マーラー「交響曲第1番」 | 翡翠の千夜千曲

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G. Mahler: Symphony No. 1 "Titan" - Lorin Maazel - Sinfónica de Galicia

Orquesta Sinfónica de Galicia - Lorin Maazel, director 

Gustav Mahler (1860-1911): Sinfonía nº 1, en re mayor 

(0:06) I. Langsam, schleppend 

(16:55) II. Scherzo. Kräftig bewegt, doch nicht zu schnell 

(25:32) III. Trauermarsch: Feierlich und gemessen, ohne zu schleppen 

(37:00) IV. Stürmisch bewegt 

Grabación realizada el 17 de mayo de 2012 en el Palacio de la Ópera de A Coruña - Festival Mozart Coruña 2012. Realización de Antonio Cid/RDC Producciones Audio: Pablo Barreiro/RTVG

 

 

 今日から、3日間帰省します。記事等の間違いは後日訂正いたします。

 若い頃の私にとって、マーラーは饒舌なおしゃべり野郎だと喝破(かっぱ)し、「三文役者の長台詞」などと随分失礼で、罰当たりなことを喋っていました。少し年齢を取ってからは、今度はマーラーの音楽ついては語るまいと思っていました。ブルックナーの長台詞とは違って、彼が自然について深い憧憬を持っていることを感じるようになってからでしょうか。いずれにしても、今の今も何を語り、何を語るべきでないかを逡巡(しゅんじゅん)しています。

 1889年の11月20日は、マーラーの交響曲第1番ニ長調 (Symphonie Nr. 1 D-dur) が初演された日です。マーラーの交響曲の中では、演奏時間が比較的短かく、声楽を伴わないこと、曲想が若々しく親しみやすいことなどから、演奏機会や録音がもっとも多いようです。同じように、1805年の今日には、ベートーヴェンの「フィデリオ」が初演されていますが、大変な不評で失敗に終わっています。

 マーラーは1883年にオルミュッツの市立劇場指揮者からカッセル宮廷歌劇場の第2指揮者に変わっています。次の年の1884年にこの曲のスケッチにとりかかります。カッセルへの赴任は自分で望んだのですが、演奏したいと思っていたワーグナーなどの演目は制限され、首席指揮者のヴィルヘルム・トライバーとも意見が合わず、不満が溜まっていきます。1884年にマーラーは、ワーグナー作品を指揮して名を上げたハンス・フォン・ビューローに手紙で弟子入りを申し出、その中に自分の現状の不満もかきます。ところがビューローは弟子入りを断わり、マーラーの手紙をトライバーに渡したので、二人の仲は決裂します。同じころに、恋心を抱いていた相手に振られて、マーラーとしては最悪の気分と言えました。
 結局マーラーは1885年8月に、プラハのドイツ劇場第2指揮者となり、翌1886年8月にはアルトゥル・ニキシュのもとでライプツィヒ市立歌劇場の第2指揮者に就任することになります。ライプツィヒでは、ウェーバーの未完のオペラ「三人のピント」の補完依頼を受けて1887年にこれを完成させています。このオペラの上演を機会にリヒャルト・シュトラウスと初めて出会っています。この頃詩歌集「子供の不思議な角笛」の作曲を1888年から始めますが、ここでもニキシュをはじめとした人間関係が次第に悪化し、健康状態も悪化、5月にはライプツィヒを去ってミュンヘンで手術を受けています。
 1888年10月、マーラーはブダペスト王立歌劇場の音楽監督の座につき、「ラインの黄金」、「ワルキューレ」などのワーグナー作品をカットなしでハンガリー初演し、モーツァルト作品などの上演でも高評価を得ます。1890年の「ドン・ジョヴァンニ」では、これを聴いたブラームスを感激させ、「理想的な『ドン・ジョヴァンニ』を聴きたければ、ブダペストに行くべき」とまで言わせている。こうした中で、曲は、ライプツィヒを去る前の1888年3月に書き上げられ、同年の11月にオーケストレーションが完成しています。

