Pちゃんはご近所に住むお婆ちゃんたちと仲が良い。

 

70−80代のそのお婆ちゃんたちは、お婆ちゃんという言葉が似合わないほど元気な人たちばかり。

 

離婚したり、未亡人だったり、皆、一人暮らし。

 

その中の一人、マルティーヌさん、鬱気味らしい。

 

元は人文系の大学教授、70代後半。

 

独身、子無し。

 

腰がちょっと悪い以外は体力的には健康。

 

でも、もともと、ちょっと気難しいというか、ネガティブ思考の傾向がある。

 

そんな風になったのも、20代始めに恋人を交通事故で亡くした頃かららしい。

 

マルティーヌさんと恋人は、なんと1970年代初頭に日本を1ヶ月間も旅行した。

 

その旅行の様子を話してくれる時のマルティーヌさんはとても生き生きとしてる。

 

恋人が交通事故で亡くなったのは日本からフランスに戻って2週間後だった。

 

マルティーヌさんの手元には日本旅行の写真がほとんど残っていない。

 

恋人の家族に遺品として渡ってしまったからだ。

 

マルティーヌさんは、恋人が写っている日本旅行の写真は1枚だけ。

 

ベルボトムのジーンズをはいた彼女の恋人は20代のままで富士山を背景にバイクの横で笑っている。