの妖怪の群れを「百鬼夜行」と呼ばわって恐れていた。



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(現在の化野念仏寺。今でも無縁仏が多く眠っている)


 二人は西京極坊一条の角に来た。酒呑童子は女に化けている。


「うー、ヒック…、んん、そこにおるのは女ではないか、…ヒック、よし、わしが助けてやる、こっちに来い…ヒック」


 女は動かない。しかし、茨木童子はまだ若かった。酒呑童子扮する女に後ろから思い切り背筋を伸ばした。すると見る見る背が伸びて2mを越す大男になった。童子は顔を怒らせ酔っ払いの男に威嚇した。


「ヒッ……、ヒー出たーでたでたでたでたでた…、オニッオニッオニッオニッオッオッオッオッオッ」


 男は酔いもさめては腰を抜かしそうになりながら、這うように逃げ去って行った。


「まだ若いな茨木童子よ。会うものすべてを脅かせておると、身が持たんぞ。…ホーッホッホッホ」


「そうだな、しかし、ひとつ術を覚えた」


「都は初めてじゃな。あの東に見える薄明るい屋敷が大内裏と言って、帝が住んでいる。平安の都の夜は暗いが、あそこだけはいつも明るい。しかし、むやみには近づくでない。屈強な武士共が沢山おるでな」


酒呑童子はそういって東にある広大な建物を指指した。

「わかった、けど何時かは中を見てみたい」


「あわてる事はない」


 源頼光の四天王の一人、卜部季武(うらべ すえたけ)は大内裏の端にある警護部屋で酒を飲んでいた。廊下を女が泣いて走り去った。



【5へ続く】


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