【精神科医監修】抗鬱剤は本当に効くのか? | みんなの事は知らないが、俺はこう思う。

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【精神科医監修】抗うつ剤は本当に効くのか?
2021年12月6日更新 | 黒田 真生
「うつ病」という疾患が広く知れ渡った影響により、抗うつ剤が使用される頻度や数も、一昔前と比較すれば飛躍的に高まってきました。「うつ病」の認知度向上は、多くの「うつ病」患者さん達に治療の門戸を開いたという意味で喜ばしいことですが、その反面として、弊害も生じていることは見逃せない事実です。

今回の記事では、抗うつ剤が本当にうつ病に効くのか?について詳しく解説していきます。
※この情報は、2017年4月時点のものです。

1.抗うつ剤は効かない、と思われがちな理由

「抗うつ剤なんて効かないんじゃないの」と考えている方が多くいらっしゃるようです。どうして、抗うつ剤は誤解を招きやすいのか。原因を私なりに考えてみたところ、大きく2つが挙げられると考えるに至りました。

1つ目は、抗うつ剤そのものに由来する原因、そしてもう1つは「うつ病」という病気に由来する原因です。それぞれを順に取り上げることで、抗うつ剤に対する理解を深めていただけると思います。

1-1. 効果がでるまで時間がかかる

まず、抗うつ剤それ自体に関連する原因について説明します。

抗うつ剤は、特に中等度から重症のうつ病に大変有効な薬で、およそ50-75%の患者に効果があると考えられています (1-3)。どんな種類の薬でも、使用したすべての人で効く、ということは理論的にも現実的にもあり得えません。どのくらいの割合の人で効果があるかは、薬によってまちまちですが、おしなべて半分を少し上回る程度であることが多いものです。

ということは、抗うつ剤はかなり優秀な部類に入る薬ということです。にもかかわらず、服用した人がそこまでの効果を実感できないのは、抗うつ剤に次のような特徴があるからだと推測されます。

 

効果が出るまでかなり時間がかかる
少量からはじめて、少しずつ増量する
 

1-2. 継続して使用する必要がある

頭が痛いときに頭痛薬を飲むと、30分もすれば痛みが和らいでくるものです。こうした実例があるためか、多くの人は「薬というものは、使えばすぐに効果があるのが普通だ」と考えがちです。ここでいう「すぐに」とは、一般的な感覚でいえば数時間以内ということになるでしょう。しかし、こうした考えは必ずしも正しいとはいえません。中には、使用してもすぐには効かず、効果が見られるのは、しばらく継続してからというものもあるのです。

 

抗うつ剤は、こうしたタイプの典型です。ひとくちに「抗うつ剤」といっても、以下に示すようにその種類はたくさんありますが、飲み始めてから効果が出るまでに長期間を要する、という特徴は共通して認められます。

 

「長期間」とは、具体的には早くて2-3週間程度、一般的には月単位の時間を指します。どうして効果が出るまでこのように時間がかかるのか、その理由は完全に解明されたわけではありません。ともあれ、実際に使って確かめた結果として、このくらいの期間を要することはいえます。したがって、少なくとも飲み始めの2-3週間は、薬を使ってはいるものの、効果は出ない状態となります。

 

その一方で、副作用は1回薬を飲んだだけでも生じえます。つまり、抗うつ剤の使い初めには、「薬を飲んでも全然効かないのに、副作用ばかり出る」という状況になるのが、むしろ普通なのです。それでも辛抱して継続すると、徐々に薬の効果が出始め、反対に副作用は徐々に軽くなるケースが多いものです。この点を理解していないと、抗うつ剤の悪い面ばかりが目立ち、本来持っている効果を発揮する前に、見切りをつけられてしまう可能性が高くなるのです。

 

2.抗うつ剤の種類

抗うつ剤は、その作用メカニズムにもとづき、次のように分類されます。とはいっても、効果の面ではそれぞれの薬で明らかな優劣は知られていません (3)。もちろん、個々のケースで有効な薬とそうでない薬があるのが普通です。しかし、これは実際にいろいろな薬を投与した結果として初めてわかることで、治療を始める段階ではどのタイプの薬もほぼ等しく有効な可能性がある、という意味です。

