「うつ病で休職」回復に効果的な“心の休ませ方”、働けないことへの劣等感や罪悪感を遠ざける | みんなの事は知らないが、俺はこう思う。

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6/24(月) 20:02 Yahoo!ニュース

東洋経済 ONLINE


けっして「どうしようもない人間」の病気ではなく、むしろ「人格者の病」である――。依然として社会からの誤解にさらされることの多い「うつ病」について、精神科医の広岡清伸氏はこう語ります。これまで1万人を診察してきた経験をもとに広岡氏が提唱する、「心の病を根っこから治す」ために必要な「平常心」の育み方とは。

*本稿は広岡氏の著書『心の病になった人とその家族が最初に読む本』から一部を抜粋・編集してお届けします。


■うつ病は「どうしようもない人間」の病気ではない


 私は、患者さんに、「うつ病は人格者の病です」と伝えることがよくあります。なぜなら、うつ病は、社会に適応して生きてこられた人が、あるとき、不当な要求に応えようとして応えられず発症してしまうことが多いからです。


 うつ病の患者さんは、「自分のことしか考えない人間だ」「どうしようもない人間だ」と思われることもあるようですが、私の印象は正反対です。発症したからそう見えるだけで、もともとは人のために献身的に振る舞える人です。


 私は、うつ病になりやすい人は社会性があって、順応しようとする人たちだと考えています。ちょっと心配性で、ちょっと気が弱い人なら、なおのこと社会に順応しようとするでしょう。それで成功している人たちです。だからいい高校を出て、大学を出て、一流企業に勤められているのです。


 しかし、仕事は厳しいものです。ここまでできたら、次はここと、ギリギリのところまで会社は求めてきます。それに応えようと、本人も自分を追い込みます。そして、ついに応えられない仕事に出会うことになります。


 その結果、パフォーマンスが落ちて評価が下がる。そうすると、自信をなくし、将来を悲観してしまいます。会社や周囲の手のひら返しの対応に、人を信じられなくなり、仕事を楽しめなくなります。


■ほとんど毎日、1日中ゆううつになる「定型的うつ」


 うつ病は、立派な生き方をされてきたから発症する病です。定型的うつ病は、ほとんどそれです。私のクリニックを訪れたAさんの場合もそうでした。


インターネットで検索して私のクリニックを知ったAさんは、診察室で私にこう訴えてきました。


「どうにもならなくなりました。考えがまとまらず、気力がありません。仕事ができません。会社の仲間と会うのが怖くなりました」

Aさんの症状を細かく聞いていくと、自信喪失、後悔、悲観、会社への強い怒り、焦燥感、情緒不安定、対人恐怖、倦怠感、不眠、食欲不振などがあり、これらは心と脳の蓄積疲労による症状と考えられました。

このような症状が1カ月以上続いていて、徐々に悪化していたのです。

当時42歳のAさんは、とても温和で人に好かれるタイプの会社員です。ご両親との2世帯で、奥様と小学生のお子様2人の6人家族。仕事では上昇志向が強く、課長職に昇進し、これからというときでした。


Aさんは、中間管理職としての未経験の業務が増え、仕事が行き詰まります。元来の心配性、完璧症、几帳面、温和な性格に加え、他の人と一緒に仕事をした経験が少なく、困難な仕事を全部一人で抱え込んでしまったのです。

さらに、新築のローンの心配、家族内の人間関係の悩みが加わった結果、心と脳に疲労をきたしていました。私の診断は、「定型的うつ病」です。

 定型的うつ病を発症すると、ほとんど毎日、ほとんど1日中、ゆううつな気分が続きます。また、ほとんど毎日、ほとんど1日中、すべてのことに興味がなくなり、意欲もわかなくなります。


 人によっては、思考力や決断力、集中力の低下を感じることもあるし、何かトラブルがあると自分を責めるようになります。体に現れる症状としては、食欲がなくなったり、眠れなくなったり、だるさを感じるようになったりします。


 うつ病には、定型的うつ病の他に、「神経症性うつ病」というタイプがあります。神経症性うつ病は、定型型と異なり、情緒が不安定で社会性に乏しい人に多く見受けられます。社会に出てからというより、幼い頃から否定的な体験を多く積み重ねることによって不安心が大きくなったと考えられます。


 神経症性うつ病は、「長く続く軽いうつ状態」ととらえられていますが、私は、「心の中が否定的な思考や感情でいっぱいになった状態」と考えています。症状としては、知覚過敏症状や自律神経症状、過眠、過食などが特徴です。


■他者との比較が「うつ病の種」を生んでしまう


 定型的うつ病も、神経症性うつ病も、不安心のなかに生まれる病の種は、「劣等心」や「微小心」です。劣等心も微小心も、他者や自分の理想像と比較して、いまの自分が劣っているという感情から生まれます。比較するところは、容姿、仕事や学校の成績、性格、社会的地位など、人によってさまざまです。