 マーラー自身は当初から手紙などに書いてある通り、交響曲として考えて作曲していましたが、初演時には「交響詩」として発表されています。交響曲として演奏されるようになったのは1896年の改訂後で、「巨人」という副題が知られるが、これは1893年「交響詩」の上演に際して付けられたもので、後にマーラーは削除しています。この題は、愛読書であったジャン・パウルの小説「巨人」(Titan)に由来しています。この曲の作曲中に歌曲集「さすらう若者の歌」(1885年完成)が生み出されており、同歌曲集の第2曲と第4曲の旋律が交響曲の主題に直接用いられているなど、両者は精神的にも音楽的にも密接な関係があります。

 ブルックナーほどではないにしても、マーラーも書き直しの多い人です。演奏される曲が何判であるかは大概プログラムに書いてありますので、それを確認することはとても重要なことです。この1番にも、第1稿から3稿まであり、それぞれが特徴を持っています。第1稿は「ブダペスト稿」とよばれ、先に書いたように「交響詩」として発表しましたが不評に終わります。

 第2稿は、ブダペストでの初演の後、マーラーは第2楽章(花の章)、第3楽章(スケルツォ)、第5楽章(フィナーレ)を書き直しています。1893年1月の段階では、「花の章」を削除するつもりでしたが、8月にはこれを撤回して5楽章構成として残し、ハンブルクで上演、翌年にもヴァイマルで再演しました。

 第1部 青春の日々から、若さ、結実、苦悩のことなど
  第1楽章 春、そして終わることなく
  第2楽章 花の章
  第3楽章 順風に帆を上げて
 第2部 人間喜劇
  第4楽章 座礁、カロ風の葬送行進曲
  第5楽章 地獄から天国へ

 第3稿は、1896年3月、ベルリンでの演奏に当たって、マーラーは「花の章」を削除して全4楽章の「交響曲」としています。二部構成や各楽章に付けられていた標題もすべて削除され、楽器編成は4管編成に増強され、とくにホルンが4本から7本に増やされたのが特徴的です。1楽章の後半トランペットのファンファーレが鳴り響くと、これに呼応するようにホルンが咆哮し、やがてクライマックスを迎えます。ホルン奏者は、この部分を演奏すると溜飲が下がるのではないでしょうか。聞いている方も嬉しくなります。

<楽曲の構成>

第1楽章 Langsam, Schleppend, wie ein Naturlaut - Im Anfang sehr gemächlich

 ゆるやかに、重々しく ニ長調 4/4拍子 序奏付きの自由なソナタ形式(提示部反復指定あり)弦のフラジオレットによるA音の持続のうえに、オーボエとファゴットが4度下降する動機を示す(譜例1)。これは全曲の統一動機であり、カッコウの鳴き声を模したとする解釈もあるが、いずれにせよ、自然を象徴するものと考えられている。遠くからファンファーレや、ホルンの牧歌的な響きが挿入される。低弦に半音階的に順次上行する動機が現れ、4度動機が繰り返されるうちに主部に入り、チェロが第1主題(譜例2)を出す。

譜例1


  \relative c'' { \clef treble \numericTimeSignature \time 4/4 \key d \minor  a'2(\pp^\markup{\center-align \smaller {(Ob. Fg.)}} e | f c | d bes) }

譜例2


  \relative c { \set Staff.midiInstrument = #"cello" \clef bass \time 2/2 \key d \major \partial 2 d4-.(\pp^\markup{\center-align \smaller (Vc.)} a-. | d-. e-. fis-. g-.) | a2( b4 cis8 d | cis4 b a fis | g2 a4 b8 cis | b4 a g e) | fis2 }

 第1主題は4度動機で始まり、『さすらう若者の歌』の第2曲「朝の野原を歩けば」に基づく。第2主題はイ長調で木管に出るが第1主題の対位旋律のように扱われるため、あまり明確でない。提示部は反復指定がある。展開部に入ると序奏の雰囲気が戻る。音楽は次第に沈み込むようになるが、やがて、ホルンの斉奏によって明るく解き放たれる。その後、第1主題と第2主題が展開される。やがて半音階的に上昇する動機が不安を高めるように繰り返されフィナーレを予告、トランペットのファンファーレが鳴りクライマックスをむかえる。その後再現部となるが、非常に短い上、各主題も省略された形で急速に再現されるため、まるでコーダのように感じられる。ティンパニの4度動機の連打で終わる。