 

そのため、最初に使う薬を選択するうえで参考にされるのは、基本的には副作用になります。どういった種類の副作用が起きやすいかは、薬のタイプによって比較的はっきりとした差がありますから、その人の持病などに応じて使い分けることが可能です。ともあれ一般的には、副作用が比較的少ないSSRIやSNRIが、最初に使われる薬としては好まれる傾向にあります (3)。

 

2-1. 三環系抗うつ剤

もっとも古典的な抗うつ剤です。化学構造を見ると、3つの輪っか (環) が連なっているように見えることから、こうした名前で呼ばれています。比較的多い副作用には、口に渇き、便秘、眠気などがあります。代表的な成分 (薬の商品名) は、アミトリプチリン (トリプタノール)、イミプラミン (トフラニール)、クロミプラミン (アナフラニール) など。

 

2-2. 四環系抗うつ剤

三環系と同様に、古くから使われている抗うつ剤です。三環系より化学構造における輪っかの数が1つ多いので、四環系と名付けられました。副作用は三環系と似ていますが、眠気を感じる人が多い傾向にあります。代表的な成分 (薬の商品名) は、セチプチリン (テシプール)、ミアンセリン (テトラミド)、マプロチリン (ルジオミール) など。

 

2-3. 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI)

抗うつ剤に共通する作用のメカニズムに、脳における電気信号を調整する「神経伝達物質」のはたらきを調整することがあります。SSRIは、たくさんの種類がある神経伝達物質のうち、「セロトニン」にもっぱらかかわる薬、という意味です。

 

三環系・四環系に比べると、新しい部類に入る薬です。もっとも有名な副作用は吐き気で、特に飲み始めによくあります。代表的な成分 (薬の商品名) は、パロキセチン (パキシル)、セルトラリン (ジェイゾロフト)、エスシタロプラム (レクサプロ) など。

2-4. セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (SNRI)

上記SSRIは、もっぱらセロトニンに関係するものでしたが、SNRIはこれに加えて「ノルアドレナリン」という別種の神経伝達物質に関係するのが特徴です。これも、比較的新しい抗うつ剤です。特徴的な副作用には、尿が出なくなる「尿閉」があります。

 

そのため、前立腺肥大のある男性などでは慎重に使用する必要があります。代表的な成分 (薬の商品名) は、デュロキセチン (サインバルタ)、ミルナシプラン (トレドミン)、ベンラファキシン (イフェクサー) など。

2-5. ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性薬 (NaSSA)

このグループの薬も、セロトニンとノルアドレナリンにかかわるものですが、その仕組みがこれまでのものとは異なります。化学構造が四環系抗うつ剤と似ており、これと似た特徴も持っています。その特徴の一つが副作用で、このクラスの薬は、抗うつ剤の中でも眠気を生じやすいことが知られています。代表的な成分 (薬の商品名) は、ミルタザピン (レメロン・リフレックス) があります。

 

3.薬の使用方法3種類

あまり意識されないことですが、使用する量が時間とともにどう変化するかに着目すると、薬の使用方法は次の3パターンに分けられます。

 

イ. ずっと同じ量を使う
ロ. 最初にたくさん使って徐々に減らす
ハ. 少量からはじめて徐々に増やす

 

イ. ずっと同じ量を使う

ほとんどの薬は、これにあたります。例えば風邪薬で「1日目はこの量、2日目はそこからこれだけ増減」ということはしないでしょう。この後説明するような、特段の理由がない場合は、こうした使い方になります。

 

ロ. 最初にたくさん使って徐々に減らす

この使い方をする代表的な薬は、ステロイドです。主に炎症を鎮める目的で使用するものですが、最初に多めの量を使うことで一気に症状を抑え、改善するにしたがって少しずつ量を減らしていくのが一般的です。多めの量を使っても、短期間であれば大きな副作用が出ることは稀で、むしろ初期量が不十分だと、だらだらと薬を使うことになり、トータルでの使用量が増える結果になりがちです。そのため、ステロイドに関していえば、最初に大量を使う方が合理的なのです。

