山口裕加さん (オーボエ奏者) スマートなオーボエの伝道師
香川県高松市出身。
高松市立高松第一高等学校音楽科卒業。
桐朋学園大学音楽学部を卒業。同大学研究科修了。
ソロ、室内楽での演奏活動のほか、東京フィルハーモニー管弦楽団、東京都交響楽団、読売日本交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団などのエキストラ奏者として活動中。
1 大学まで
〇香川県は音楽県
香川県といってもピンとこなくても、『うどん県』といえば通じるくらい、讃岐うどんは有名ですが、『うどん県、それだけじゃない香川県』。
それ以外のいいところもたくさんあります。
その一つが『音楽県』ということ。
日本一面積の小さい県に、音楽の専門科がある高校が公立だけでも2つあります。
また、高松国際ピアノコンクールや、瀬戸内芸術祭など大きな芸術イベントが開催される文化意識の高いところです。
〇楽器変遷
幼稚園にヤマハオルガン教室が開かれていて、小学校2年生まで通ったのが、私の音楽の始まりです。
その後自然にピアノへと移りました。
小学校4年の時には、ヴァイオリンもはじめました。
きっかけは、(糸を擦っても音は出ないのに、ヴァイオリンはなぜ音が出るのだろう?)と思ったことです。
両親にお願いして始めさせてもらいました。残念ながら、6年生に上がる前に鉄棒から落ちて、右手首を骨折してやめてしまいましたが・・・。
〇オーボエ
母がオーボエ奏者で、とても楽しそうだったので、小さい頃からやってみたいと思っていました。
ですが、繊細な楽器ですので、なかなか触らせてもらえず、中学での吹奏楽部で始めることにしました。
ところが入部したところ、オーボエがなかったのです。数日後にオーボエが棚の奥の方から出てきた(笑)という事で、ようやく始めることができました。
自分自身のオーボエを手に入れたのは、中学1年生の途中からです。今は亡き岩﨑勇先生が選んでくださいました。それがマリゴ(Marigaux。フランス製)との出会いです。
高校でも吹奏楽部を続けました。
というか音楽科でしたので、半ば強制的に吹奏楽部でした(笑)。
母も従姉妹も同じ高校の吹奏楽部でオーボエを吹いていたので、もちろんその憧れもありましたけど。
その後オーボエをとことん極めたいという思いから、自然と音大へ進学することになりました。
2 大学
○桐朋学園大学
そんなに大きくはない大学ですので、色んな方と知り合えて、和気藹々とした楽しい学校です。
演奏家・音楽家として日本や世界で活躍する現役の先生方から、生きた音楽を学べます。
またソルフェージュなどもとてもレベルが高く、音楽をより深く読み取る力が演奏にもつながります。
小さいアンサンブルからオーケストラまで幅広く学びの場があります。
〇大学時代の活動 世界の大物たちとの共演
第9回(2006)・10回(2007)別府アルゲリッチ音楽祭に首席オーボエ奏者として出演。
2007年「よんでん(四国電力)文化振興財団」奨学生に選抜。
大学卒業時(2008)に大学より推薦され、ヤマハ管楽器新人演奏会に出演。
大学のオーケストラで別府アルゲリッチ音楽祭のほか、京都、名古屋、富山など色々な都市で演奏させてもらいました。
そのほか木管五重奏(現在も続くピアリ。後述)などで本格的なコンサートホールでの若手のコンサートに出演の機会を頂いたり、幼稚園や病院のロビーコンサートをはじめ、地域に密接したコンサートにもたくさん出演させてもらいました。
神社やお寺の境内で演奏したこともあります。(笑)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)、ミッシャ・マイスキー(チェロ)、チョン・ミョンフン(ヴァイオリン)をはじめ、世界的に活躍されている方とオーケストラで共演させてもらったことは、大きな財産です。
100の言葉で語られるよりも、衝撃を受けました。
