ホルンの出番です252 レイハ(ライヒャ)「2つのホルンのための協奏曲」ホ長調 | 翡翠の千夜千曲

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     J. Rejcha Concerto for 2 Horns in E flat major Op.5, Brothers Tylšar

         Zdeněk Tylšar Horn Bedřich Tylšar Horn

 

 

 

 今日のテーマは「大変」です。

 栗を沢山いただいたので、マロンクリームを作りました。何十個剥いたか膨大な量になったので、孫と知り合いと教え子に押し売りをしてきました。栗は、煮た実を取り出して粉砕し、牛乳・生クリーム、水を加え、砂糖、塩で味を調え加熱しますがこれが大変、粘り気が半端ではなく、相当な腕力と根気を要し、最もが大切なのが火加減です。やって分かった、パテシエなんて見かけよりずっとハードだった。もっとも、こんなのは家庭料理の延長でパテシエと比較するなんて笑止千万なのですが、やって見ると言うことは実に大切だと分かります。

 私は田舎育ちなので、山栗の美味しさを知っています。小粒ですが、丸々と太った実は生で食べると歯ごたえが良く、沢山取れると皮付きのまま蒸して干し、保存食にします。正月ごろにもう一度蒸すと天津甘栗のように渋皮がはがれて食べやすくなります。今は一年中美味しいものに溢れていますから、こんな面倒なことはしないでしょう。

 面倒なことと言えば、作曲をしたり楽器を演奏したりすることも、面倒と言えば面倒なこととも言えなくはありません。それにもかかわらず、作曲家と言う人も歌手を含めた演奏家と言う人も一向にいなくなりません。楽しいばかりではなく、時には辛いこともあるのに止めないのは、奥が深く、目指したものが出来上がったり、納得のいく演奏ができた時の喜びは何物にも替え難いからです。

 多くの老人、特に女性に何が楽しかったかを聞くと大概「子育てで一番大変だったとき」と答える人が多いと言います。お子さんが居なくても同じです。大変な時は実は尊いのです。勿論その時は大変なのです。けれども次第に年老いていくと、「危ないから何もやらなくていい」とか言われることを嫌います。つまり、人は誰かに必要とされることは生きがいなのです。大変でもやるのは、人は勉強するようにできている動物で、そういう意味ではネオテニー(幼形成熟)だと言う人もいます。

 強烈に長い前置きでしたね。例えば、このアントニン・レイハ(レチャ)は10歳で孤児になり、ドイツでチェロ奏者で作曲家でもあった叔父ヨーゼフ・ライヒャ(レイハ)に引き取られますが、15歳にはフルート奏者としてケルン選帝侯マクシミリアンの宮廷楽団に入ります。前の記事にも書きましたが、ここでベートーヴェンと知り合ったことは互いに幸福なことだったと思います。人生は、ただ嘆くだけでは先に進まないのです。

 ベートーヴェンが82年にネーフェについて作曲を学び始めていますから、恐らくこのホルン協奏曲作品5はボンに移った15歳~20歳くらいの若い時の作品と思われます。おそらくレイハはベートーヴェンの動向に刺激を受けていたことは確かだと思います。その後も、ベートーヴェンとの友好関係は続いたようですが、ベートーヴェンがウイーンで活動を続ける中、レイハなフランスに活動の拠点を求めます。

 以前にも書きましたが、この時代は特にどこで活動するかはとても大切なことでした。ひょっとすると演奏家にとっては今でもそうかもしれません。つまり、自分が輝ける場所、自分を必要としてくれる場所はどこかということです。レイハは、パリに行きつき、その活動が認められパリ音楽院での仕事を得ます。

 今日のテーマは、「大変」です。本職であれアマチュアであれ、ある楽曲に本気で向き合うと、四六時中、或は一日中、頭の中でその音楽が鳴り続けると言う経験をお持ち方は多いと思います。これは実は大変なことで、苦しい時があります。職業音楽家はこれと対峙していられるタフさが要求されます。その時、作曲家は考えます。自分にとって何が一番大切か、或は何が一番心地いいか、何がしっくりくるかです。レイハは、デユエット、三重奏、四重奏、五重奏と言った、室内楽に見出すのですが、今日この曲を書いているレイハはまだまだ手探りで自分の居場所を探しています。

※ 以前の記事

① ライヒャ 「木管五重奏曲ホ短調作品88-1」

② ホルンの出番です73  アントニーン・ライヒャ(レイハ)「ホルン三重奏」

③ A. レイハ「ファゴットと弦楽のための変奏曲 」

④ フルートの出番です143 レイハ(ライヒャ)「フルートソナタ」ニ長調作品103

⑤ フルートの出番です172 ライヒャ(レイハ)「木管5重奏」ニ長調Op.91-3

 

<演奏者>

 ズデニェク・ティルシャル(チェコ語: Zdeněk Tylšar、1945年 - 2006年、チェコのホルン奏者。1945年、ヴラホヴィツェ生まれ。1958年にブルノ音楽院に入学してフランティシェク・ショルツに師事した。卒業後の1964年にチェコ・フィルハーモニー管弦楽団に首席ホルン奏者として入団する。教育者としても1970年代よりプラハ音楽院で教鞭をとり、1997年から教授に昇格した。2006年、プラハにて急逝。
1962年:プラハの春国際音楽コンクールで3位入賞。
1968年:プラハの春国際音楽コンクールで優勝。
1989年:ミュンヘン国際音楽コンクールで2位入賞。
兄のベドルジヒもホルン奏者である

 

 

Concerto for 2 Horns in E-Flat Major, Op. 5:

 I. Concertante. Allegro
Zdeněk Tylšar
Released: Jul 2018
Label: Supraphon a.s.