 いまは、劣等心や微小心の種が生まれやすい時代です。というのは、昔に比べると便利で豊かな時代になり、それが基準になってしまったからです。そして、比較の対象となる情報が、世の中にはあふれているからです。


 いろいろなものが簡単に手に入ることでありがたみを感じることが少なくなっているうえに、スマホを見たり、パソコンで検索したりすれば、まだ手に入れていないものや生き方などが、否が応でも目に飛び込んできます。周囲と比べると、どうしても自分の人生や存在が、平凡でつまらないものに見えてきます。人によっては、惨めさを感じることもあるでしょう。


 さらに、会社でも、学校でも、もしかすると家までもが結果主義で、どれだけがんばっても結果が悪ければ、評価されないことがあります。その評価で「あなたはダメ」「あの人のほうがあなたより優れている」などと言われれば、「自分には価値がない」「自分はダメな人間」だと思ってしまうのも仕方がありません。


 いつも誰かと比べたり、比べられたりしていると、多かれ少なかれ劣等感や微小感が生まれるのは当たり前なのです。


 それでも、自己の中心が平常心にあることが多ければ流せるのですが、不安心にあることが多くなると気になり始めます。そして、自信を失ったり、焦りを感じるようになったり、落ち着きがなくなったり、心に負担がかかるようになり、それが脳の負担にもなっていくのです。


■映画やスポーツで心の病が快方に向かう


 うつ病を発症した場合は休職が最善策です。Aさんがそうだったように、私も休職を勧めています。ここで多くの患者さんに見受けられるのが、働いていないことに対する劣等感や罪悪感です。ゆっくり休まなければいけないのに、復職や転職のことばかり考えていては、うつ病からの回復の妨げになります。


 そこで、私のクリニックで勧めているのがデイケアへの参加です。デイケア(当院の場合は、午前から夜まで行っているので正確には「デイナイトケア」。一般的にデイケアは昼間だけです)とは、スタッフや参加した人たちと一緒に食事をしたり、スポーツをしたり、映画を観たり、カラオケをしたりなど、楽しい時間を過ごすことで肯定的体験を重ねる場所です。


 なぜ、食事やスポーツで心の病が治るのか、と思うかもしれませんが、スタッフや仲間と遊んでいる間は仕事のことを忘れられます。そこには、否定的なことを言う人はいません。レクリエーションで楽しく前向きな気持ちになり、人と人との触れ合いを通して自信を取り戻し、他者への恐怖心も払拭できるようになります。


 専門のスタッフが立ち合いますので、その場が肯定的体験の場になるよう、常時ケアをしています。Aさんにとっても、その効果は大きかったようでした。


デイケアに参加するようになったAさんは、対人恐怖が消失し、このことが復職への不安を払拭することになりました。

デイケアでの体験を通して、人生を楽しむことの大切さ、仲間を信頼することの必要性、休憩を取るコツなどを身につけることができたのです。

Aさんが復職して10年が経過しました。ときどき、軽いうつ状態になることはあるようですが、働きながら回復できているといいます。

いまでは、心の病の経験が部下や同僚への思いやりを深め、みんなの信頼を得ているといいます。


完璧症で心配事に囚われるとなかなか脱出できなかったAさんですが、ネガティブなものの考え方をポジティブに変えることができるようになったのです。

Aさんのいまの座右の銘は、「人生は遊ばなくては損」。

また、スマホには「オーバーワークにならない。疲労回復をしっかりする。完璧主義にならない。相手の良いところを見る。嫌なら放置や遠ざけていい。家族を大切にする」というメモがあり、ときどき確認しているといいます。

そのメモは私がAさんに話した言葉です。


■うつ病は、不条理な社会を懸命に生きてきた「証」


 うつ病を発症したとしても、Aさんのように仕事に復帰される方はたくさんいます。


 ただし、症状が完全に出なくなるまでにはしばらくかかるため、Aさんのように、ときどき軽いうつ状態になるのは珍しいことではありません。ある意味、ストレスのある社会に戻ったということです。


 軽いうつとは、元気がなくなったり、疲れやすくなったり、朝起きづらくなったりなど、うつ病の部分的な症状が出る状態です。周りから「ちょっと元気ないね」と言われることもありますが、早い段階で心と体を休ませると回復します。


 有名な心理学者の中には、「他人を思いやるようになればうつ病は2週間で治る」「うつ病は心の風邪」と断言されている方もいるようですが、臨床の現場では長期にわたって治療を行うのが基本です。


 うつ病を敵対視するのではなく、焦らずにうまくうつ病の症状と付き合っていくのが良いと思います。専門家の中には、うつ病を「病魔」とか、「敵」と想定して、退治することを目標にしている人もいます。人とうつ病を敵対的な構造にしていますが、私は、うつ病は敵対視しないことが大切だと考えています。


 そもそも、うつ病は人としてまっとうな人生を送ってきた中で発症したものであり、不条理な人間社会を懸命に生きてきた結果であり、否定すべきものではありません。うつ病は生きてきた証なのです。


広岡 清伸 :精神科医