演奏時間は15~18分程度。

第2楽章 Kräftig bewegt, doch nicht zu schnell

 力強く運動して イ長調 3/4拍子 複合三部形式

スケルツォ。低弦による4度下降動機のオスティナート・リズム、ヴァイオリンによるオクターヴ上昇する動機の繰り返し(譜例3)にのって、木管が歯切れよくスケルツォ主題(譜例4)を出す。スケルツォ主部はほぼ三部形式をとり、三連符を含む律動的な動機を繰り返して転調していく部分を経てスケルツォ主題が戻る。

譜例3

\new GrandStaff <<
\new Staff \relative c'{\time 3/4 \key a \major R2. r4 r e8-^(^\markup{\center-align \smaller {(Vn. Va.)}}_\markup{\halign #3 \dynamic f}  <e' cis>16) r <e cis>2 r4 r r e,8-^( <e' cis>16) r <e cis>2  }
\new Staff \relative c {\clef bass \time 3/4 \key d \major a2\f^\markup{\center-align \smaller {(Vc. Cb.)}} e4-. a-. a-. e-. a2 e4-. a-. a-. e-. a2  }
>>

譜例4


  \relative c' { \clef treble \time 3/4 \key a \major \partial 4*1 e8-.\f^\markup{\center-align \smaller (Ww.)} r | a-. r r \autoBeamOff cis e, r | a4~ a8 r r e | a r \autoBeamOn a-.[ b-. cis-. d-.] | e4~ e8 }

中間部はヘ長調。ホルンの4度下降動機に次いで、弦が優美なレントラー風の主題(譜例5)を奏する。

譜例5


  \relative c'' { \clef treble \time 3/4 \key f \major \set Score.tempoHideNote = ##t \tempo "Recht gemächlich." 4 = 100 <a f>2\pp^\markup{\center-align \smaller (Vn.)} <c, a>8-. r8 | <a' f>2 <c, a>8-. r8 | \autoBeamOff <a' f>4-.( r8 <bes e,>-. <a d,>-. r | <c c,>2.) }

演奏時間は7~8分程度。

第3楽章 Feierlich und gemessen, ohne zu schleppen

 緩慢でなく、荘重に威厳をもって ニ短調 4/4拍子 複合三部形式

ティンパニの4度下降の刻みに乗ってコントラバスが物憂く虚ろな印象の主題(譜例6)を奏する。この主題は童謡「フレール・ジャック」として知られるフランスの民謡(オーストリアでは「ブルーダー・マルティン」として、また、一般的に英語名 "Are you sleeping?" でも知られている。日本では「グーチョキパーでなにつくろう」という歌詞が有名である)を短調にしたもので、カノン風に扱われ、オーボエのおどけたような旋律が加わる。主部はほぼ三部形式をとり、哀調を帯びるが俗っぽい進行を経て主題が戻る。

譜例6


  \relative c { \clef bass \numericTimeSignature \time 4/4 \key d \minor d4\p(^\markup{\center-align \smaller (Cb.)} e f8 e d4) \breathe | d4( e f8 e d4) \breathe | f( g a2) \breathe | f4( g a2) \breathe | a8.([ bes16 a8 g] f e d4) \breathe | a'8.([ bes16 a8 g] f e d4) \breathe | a'( a, d2) \breathe | a'4( a, d2) }

 中間部はト長調。ハープに導かれてヴァイオリンが夢見るような表情で奏する。この旋律は『さすらう若人の歌』第4曲「彼女の青い眼が」から採られている。

譜例7


  \relative c' { \clef treble \numericTimeSignature \time 4/4 \key d \major \set Score.tempoHideNote = ##t \tempo 4 = 72 \partial 4*1 d8(\pp^\markup{\center-align \smaller (Vn.)} g) | g4. g8 g4-- a8( b) | b( d) d4-- d-- d8(^"gliss." g) | g4--( g8-. g-.) g( a16 g fis8 g) | d4. b8 d4-- }

主部が回帰すると、はじめより自由に進行し、調もテンポも急激に変化する。やがて静まり、ティンパニの4度下降の刻みに収束され、それも消えると、打楽器の暗い響きが残り、アタッカでフィナーレに休みなく続く。

演奏時間は10~12分程度。

第4楽章 Stürmisch bewegt

 嵐のように運動して ヘ短調 - ニ長調 2/2拍子 自由なソナタ形式

シンバルの強烈な一撃で開始される。第1主題の断片や半音階的に下降する動機を示して気分を高めたところで導入が終わり、戦闘的な第1主題(譜例8)が管楽器と低弦で提示される。これにはヴァイオリンの激しく上下する音型を伴っている。第1主題は第1楽章の半音階的上昇動機と関連がある。一段落して出る第2主題(譜例9)は変ニ長調、ヴァイオリンによる息の長い美しい旋律。

