まだ結婚したての頃です。
近所の二階屋が、出火して燃え尽きてしまいました。
古い木造屋でした。
犠牲者は、寝た切りの老婦人と、息子の知恵遅れの中年男性でした。
私が子供の頃、その知恵遅れの男性に遊んでもらつた記憶があります。
身体は、随分と大きな人でしたが、心はこどものままで成長が止まっていました。
電車が好きで、一緒に乗せてもらいました。
![音譜](https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/038.gif)
切符は持っていません。
改札の駅員さんは、笑って何も言いませんでした。
ただ、「こんにちはー」で改札口を通してくれました。
他の駅では降りないで、くるりと電車に乗る、楽しい小旅行でした。
(母親が、頭を下げているのを見掛けたことがあります)
ある日、
近所の悪ガキたちが、彼を からかいました。
悪ガキたちは、いつも彼を見掛けると、からかっています。
調子に乗って、その中の一人が石を投げたのが、私の胸に当たりました。
彼は、「ウオー」と叫び、その子供を捕まえると、どぶに顔を浸けてしまいました。
![叫び](https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/254.gif)
泣いていても許しません。
近所の大人たちが駆けつけて、引き離すまで子供を どぶに押し込んでいました。
それ以後、
彼は、一人では表に出されませんでした。
こどものからかいから、悲しい生涯を過ごす息子を、母親は面倒を見ていました。
息子が、子供たちと遊びたかったことを知りつつ・・・
長い間、彼のことを忘れていました。
力の尽きた母親は、不憫な息子を一緒に連れて逝ったのでしょうか。
電車に乗った時の嬉しそうな顔を思い出しました。
夜半の火事、
偶然、帰った時のことでした。
短稿でした。
![ニコニコ](https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/139.gif)