--マンション--
(なにも後ろめたいことは無い、社長自身にうらみもない、恨まれてもいない。
わざわざ東京に呼び出すには、それ相応の理由があるはずだ。
逃げたと思われているか?・・いや、そのためにもこうして自腹で来ている。)
もし、何かを追い詰めるには、追い詰めるネタを相手に与えておくものだ。
社長ならそれくらいのことはする。
しかし、私には思い当たる節が無かった。
やはり目的は金か・・・。
追い詰めてくるとしたら、どこまで来るか・・・。
私自身に金はない、しかし、その気になって追い詰めるといくらでも
ネタは作れるものだ。
しかし、そのために仕込まれるネタが、私に限っては弱い気がした。
山手通りを越えると、目的のマンションはすぐにわかった。
古びたマンションで、一階はスナックになっていた。
スナックの入り口に一人、道路を渡ったクリーニング屋の店影に一人。
明らかに、周りとはマッチングしない、若者が立っていた。
(マンションが古い、見張りがいる、やはりろくなことではないな・・・。)
私は、見張りを見た途端、自分が想定している最悪の運命を受け入れて、腹が座った。
マンションの入り口で、見張りに声をかけた。
「おぇ、ここの何階や?」
不意に声をかけられた男は、返事していいものか戸惑ったあと、私を睨み返してきた。
私は、返答を待たずに無視してマンションの階段を上がっていった。
マンションの5階の入り口に一人立っていた。
(外には合計三人か・・・)
入り口の男はニヤッと微笑んでいた。面識はない。
「こんにちは」
とゆっくり挨拶をして、ドアを開けた。
中は、恐らく2DKだろう。
入り口左に一部屋。
右にはトイレと風呂、正面奥にリビング、そして見えないが
正面左に一部屋あるだろう。
正面のリビングに一人、社長の弟にくっ付いていたチンピラだった。
左の部屋は襖で閉められているが二人ほど気配がある。
リビングの入り口横に、モップが置いてあった。
私は、一応剣道をやっていたので、モップの柄が目についた。
(この人数なら、難しいけど、いざとなったら何人かは相手できそうだ、
腹括ったほうが有利だな・・・けどこの人数では・・なんとかなれ!)
リビングの左の部屋に入った。