譜例8


  \relative c' { \clef treble \time 2/2 \set Score.tempoHideNote = ##t \tempo "Energisch" 2 = 92 \key f \minor \partial 4*1 f8-.\ff^\markup{\center-align \smaller {(Ww. Br.)}} r | g2\f^^ aes^^ | c r4 f,8-. r | bes-. r c-. r des4-- c8-. bes-. | f'2( c8) r }

譜例9


  \relative c'' { \clef treble \time 2/2 \key des \major \tempo "Sehr gesangvoll" r2 f\pp(~^\markup{\center-align \smaller (Vn.)} | f4 e f aes,) | f'2( ees~ | ees f) | des2.( d4) | ees( f ges aes) | ges2( f~ | f) }

 金管が第1主題の動機を繰り返して再び激しくなるところから展開部。第1主題を扱ううちに高揚して頂点に達し、序奏部が復帰すると再現部となる。

マーラー自身、再現部には相当苦労したようで、ここで終わらせることも考えていたらしい。ここで第1主題は再現せずに、ハ長調で凱歌をあげようとするが、突如ニ長調に上昇する。ティンパニの連打、トランペットの勝ち誇ったような旋律、ホルンの4度動機(譜例10)と続いていったん静まり、第1楽章の序奏が戻ってくる。

譜例10


  \relative c'' { \clef treble \time 2/2 \key d \major \set Score.tempoHideNote = ##t \tempo 2 = 92 d2^.^^\ff^\markup{\center-align \smaller (Hr.)} a^.^^ | b^.^^ fis^.^^ | g^.^^ fis4-. e-. | a2 }

 第2主題の断片につづいて4度動機や第1楽章の第1主題が示される。その後、第2主題が再現される。これが高まると、ヴィオラが警告的な動機を示し、これが繰り返されるうちにやっと第1主題が再現する。主題の順番を逆にして再現する発想は第6交響曲の終楽章にも現れている。音楽は弱音主体ですすみ、やがて第1楽章のファンファーレが現れ、予告された場面となる。展開部と似たクライマックスが今度はニ長調で頂点に達し、そのままニ長調の長いコーダになだれ込む。ここでマーラーはホルンを起立して吹かせるよう指示している。フィナーレの第1主題と4度動機に基づき、勝利感に満ちた終結となる。

演奏時間は18~22分程度。

 マーラーは、自分の出自に関して後年マーラーは「私は三重の意味で故郷がない人間だ。オーストリア人の間ではボヘミア人、ドイツ人の間ではオーストリア人、そして全世界の国民の間ではユダヤ人として」と語っているそうです。

 父親が読書を好んだこともあり、大変な読書家でもあったようです。反ユダヤ主義が猛威を振るう中で、多くのユダヤ人が苦しみましたが、マーラーもまた苦難の道を歩みます。

 またこんな話もあります。マーラーの「敵を作りやすい性格」については、クレンペラーがブダペスト放送での談話(1948年11月2日)にて以下の通り擁護しています。

“マーラーは大変に活動的な、明るい天性を持っていました。自分の責務を果たさない人間に対してのみ、激怒せざるを得ませんでした。マーラーは暴君ではなく、むしろ非常に親切でした。若く貧しい芸術家やウィーン宮廷歌劇場への様々な寄付がそれを証明しています”

 加えてクレンペラーは1951年にも「朗らかでエネルギッシュであったマーラーは、無名の人間には極めて寛大であり助けを惜しまなかったが、思い上がった人間には冷淡だった」と語っています。

 私が、若い頃に思っていたような失敗は、人は色々なことを高角度で俯瞰(ふかん)することができるように物を見れば、もう少し世界は展望が開けるようになるのです。一番身近な人に己の生き方を示しておかないといけないと思います。

 

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オイレンブルクスコア マーラー 交響曲第1番 ニ長調 (巨人) 単行本 – 2010/6/22

マーラー (作曲)

 

Complete Symphonies : Abbado / Chicago Symphony Orchestra, Vienna Philharmonic, Berlin Philharmonic (12CD)

Mahler (1860-1911)