3 オーボエ・トーク
〇愛用のオーボエ
オーボエは、 Marigaux (マリゴ。フランス製)とLF(エルエフ。ドイツ製)。
イングリッシュホルン(コーラングレ)も吹きますが、こちらは、Loree(ロレー。フランス製)です。
〇オーボエの魅力
なんといっても独特の柔らかくて哀愁のある音色です。クラシックでも映画音楽などでもおいしいソロがあります。(笑)
(得意・好きな演目)
バロックから現代曲までなんでも好きです。1人でソロを吹く機会も最近は増えてきましたが、アンサンブルやオーケストラでの演奏の方が好きです。
(演奏スタイル、心がけていること)
ファンタジーであること。
まだまだあまり知られていない楽器なので、1人でもたくさん楽器のファンの方が増えるように楽器の魅力を伝えていきたいと思っています。
(ここが難しい)
音を出すということ自体が難しい(!)楽器です。
リードも自分で作る(葦の一種であるケーンという植物を削って作成する)ので、本番に向けてコンディションを持っていけるよう、練習とリード作りとを並行してやらないといけません 。
〇尊敬する音楽人
フランソワ・ルル― (1971- フランスのオーボエ奏者)氏です。
軽やかで、魔法にかけられているような演奏に憧れます。
(初ソロ・リサイタルの時期と会場)
2017年4月30日。ドルチェ・アーティストサロン(西新宿昭和ビル8F)。
(一番印象深いコンサート)
2017年、シルヴァン・カンブルラン(1948- フランスの指揮者)指揮、読売日本交響楽団の公演で、オリヴィエ・メシアン(1908 - 1992)作曲のオペラ「アッシジの聖フランチェスコ」を私も演奏に参加させていただきました。
とても大きな作品で、公演に間に休憩を2回挟んでなんと6時間もかかる!人生で演奏する機会が1度あるかないかという作品に師匠達と一緒に携わらせていただけたことは、大きな宝物です。
特にリハーサルも多く、メシアンの難解な作品にじっくり集中して向かい合えたのも楽しかったです。
〇変わった会場
最近だと、水族館の大水槽の前で演奏しました。
不思議と音楽とお魚の動きがあっているように感じられて、とっても気持ちが良かったです!
(外国)
東京ジュニアフィルハーモックオーケストラの公演で訪れた中国では、万里の長城に感動しました。
ロシアのウラジオストクには2回も演奏する機会を頂きましたが、総領事さんから貴重な現地のお話をきけたり、地元の演奏家と交流が出来てとっても刺激を受けました。
ドイツでは著名なヘルムート・ヴィンシャーマン氏(1920 -)をはじめ、たくさんの素晴らしい音楽家の方々のレッスンを受け、コンサートに参加させていただきました。
そのほかにもオーストリア、フランス、イタリア、シンガポール、モルディブなどに行きましたが、地元の方々と交流したり、その土地のものを見たり聴いたり食べたりした経験全部が、私の人生観を変えていきました。
その中でも1番自分の人生を考えるキッカケになったのは、ドイツに短期留学していた時に、長距離移動していた電車からの景色です。ただただ緑の豊かな土地が広がっていて、日本の新幹線からの景色とはまた全然違っていました。その時じっくり自分と対話する時間が持てたのかもしれません。
4 フリートーク
○TV番組のレポーター
2012年から14年頃まで、西日本放送の「Doki」「ハッピー探偵社」でレポーターを勤めました。
オーボエという楽器をもっと沢山の人に知ってほしいなと思って始めました。普段経験できない事が沢山できるのも楽しかったです。
1番初めのロケはうどん打ち体験でした。
昔は実家でも作っていたそうなのですが(ひいおばあちゃんとかの時代)、現在ではうどん県民といえども、自分ではなかなかやる機会はなかったので、リクエストさせてもらいました。
うどんを伸ばすときはリズムが大切だそうで、上手にリズムにのれていると、うどんも踊ってくるのです!