 

ハ. 少量からはじめて徐々に増やす

抗うつ剤は、このグループに属します。どうして最初から常用量を使うことをしないかといえば、副作用を軽減するためです。先ほども書きましたが、抗うつ剤の効果が出るのには時間がかかる一方で、こうした副作用は飲み始めてすぐにでも生じます。そこで、最初は身体を慣らす目的で少量から始め、副作用が問題ないことを確認しながら、少しずつ増やしていきます。同じような使い方をする薬として、他に認知症の治療薬などがあります。

 

抗うつ剤は少量からはじめて徐々に増やしていくタイプの薬ですので、抗うつ剤を開始した時点では、十分な効果が期待できる量を使わないのが普通です。稀にこうしたごく少量で効くこともありますが、それは例外的なケースで、通常は効果が期待できる量まで増やすのに、時間がかかるものです。

 

以上をまとめれば、抗うつ剤は「十分な期間」、「十分な量」を使って初めて効果が期待できる薬ということです。逆にいえば、薬の種類を変えることを考慮するのは、これらを満たしてなお効果が不十分な場合に限るのが原則となります。

 

 

4.抗うつ剤が効きやすい「うつ」と、そうでない「うつ」

これまで見てきたように、抗うつ剤には他の薬にはあまり見られない特徴がいくつかあり、そのために実際の効果よりも低い評価を受けている可能性が高いといえます。そして、冒頭でも述べたように、抗うつ剤過小評価される原因にはもう1つあり、それは抗うつ剤を使う対象である「うつ病」に関係することです。

 

★ 「うつ病」と「うつ状態」の違い

「うつ病の原因はストレス」と考える人は多いと思います。しかしながら一概にそうとは言えません。「何で?ストレスがかかると、気持ちが落ち込むじゃないか」と反論したくなるかもしれませんが、このことに納得していただくためには、「うつ病」と「うつ状態」の違いについて説明する必要がありそうです。

 

強いストレスを与えるような出来事が身に降りかかったとき、落ち込んだり気分が沈むのは当然のことです。もっとも分かりやすいのは、家族や友人など身近な人の死でしょう。こうしたことが起これば、「うつ状態」になるのは、人間ならば自然な反応です。自然な反応ということは、つまり病気ではないということです。

 

こうしたものを、専門的には「反応性うつ状態」などと呼ぶことがあります。もっとも、「病気ではない」と「治療は不要である」はイコールにはならず、病気でなくともある程度以上落ち込みなどの症状が強ければ、何らかの治療の適応になることはあり得ます。

 

ここで強調しておきたいのは、こうした明確な原因によって起こる「うつ状態」は、病気である「うつ病」とは異なる点です。では、「うつ病」の原因は何か?実は、これはよく分かっていません。というよりも、現時点では原因はないと考えられています。つまり、明らかな原因がないにもかかわらず、うつ状態になるのが「うつ病」です。だからこそ病気だ、といってもよいでしょう。

 

どうしてこれといった原因がないのに、うつ状態になるのか。これについては、ある程度のことがこれまでの研究の結果として分かっています。それは、先ほど出てきた脳内の「神経伝達物質」に何らかの異常が生じていることです。要するに、脳に病的な機能的変化が起きた結果発症したのが、うつ病です (1)。ただし、こうした神経伝達物質のはたらきに変化が生じる、その根本的な原因がわかってないということです。

 

★抗うつ剤が効きやすいのは、本当の意味でのうつ病

先ほど述べたように、抗うつ剤は神経伝達物質のはたらきを調整する効果を共通して持っていますから、この部分に原因のある、本当の意味でのうつ病に対して有効です。これに対して、反応性うつ状態の場合は、基本的には脳に病的な変化が生じているわけではないので、一般に抗うつ剤の効果は薄いと考えられています

