クープラン「ルソン・ド・テネブレ」バロック後期の音楽7 | 翡翠の千夜千曲

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    Couperin: Leçons de ténèbres | William Christie & Les Arts Florissants

01:04 - Couperin: Leçons de ténèbres - Première leçon à une voix 

19:04 - Monsieur de Machy: Prelude en ré 

23:08 - Couperin: Leçons de ténèbres - Deuxième leçon à une voix 

36:24 - Monsieur de Sainte-Colombe: Chaconne en ré 

41:50 - Couperin: Leçons de ténèbres - Troisième leçon à deux voix 

59:03 - Encore 

Gwendoline Blondeel | Soprano 

Rachel Redmond | Soprano 

Myriam Rignol | Viola da gamba 

William Christie | Organ 

Les Arts Florissants 

Conducted by William Christie

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Oedipus Coloneus, 2021

 

 

    

         TROIS LEÇONS DE TÉNÈBRES, COUPERIN

 

 

 

 土曜日になりました。以前から、休日にはなるべく穏やかな音楽を聴いて戴こうと考えていましたが、今日はフランソワ・クープランの宗教曲である声楽曲「ルソン・ド・テネブレ」を聴きたいと思います。少し不思議な作品です。自動翻訳を入れると「Leçons de ténèbres 」は「闇の教訓」と訳されます。「テネーブルの読誦」という訳もあるようですが、このことは少し後で説明します。

 クープランは、クラブサンの名手として知られていて、作品の殆どがクラブサンのものが多いのですが、教会のオルガニストをしていたこともあって宗教曲も幾つか残されています。以前のフルートの記事には生い立ちなどが記されています。フルートの出番です124  クープラン「恋のうぐいす」 

 旧約聖書の中でも最も美しいと言われている「エレミアの哀歌」をテキストとする宗教曲で、エルサレムの崩壊を嘆くユダヤ人の悲歌なのです。紀元前597年、新バビロニアによって引き起こされたユダ王国のユダヤ人たちがバビロンに強制連行され、移住させられたバビロン幽囚の時代に作られたものとされています。未だに、紛争中の地域の悲しい歴史の記録でもあると言えます。

 このテネーブルと呼ばれるキリスト教による一つの儀式なのですが、やや密教めいた興味深い聖務ではありませんか。テネーブルは復活祭に先立つ「聖なる3日間」の聖務日課のうち、深夜に行われる儀式で、灯していた蝋燭を一本ずつ消していき、最後には全て消して真っ暗にするのですが、その儀式の中で歌われる歌なのです。先の、訳の意味が伝わってきます。

 17世紀のフランスで大きく流行し、幾つもの作品が作られています。このクープランの作品が、リュリや同じ時代のマルカントワーヌ・シャルパンティエなどの作品と共に、名作として知られています。

 この曲は聖なる水曜日のための3曲のルソン(読誦)からなっています。本来2人のソプラノによって歌われます。半音階と気づかないほど絶妙な転調を伴った音楽を、聴いているとその美しさに心奪われます。
 明け方、次第に空が白み始める頃、絶望と悲しみ打ちひしがれている時、救いの主によって天に召されていく、その瞬間に心奪われているかのような神秘的で、そして静謐な音楽。この音楽には、少しばかり歌い手のその時の気持ちのままに自由自在に変えられます。ある時には華麗なメリスマ(装飾音)によって、途切れることなく悲しみに満ちた神秘的な歌が延々と続いていくのです。

 少し横道にそれますが、楽譜の発生を示すネウマ譜の時代のあと(10世紀以降)、楽譜は特定の楽器のための「タブラチュア」として発達していきます。タブラチュアとは言うなれば「指づかい譜」のようなもので、尺八や三味線などの和楽器の記譜と似たようなものです。初心者がギターを習う時に使うのを見たことがあると思います。

 リュートはタブラチュアだけで記されてきました。これを見れば指の使い方はわかるのですが、音楽は思い浮かべるには少し難があります。和声や楽典が発展してきて複雑化してきます。できるだけ正しい書法が模索されて確立し、それが少しずつ広まっていくと、作品ごとに楽譜が工夫されるようになります。

 こういった作品の楽譜は楽曲の方向づけを示すという位で、そこにあらゆる表現方法を記譜しておくことはありませんでした。声楽上あるいは器楽上、おおまかな方向性や特徴が変化するところが記譜されただけなのです。従って、太字のゴシックでの上記のような表現が可能なのです。

 1曲目ソプラノによって、最初のルソンが歌われ、間にビオラダガンバのプレリュウド、2曲目のルソンはもう一人のソプラノによって歌われ、再びビオラダガンバとオルガンによってシャコンヌが演奏されます。
 3曲目は二重唱によって演奏されます。二声は時折2度の不協和音でぶつかり合い、やがて解決されていきます。心を揺さぶられる何とも魅力的な嘆きの歌ですが、気品と抑制によって嘆きは、気高い祈りの心情に包まれます。

 

Couperin: Leçons de ténèbres 最初の動画のオルガン奏者の楽譜と同じ図柄が見えます。

 

クープラン:3つのルソン・ド・テネーブル

クリストファー・ホグウッド 、 エマ・カークビー 、 ジュディス・ネルソン