あと大好きなディズニーランドでの撮影は最高でした!
撮影クルーごとに広報担当の方が付いてくださるので、普段は聞けないマニアックな話をたくさん聞けて、幸せな体験でした。
食レポはなかなか苦労したので、今でもご飯を食べるとつい何かコメントを思い浮かべる癖がついてしまいました(笑)。
アナウンサーの亀谷さん、堺さんもとても人間力溢れた方で、一緒にいるだけでパワーをいただけました。お二人とも日テレで賞をとられている
実力派。先日、コンサートで中井美穂(元フジテレビ・現フリーアナ)さんとご一緒させていただくことがあったのですが、アナウンサーは気配り上手で、自然と周りの人と溶け込んで場を明るくさせる方が多いと思いまし
た。カメラマンの藤澤さんや、岡野プロデューサーさんをはじめ沢山の方々に色んなプロの世界を教えていただきました。
また、『伝える』ということについて、考えたり色々アドバイスを頂いたりと、音楽だけやっていたのでは気づけないことを沢山教わりました。
また機会があればぜひやってみたいです。
(得意なこと)
得意というより好きなことですが、ずっと組んでいるアンサンブルでやるために編曲をするのが好きです。
楽譜製作ソフト『フィナーレ』の打ち込みは得意といえるかも。
(カラオケの十八番)
歌はあまり得意ではないのでほとんど行かないのですが・・・。
『天城越え』『青い珊瑚礁』とかでしょうか。
(これまで会ったスゴイ人)
これまで、声優の田中真弓さんと共演させて頂くことが何度かあったのですが、本当にお客さんを楽しませるということと、いつも高いクオリティに感動させられます。特に真弓さんの歌う『皺皺に輝け』はいつも涙が出そうになります。
5 木管五重奏『アンサンブルピアリ』
桐朋学園大学ではアンサンブルを授業でも学べるのですが、それ以外でも自分たちで自由にアンサンブルを組んで、習いたい先生にレッスンをしてもらえるシステムがあるのです。
そこで木管五重奏をより深めたいと仲間を集った(声をかけた)のが結成のきっかけです。
そのうちに病院や老人ホーム、幼稚園、学校等で演奏する機会を頂くようになりました。
本格的な木管五重奏の作品も知って頂きたいと思うのとともに、幅広い世代の方に気軽に楽しんでいただけるよう、テレビや映画で使われている曲や歌謡曲などの作品を自分たちでアレンジしてもいます。
結成11年目を迎え、最近では、物語つきの作品もやっていきたいということで、ピアリオリジナルの物語つきの作品『ぼくとカッパのみどりちゃん』を声優の田中真弓さんに朗読・歌を担当していただきました。
これからも『ゆりかごから棺桶直前まで』をモットーに、いろんなことに常に挑戦していきたいと思っています。
(取材を終えて)
山口裕加さんは、人生を肯定的に捉え、楽しまれている人。
要するにスマートなのです。おそらく、いつも「今が一番楽しいです」と自然に言える人に違いないと思いました。
「高校生の時、プリクラを撮っていて、オーボエを忘れるということをしてしまったんです!!すぐに気がついて、お店の人に、
『オーボエの忘れ物にありませんでしたか?』
と聞いたら、
『クラリネットならありましたけど』
と言われて、オーボエの認知度の低さにショックを受けました。
近年、『のだめカンタービレ』の黒木くんのおかげで、ずいぶん認知度が上がりました(笑)が、それまでは本当に全然で。
それで、もっとたくさんオーボエの魅力を伝えたい!と思うようになりました」
と山口さんは言われます。
今回、「奏者が楽器を光らせる」ということもあるのかなと思いました。
地味な楽器オーボエも山口さんが持てば、キラキラした楽器に見えてくるのです。
これからもオーボエの魅力の伝道師としてご活躍されることでしょう