「おめでとう!通算10000ポイントだよ!」
 目の前に煙がたちこめ、それが消えると木の杖をついた老人。
 まるで神様みたいだな。そう思っていた男に、老人は言う。
「わしはご覧のとおり神。さっき、君は車にはねられそうになった子どもを助けたね。それで10000ポイントなんだよ」
 神と名乗る老人の言葉を、男はさっぱり飲み込めない。
 神はまるで小説の種明かしをする筆者のごとく、説明じみた台詞をはく。
「人間の振る舞いに、神はポイントを与えているのじゃよ。それが節目になった時、わしらの出番なのじゃ」
 よくわからないが、自分が何かの恩恵にあずかれるのだろうと言うことはわかった男。
「さあ、10000ポイントだと、お前の望むことを1つだけかなえてやろう。多少制限はあるがな」
 多少? 男は鋭い目線を神に向ける。
「ただし、何でもかなえてくれとか、何回でもかなえてくれとか、そういうのはだめだ」
 神は予防線を張りつつ、男に返答を催促した。

 男は少々考えると、神に願いを告げた。
 ポイント100倍でどうだ、と。
 そう、今日以降の善行に、ポイントを100倍でつけてくれ、と。
「むむ、そんな抜け道があったとは・・・回数を増やすわけではないし・・・むむむ」
 やむを得まい。わしの説明が悪かったのだ。よかろう。
 神は脂汗を浮かべながら、男の願いをかなえることを約束した。

 神が姿を消してから、男はなんだかよくわからない気分であった。
 だが、目の前で神が神らしく一瞬で姿を消したことを見て、懐疑的な気分は薄れていた。
 そして、早く善行を積まねばと、都会の喧騒の中をきょろきょろ見回していた。

 すると、目の前で老婆が荷物を抱えて困っている。
 これはすごいポイントになるぞ。男は手前の横断歩道が赤信号なのもかまわず疾駆した。
「おいおい、そこの旦那」
 老婆にたどり着く直前に、男はいきなり右肩を叩かれた。
 男は怒り心頭の面持ちでその方向に振り返ると、黒いコートを羽織った男が、八重歯を出して笑っている。
「あんた、悪いことしたね。俺は死神さ。罰を与えに来たぜ」
 罰? 何を言うんだ? 男は死神に食って掛かる。
「お前、さっき信号無視したろ。それでポイント達成だ。お前さんの悪行、死んで償ってもらえとの裁定だよ」
 死ぬ? 悪行? 信号無視で?
 男は死神の首をつかみ、渾身の力で締め付ける。
「何をやっても無駄さ。お前さんのポイントは100倍だったからな」
 
 100倍?
 さっき神は約束したが、それは善行ポイントのはずだ!
 男は死神に食って掛かった。
「ああ、100倍だろ。善悪ポイント。お前さんの悪行も100倍になるんだよ。神の野郎、ちゃんと説明しなかったのか?」


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