言わずと知れた高級紳士服店であり、セッテピエゲと言われるスカーフのように柔和で動きのある七つ折りのネクタイメーカーとしても有名なお店。
扱う商品は50万円を超えるジャケットやスーツ、ズボンは7万円以上が通常の価格帯で、比較的手を出しやすいネクタイでも2〜4万円。
まあ、一般庶民には無縁といえるお店です。
10数年前、僕がまだ20代前半の頃。
香水を目当てに大阪は南船場のサンタマリアノヴェッラの路面店に足を運んだ時、初めてその存在を知りました。今では著名になった高級紳士服店は、当時はその小洒落た香水店に併設され、家具や店の雰囲気も品良く揃えられた10坪程度の小さなお店でした。
紳士服店と香水店はエントランスが別に設けられているものの、中では繋がっており、香水店の代表作であるポプリの香りが紳士服店にも嫌味なく香っていました。
僕はその目当てのポプリの香水と車のルームフレグランスとして同じ香りの匂い袋を購入し、お隣の紳士服店にふと惹かれ、立ち寄りました。
もともと紳士服には興味があったものの、初めて目にしたナポリスタイルのジャケットに柔らかそうなネクタイ。そして当時はそのお店のネームが付けられていた、後のイルミーチョの靴。そして、長身で一見強面な方が、柔らかな笑顔で出迎えてくれたのです。
店員は、まだ20代前半の若造に40万円もするキトンのジャケットを次々と着せてくれました。
「まあ、とりあえず着てみてください。」
なぜか、このセリフは鮮明に憶えてます。
こんな値の張る服が若い人に売れるとは思ってないが、紳士服に興味を持ったなら是非この着心地を体感してほしい。そして、いつか出世した時に買いに来てくれればとても嬉しいという事を、初見では想像も出来なかったくらいに豊かな表情で、楽しそうに話されてました。
いつかはタイユアタイでジャケットを買わねばという目標が出来ました。
キトンのスーツを着るその店員さん
その方との再会は、僕が大変お世話になっているクボクラシックの久保さんが絡んでくるのですがそれは割愛させて頂くとして、先のブログでも紹介した通り、先日のアットリーニの購入により10数年前の約束(?)をようやく果たせたというわけです。
僕はその店で買いたい、その商品を買いたいというより、その人から買いたいという理由で物を購入しています。きっと、これからもそのスタンスは変わりません。
当時、売り上げに関係なく若い僕に紳士服を教えてくれた方が、いまだ同じ店にいらっしゃって、今、その方から目標としていたジャケットを買える喜びは、形容し難く、鈍いが確実に僕の中で小さな感動を生みました。