島田紳助「伝説のNSC講義」紳竜の研究 (3) | 鈴木太郎の思うこと

鈴木太郎の思うこと

自分の思うことを書いていきます

 
 
■相方と戦略

僕、なかなかコンビ組まなかったの。

なんでか言うたら、友達とコンビ組むんとちゃう、仲ええやつとコンビ組むんとちゃうと。何をしたら、売れるのやと。どうしたら世に出れるのやと。

それで、自分のこの形の漫才をつくろうっていうのを、まず自分の中で考えたんですよ。それで、この形の漫才やったら絶対売れると。

これに・・・失礼な言い方やけど、必要な相方を探そうと思った。

それで、一番はじめに見つけた相方が先輩やったんですけど、「組んでくれ」って言うから組んだんですけど、全然だめやったんですよ。でも、「辞めたいです」って言っても辞めさせてくれへんかったから、嘘ついてね。「アメリカに一年行く」言うて嘘ついて。


(会場笑)


それで逃げたんですけどね。

それで二人目、見つけた子とコンビ組んだんですよ。なんば花月で進行してる子と。

それで、練習は三週間したんですよ。そうしたらもう、逃亡してね。だんだん、「あ、逃げよんな」って思うたけどね。稽古いうても、たぶんみんなと違う稽古してて。

もうおんなじとこ、何回も繰り返して、「違う」、「もう一回」、「違う、音はずれてる」みたいな。さっき言うたみたいな、自分のやろうとしてることがはっきりあるから、「これをするんや」っていうのがあったから。それで三週間したら、逃亡して。また三週間ぐらいしてから現れて。「辞めます」って言うから、しゃあないなって思って。



それで誰か根性いる奴が要るなって思って探してて。竜介と・・・さんまが「なんば花月で根性あるやつ、おるで」言うて来て。「どうや?」って。「ほな、会うてみるわ」って、竜と会うて。

で、三月ごろに会うてね、それでうち京都が実家で、あいつは大阪・都島やったんですけど、あいつが暇なときに週2、3日、京都に来てもらって、夜に。うちに泊まって、それで漫才の稽古、一切せえへんのやね。僕が持ってる、漫才の教科書をあいつに授業するわけ。

「今からは何が売れるのか。どうやれば売れるのか。だから俺はこうしたい。これをつくるんや」と。「だからこれに半年間、付き合ってくれ」と。

「半年経って結果出えへんかったら、俺が間違ってるから・・・教科書が間違ってるもんはどうしようもない」と。それで「今、俺が求めていることはできなくてもいい。できなくてもいいけども、俺が何をしようかということぐらいは、理解はしてくれ」と。



だからね、7月15日が初舞台で、6月いっぱいぐらいまでは稽古せんと。漫才理論みたいな、何をするかっていうこと・・・例えば、衣装のことから、そんなことずっと教えてて。

それで「一発目のネタをやります」と。「これは竜介に、僕が教えた漫才ではまったくないです。めちゃめちゃベタな漫才してん。ものすごいベタな。もう自分でも恥ずかしなるような。でも、まずこれをしてみたいと。それをしばらくして、自分の中で慣れて、お客さんをちゃんと見れるようになってきたら、次へ行こうと。段階でね。



それで、今もスタッフと喋ってたんやけど、9月にNHKで漫才コンクールって今でもあるよね?あれの予選があって。

会社行って、「出してください」って言ったら、会社の当時のエライさんが「何をいうてるんや。無理や。来年にせえ」と。

「お前、まだコンビ組んで、舞台立って二ヶ月やないか。そら、お前、あかんよ」と言われて。

それで生意気やったから、「なにいうてますのん。世界チャンピオンになる人間はストリートファイトで勝つもんですわ」と。「確かにボクシングはまだ一ヶ月しかしてへん。でも、俺は世界チャンピオンになるんやから、こんな新人が相手で、漫才か知らんけど、絶対勝てますよ」と。

そうしたら「勝手にせえ」と言われまして。出て、予選8組のこるんやけど、残って。それで、俺もう当然やと思うてるから。当たり前やんけと。先輩ばっかりやってんけど、こんなカス相手に俺が負けるわけないやんけと思って。



8組が漫才して、そして控室いって、すぐそこが舞台でね。呼ばれるのよ、3位から。優秀努力賞かなんかから。一番いいのが、最優秀話術賞いうて。

それでこうやって待ってたら、「俺やろうな」思って待ってたら、一番最初に名前呼ばれて。いわゆる三番目。それで、頭まっ白になって、負けた悔しさと。

それで表彰式で花束をもらったのを投げつけてね。NHKの人に「お前ら、まちがってる」って言われて。それ以来、ほんまに大阪のNHKから仕事が二十九・・・もう三十年か。仕事がないんよね。


(会場笑)


その時に優勝しはったんが、こだまさんなんですよ。僕よりだいぶ先輩なんですよ。こだまひびきさんのこだまさんね。当時は違うコンビでやってはったんやけど、こだまさんが優勝しはったんですよ。

それで、こだまさん、苦節何年でしたから、横で感動して、インタビュー受けて泣いてはったんですよ。

その泣いてる先輩に「ボケ、コラ」言うてね。「何、泣いてんねん、アホ」って言うてね。「泣くな、アホ」言うて。それでNHKの人に「お前らが、こだまさんを一番と思うなら、それでええ」と。「俺が一番であることを証明したるわ」言うてね。すっごい失礼なこと、言うたんですよ。