 

。もっとも、後述するようにうつ病と反応性うつ状態を見分けることは必ずしも簡単でないこともあり、反応性うつ状態に抗うつ剤を使うことも意図的かそうでないかにかかわらず、十分にあり得ることです。この場合にも一応効果はありますが、うつ病に使った場合と比較すれば、劇的に効くことは稀です。

 

ところが、一般の方の多くは、うつ病と反応性うつ状態の区別がついていません。そうなると、反応性うつ状態に対して抗うつ剤が使われたケースを見て、「抗うつ剤というものは、あまり効かないものなんだな」と誤解をする可能性が高くなります。

 

つまり、使われる状態によっては、抗うつ剤が本来持っているポテンシャルを十分発揮できていないにもかかわらず、それに気づかれないことがよくあります。これが、抗うつ剤の効果が過小評価されがちな理由の2つ目です。

 

5. うつ状態に対する適切な治療

ここまでは、うつ病やうつ状態の治療に関して、もっぱら薬について説明してきました。すでに何度も指摘したように、うつ病の治療においては、抗うつ剤がよく効くことが多いものです。これに加えて、しっかり休養をとることが、特に中等度から重症うつ病の治療における基本になります。

 

 

もちろん、治療方法は他にもあります。具体的には、いわゆる「カウンセリング」をより系統立てたような「精神療法」や、機械を用いて脳に電気刺激を与えることで症状を改善する「電気けいれん療法」などがそれです。どの治療が適しているかは、重症度や個々のケースによって異なりますから、最終的には主治医の見解に従うべきです。

 

 

ともあれ、抗うつ剤がうつ病の治療にとても役立つものであることは、ほぼ確実にいえます。抗うつ剤に対する誤ったイメージが定着することで、本当は薬で改善する見込みが十分にあるのに、「どうせ抗うつ剤なんか効かない」と誤解し、適切な治療を受ける機会が失われるのは大変な社会的損失というべきです。ぜひ、正確な事実を知ってください。

 

 

うつ病を含めたうつ状態の適切な治療を受けるには、やはり精神科を受診することが最適です。このとき注意が必要なのは、一度病院や主治医を決めたら、なるべくそれを変えないことです。どうしてかといえば、先ほど少し触れた、うつ病と反応性うつ状態の区別が難しいことが、その理由の一部です。

 

 

反応性うつ状態とは、何らかのショックなどによって生じたうつ状態だと説明しました。ですが、よくよく考えてみれば、本当に反応性のうつ状態なのか判断するのは、とても難しいことだと気づきます。というのも、現代社会で生きていれば、嫌なことの一つや二つは、切ないですがしょっちゅうあるでしょう。ということは、後々思い返してみれば、「ひょっとしたら、自分がうつ状態になった原因はこれなのでは?」と考えられる出来事が、何かしら出てくるのが普通です。この考え方を突き詰めると、何でもかんでも反応性うつ状態になってしまいます。

 

 

実際、本当の意味でのうつ病なのか、それとも何か原因となる出来事のあるうつ状態なのか、明確に区別することが困難なケースはあります。しかしながら、見る人が見れば「こちらの色彩が強そうだ」程度の判断はつくケースが多いものです。この判断をするには、当然ながらどのような過程を経て、今のような状態になったのか、具体的かつ十分な量の情報が必要です。要するに、一度や二度の診察では、正確な診断が現実的に難しいことがよくあるのです。継続的に診察を受けることで、徐々に輪郭が明らかになっていき、より適切な治療を受けることにもつながります。それだけに、うつ状態を自覚するなら、精神科で診察を受けることが大切なのです。

6.まとめ

抗うつ剤は、特に中等度から重度のうつ病にとても有効である
抗うつ剤は、飲んでもすぐには効かず、通常月単位の時間を要する
「うつ状態」によっては、抗うつ剤の効果が薄いものもある
うつ病の治療では、なるべく病院を変えずに継続的に精神科での診察を受けることが大切である