映画「プリティ・イン・ピンク」とタロットカードの奥深い世界 後編 | さざ波スワン ~タロットと旅する~

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前回は映画「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角」を題材に、人生のスタート地点における設定が、人それぞれ生まれてくる時点で既に決まっているというお話をしました。
そして、その点にフォーカスしたタロットカードが一枚あるということにも触れました。

 

 

では、まず、どのタロットカードがこのテーマに関連するのかをお伝えします。
それは「恋人」というカードです。

 


 

自分というものがいったいどこからやってきたんだろうと考えたことはおありですか。
悩みを抱えて、人生について深く考えた時、そんな疑問が頭をよぎったことはないでしょうか。
「いや、そりゃお母さんのお腹からに決まってるでしょ」という一言で片づけてしまわれる方もいらっしゃるかもしれません。
確かに物質的な身体がお母さんのお腹の中で形成されることは理解できますが、そもそもこういったことを考えている「私」は、果たしてどこからやってきたのでしょうか。

19世紀に入ってからタロットカードはヘルメティック・カバラという神秘思想と結びつけられるようになりました。
この思想は「生命の木」と呼ばれる図に表されており、この生命の木はタロットカードを理解するうえで大変重要な鍵を握っています。
生命の木は人間が歩む人生を深く理解するためのロード・マップのようなものです。
この生命の木の前提として、アイン、アイン・ソフ、アイン・ソフ・アウルというものが想定されています。
アインは、ヘブライ語で「ではない」という意味を指します。
つまり、私たちが経験できないもの、そもそも語ることすらできないものを象徴的に「アイン」と呼んでいるのです。
これは宗教の世界において「神」と呼ばれるものに似ていると言えます。
次の「アイン・ソフ」は、無限という意味を指します。
これは、語ることすらできないアインとの差異を示すために想定されたものです。
表現が的確ではないかもしれませんが、どこまで行っても終わりのない宇宙をイメージしていただくとよいかもしれません。
三つ目の「アイン・ソフ・アウル」は、無限光を意味します。
これは実際の光というわけではなく、普段の日常生活を暗闇に例えた場合、神秘的な「気付き」を象徴的に「光」と呼んでいるのです。
そして、これらから何らかの形で流出したものが、「生命の木」というフィルターを経て、最終的に今認識している「私」として固定化されたと考えるのがヘルメティック・カバラの思想です。

このような思想を基に、元来のタロットカードを作り変えてできたのが魔術系タロットです。
このブログでよくプチタロット占いに用いているのが、その代表格の「ウェイト=スミス版タロット」です。
映画「プリティ・イン・ピンク」では、バックグラウンドの違うアンディとブレーンがお互いに惹かれ合うところに、胸キュンポイントがあったわけですが、そもそも、アンディとブレーンは二人の個別の人間であるからこそ、求め合うことも可能なのだと思いませんか。
言い換えれば、人間は生まれる前のある時点で他から分離した存在にならなければならず、その分離される際に一人の人間の「設定」も決まるのだと考えられはしないでしょうか。
実は、生命の木において、この分離のフィルターとなる部分に、タロットカードの「恋人」が対応しているのです。

人間は互いに分離しているからこそ、孤独を知り、他者と分かり合いたいという欲求に駆られ、コミュニケーションに至ります。
そして、その延長線上に、恋する気持ちというものが生まれます。
そう考えてみると、奇しくも「恋人」のカードが、自分では変えることのできない「設定」の部分と関連していることも、なんとなく納得できませんか。

私たちは時に、この「生まれた時点で既に決まっている設定」について、苦々しい思いをすることがあります。
裕福でない家庭に生まれたアンディが、裕福な家庭に生まれたブレーンに向かって、

 

「私と付き合うことが恥ずかしいんでしょ?」

 

と悔しさと悲しみの入り混じった激しい感情をぶつけることになったのも、こうした分離、そして生まれる時点で既に決まっている自分の設定が関係しています。
しかし、そんなアンディがブレーンと心を通じ合わせることで、この上ない幸せや充足感を味わうことができるのもまた、この分離があるからこそなのです。

 


というわけで、前編と後編で長い記事になってしまいましたが、今回は一歩踏み込んだタロットカードの世界について書かせていただきました。

<参考資料>
・ジョン・マイケル・グリア(伊泉龍一訳)『生命の木 ゴールデン・ドーンの伝統の中のカバラ』株式会社フォーテュナ、株式会社JRC、2020年
・伊泉龍一先生「生命の木」講座

 

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