それで、やっと二年ぐらい前に、こだまさんにそれを謝ったんですよね。


(会場笑)


申し訳なかったと。後輩として、あるまじき態度をとったと。



でも、やっぱりあの人は違うのやね。怒らんかったもん。

普通やったら怒るやん?先輩やったら。ぜんぜん怒らなかったもんね。あの・・・「すごいな、こいつ」って思ったって。「すっごい自信持ってるな、こいつ」って。「へえ、こいつ怖いなって思った」って。

それで、こだまさんいわく、思い出がいっぱいあってね、それからバーって、大阪で。結構すぐ売れ出したんですけど、それでも新人やから吉本では圧倒的に強いんや、立場が。俺らはゴミみたいなもんや。

それやのに俺、仕事すっぽかすねんね、よく。行かへんのよ。それでこだまさんが「恐ろしい奴やと思った」と。



でも、みんなはね、会社の人も怒るねん。行かへんから。

やんちゃで、生意気で、不良で、すっぽかしてると思ってるのよ。まあ、俺もそんなキャラでしててんけど。

でも実際はちがうのよ。

あの、勝てないから行かない。なんか勝てない現場には行かない、みたいな。
ここ行って、いま自分がいい出来やない。いいネタが出来てない。こんな自分の中でも、中途半端な出来の漫才で、みんなと戦って、負けるぐらいやったら行かんほうがマシやと思っててん、俺。

で、行かへんかったら勝ったか負けたかわからへんやないかと。(それは)引き分けやと(俺は思う)。でも行ったら負けが判明すると。それは、どうするべきやと言うたら、行かないべきやと。それで、めちゃめちゃ怒られると。怒らはったらええと。だから、いつもそういうことを、自分の中では論理はあったんやけど、まわりから見たら、たんなる生意気な奴に見えてね。



あの、吉本の人でも全員かしこくないから、9割の人は漫才わかってへんからね。

だって、当時の劇場の支配人でもよくわかってなかった。よく俺ら、怒られたもん。

10日間の出番で、一日二回、日曜日一回多かったとして、21回。21回の舞台の中で、おれ真剣にするの三回ぐらいなんですよ。あと、しない。

だって、朝のお婆の客相手にやったって無駄やん。それで、無駄やって思うから、俺らの漫才、おばあちゃんにわからへんのに、やってもしゃあないと。向こうも嫌がってはるから、はよやって、2分ぐらいで終わって、ババちびるぐらい怒られてね。


(会場笑)


どっちみち、聞いてはらへんのやから、自分が耳悪いって思わはるわって、わざとちっちゃい声でやったりとか。


(会場笑)


でも、なんでそんなことをしたんかって言うたら、ものすごいイカンことやと思うのやで。イカンことなんやけど、竜介とコンビ組んだときに、俺たちのターゲットは二十歳から35歳の男やと。で、この35歳の男、ここをターゲットに漫才するんやと。

だから、今はもう細分化されたんやけど、僕らのときって違うのよね。子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで笑わせなあかんっていうのが漫才の定義やって。そういう教育を受けてきたんよ。ホントにそういう教育やったから。



だから、そんな中で、俺ひとりが「ちがうんや」と。「細分化されるんや」と。

当時やったら、君ら知らんやろうけど、キャンディーズとかね。

谷村新司さんとか、アリスとか、いたわけや。音楽といっしょになる、と。

例えば、アリスがレコードいっぱい売れるけど、そんなにたくさんに支持されてるかというと違う。一部に強くされてると。だから笑いっていうのは変わってくるんやと。我々は一部に強く支持される漫才をしようと。だから、二十歳から35歳の、男の大学生。それ何でかっていうたら、やっぱり自分に近いやつを笑わすことが一番簡単やから。



で、余談になるけど、売れ出すと劇場にキャーキャー女の子、来よるねん。これが邪魔やねんな。こいつらが俺たちをだめにしていくから。

いっつも相方に言うててん。こいつらは、キャーキャーいうてくれて、俺たちを追いかけてくれて、人気あるような感じを作ってくれてると。こいつらは俺らにとって、すっごい必要や。すっごい必要な客やけど、めちゃくちゃ邪魔やと。こいつらが俺らをだめにしよると。

なんでかって言うたら、こいつらを笑わせることが簡単やから、こいつらを笑わしにかかってまう。こいつらを笑わしにかかった瞬間に、俺たちはすべて終わってまうと。



だから、テレビでも、カメラの奥にいる、こたつで見ている兄ちゃんがおもろいと思ってくれる感覚でやる。いつも、そこに客はいないと。向こうにいるんやと。

だから、今でも劇場あるやんか、吉本に。女子が来るやんか。あの子らを笑わしてたら、絶対あかんよ。ほんまに。

女の子は、あの女の子を笑わしてもええけど、男は女の子を笑わしてたら、もう絶対無理。
あいつらが笑えば笑うほど、一番後ろで見ている、俺たちが一番笑わしたい人たちが「なにやってるんや、この人ら。これ、もうお前、学園祭でやっとけよ。もう身内だけで集まって、やっとけよ」という状況になんのよ。











※ 上記動画の 11:10~20:28までの書き起こし