ウォルトン「スピットファイア」 | 翡翠の千夜千曲

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音楽を学びたい若者で困難や悩みを抱えている人、情報を求めている人のための資料集

UNC SYMPHONY ORCHESTRA - Prelude and Fugue (The “Spitfire”) (1942) - Sir William Walton

 

Tonu Kalam, Music Director and Conductor 

Thursday, October 11, 2018 

Beasley-Curtis Auditorium, Memorial Hall 

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 子どもの頃は、戦闘機に憧れたものです。チャンバラや戦争ごっこもよくやっていた。プラモデルは高くて時折しか買えませんでしたが、ゼロ戦やスピットファイヤ、グラマンなんてのは皆に人気がありました。機械であれ何であれ、子供も大人も美しいものは好きです。特にメカニックと言うものは、子供を夢中にさせるものの一つです。いまだに戦隊ものに夢中になっている子供たちをみれば分かるでしょう。○○レンジャーもので特に悪い奴をやっつける「レッド」は憧れです。桃レンジャーは人気がなかったなあ。

 戦争に使われたものだとか、人殺しの道具だとかは子どもには無縁です。それが分かるのは、そういう時代、そういう場所にいるからです。人によって様々でしょうが、生と死を意識し始めるのは小学校低学年頃から高学年になる頃でしょうか。動物や親族の死を持って喪失感や、畏怖の念を知ります。ましてや、戦争が犯罪だなどと分かるのはある程度年齢が行かなければ、絶対的な価値観を持って否定するまでには至りません。ましてや、戦争中に作られた作品ですから国民の高揚をあおったかもしれません。

 この音楽、「スピットファイア」は1942年に制作された映画音楽が元になった作品です。フーガはスピットファイヤーが組み立てられていく過程を表現しているのですが、それをフーガで表現するとは、考えもつかないアイデアです。実に面白い!

 これを書いたのは、イギリスの作曲家ウィリアム・ウォルトンです。正確には、サー・ウィリアム・ターナー・ウォルトン(Sir William Turner Walton OM, 1902年3月29日 - 1983年3月8日)は、イギリスの作曲家です。

 代表的な作品に、「ファサード」、カンタータ「ベルシャザールの饗宴」、ヴィオラ協奏曲、交響曲第1番、戴冠行進曲「王冠」、「宝玉と勺杖」などがあります。ウォルトンは完璧主義者であり、そのため筆は遅く長い作曲家生活の中で、彼が残した作品はあまり多くはありません。けれども根強い人気があり、21世紀になっても良く演奏され、2010年までに彼の作品のほとんどすべてがCDでリリースされました。

 さて、マスコミがこの作品をどう評価したか見てみましょう。 

 1942年、『ニュー・ステーツマン・アンド・ネイション(英語版)』誌は映画スコアについて「ウォルトンの音楽は特別の推薦に値する。彼の書いた、スピットファイア組み立てのシークエンスのための『フーガ』は、映画の最も印象的な場面を劇的に盛り立てている」と評した。
 1947年、映画史家ジョン・ハントリーは「『前奏曲』は良質なオーケストレーションの愛国的名作であり、簡潔な構成による理想的な映画音楽だ」と述べた。
 『ウィリアム・ウォルトン 炎のミューズ』(William Walton: Muse of Fire)の著者スティーヴン・ロイドは、「前奏曲」を「ウォルトンの最高のマーチの一つ」と位置づけている。

 では、改めてこの作品のことを調べて行きましょう。「スピットファイア 前奏曲とフーガ」(Spitfire Prelude and Fugue)は、ウォルトンが1942年に作曲した管弦楽曲です。同年に作曲された映画「スピットファイアー」(原題:The First of the Few)の音楽より抜粋・編曲された作品になっています。
 この映画や音楽についてもう少し深堀してみましょう。1942年にウォルトンが音楽を担当した4つの映画が封切られています。これらの映画音楽で、我々一般の観客は作曲者が誰かなんてことは知らないままこの音楽を聴いていたとしても、ウォルトンはこれらの作品で英国楽壇と英国映画音楽界にその名を然と刻んだのです。特に「スピットファイア」の音楽は大変高い評価を得たので、演奏会用の編曲が施され、翌年作曲者自身の指揮により初演・録音が行われています。
 映画の音楽を作曲中の様子が話に残っています。

 「映画の編集作業はようやく終わりを迎えたが、ウォルトンは作曲の最中であった。ウォルトンのために行われる映画の試写に、(主演の)レスリー・ハワードは何らかの理由で出席できないということだったので、彼は私に音楽に関する希望をとても念入りに語った。そして試写の鑑賞を終えると、私はウォルトンに歩み寄り、レスリーの言伝を出来る限り正確に伝えた。彼は注意深く耳を傾け、『ああ、なるほど。彼のお望みは、たくさんの音符なのだね。』と言い残して去り、『フーガ』を書き上げたのである」

 作品の数の多さが音楽の価値を高めるものではありませんが、作品の多さは引きだしの多さを表し、手慣れた手腕を育てることは事実でしょう。けれども、こうした一連の作業を見ていると手固く堅固な構造物となる音楽には、機知に飛んだアイデアとアイデンティティーが見事に結合することを私たちは知るのです。

 

 

※ 演奏会のご案内⑬ ダンシングフルートVol2

 

※ 演奏会のお知らせ⑭ 翡翠トリオピアノ三重奏の夕べ

 

 

Prelude & Fugue: The Spitfire
by William Walton
Brass Band - Sheet Music

 

ウォルトン:≪スピットファイア≫前奏曲とフーガ、戴冠式行進曲 他

チャールズ・グローヴズ

1.
[CD]
1.≪スピットファイア≫前奏曲とフーガ (映画音楽からの改作) 前奏曲
2.≪スピットファイア≫前奏曲とフーガ (映画音楽からの改作) フーガ
3.喜劇的序曲≪スカピーノ≫
4.戴冠式行進曲≪王冠≫
5.戴冠式行進曲≪宝玉と王杖≫
6.ヨハネスブルク祝典序曲
7.カプリッチョ・ブルレスコ
8.映画『ハムレット』より葬送行進曲
9.映画『リチャード三世』より前奏曲
10.シェイクスピア組曲 (『リチャード三世』より) 1.ファンファーレ
11.シェイクスピア組曲 (『リチャード三世』より) 2.奏楽
12.シェイクスピア組曲 (『リチャード三世』より) 3.塔の中の王女
13.シェイクスピア組曲 (『リチャード三世』より) 4.ウィズ・ドラムス・アンド・カラーズ
14.シェイクスピア組曲 (『リチャード三世』より) 5.汝が心を知りたし
15.シェイクスピア組曲 (『リチャード三世』より) 6.ラッパは響く