モーツァルト「セレナード第10番 変ロ長調」グランパルティータ | 翡翠の千夜千曲

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    モーツァルト:セレナード第10番 変ロ長調《グラン・パルティータ》K.361 〜

     第1楽章 ラルゴ〜モルト・アレグロ&第2楽章 メヌエット

 

  今日は、昨日取り上げたリヒアルト・シュトラウスの 13管楽器のためのセレナード変ホ長調の下敷きになったと言われる「セレナード第10番」グラン・パルティータを聴いてみます。繰り返しになりますが、セレナードとは華やかな性格を持った形式で、主に記念式典や祝い事などのために書かれたものが多い作品です。

  当時ウィーンで流行した、ハルモニー(Harmonie)またはハルモニームジーク(Harmoniemusik)と呼ばれる管楽合奏のために書かれたものですが、編成は通常の八重奏(オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット各2)にさらに管楽器4本とコントラバスを加えた13人の合奏で編成されています。

  しかし、作曲者が明確に楽器指定しているにもかかわらず、実演では音色の統一などを理由としてコントラバスの代わりにコントラファゴットが用いられることの方が多く、「13管楽器のためのセレナード」とも呼ばれます。モーツァルトが通常とは違うコントラバスを使った意図が良く分からないと言われることが多い。7楽章からなり、演奏に約50分を要するという管楽合奏曲としては異例の作品になっています。

  本作の正確な作曲年代は不明であるが、現在は1783年末から1784年初めと推定されている。初演として有力視されている説は、1784年3月23日、ウィーンのブルク劇場で行われたクラリネット奏者アントン・シュタードラーの演奏会での、シュタードラーとウィーンの宮廷楽団のメンバーによる演奏である。ただし、このときの演奏は第1、2、5、7楽章の4つのみであった。

  シュタードラーは当時のクラリネットの名手で、モーツァルトは後にクラリネット五重奏曲とクラリネット協奏曲をこの奏者のために作曲している。本作もクラリネットを中心に書かれているが、他の管楽器の特徴も巧く生かされている。また、編成にクラリネット属の楽器が4本(クラリネット2、バセットホルン2)も用いられているため、幾分現代の吹奏楽に近い響きがするのも特徴である。フレデリック・フェネルはこの曲を、自身の提唱する「ウィンド・アンサンブル」の概念の草分けにあたる作品と捉えている。

  この自筆譜の表紙には「グラン・パルティータ」というタイトルが記されているのですが、第三者の筆跡だと分かっています。大組曲という意味ですが、規模と内容から見て、モーツァルト自身の命名でないが、今でもよくこの名で呼ばれています。「第10番」という番号はモーツァルト死後に出版社が便宜上つけたものです。
  この作品は、ハルモニームジークという形式が無くなった後世にも影響を残しています。現代吹奏楽への影響や、前述のリヒャルト・シュトラウスのセレナードやアルバン・ベルクの「室内協奏曲」など、類似した編成の作品が様々な作曲家によって書かれています。

  以前書いたように、モーツアルトはザルツブルグ大司教の宮廷に仕えていた言わば「サラリーマン」でした。後任の司教は亡くなった先の司教とは違い、気まぐれで理解のない人物で気の進まない仕事に辟易しながら、合間にオペラ等の大作を書いていました。1781年、そのオペラ「イドメネオ」初演のためにもらった休暇をめぐって大司教と大げんかの末、ついに我慢が出来ずにモーツァルトは自立することを決心します。晴れて自由の身となり、音楽の都ウィーンに根を下ろし、自分の創りたい音楽を生涯追求することになります。
 このセレナードは、「激動の時期」に作曲されています。もともと書き溜めてあったのか、一部楽章には原曲と思われるごく普通の木管八重奏、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2の曲があります。しかし、当時はやっていたハルモニーム用に、当時最新鋭の楽器であったバセットホルン2本とファゴットではなくコントラバスを追加、更にはホルンも4本に増強し、全7楽章、演奏時間55分という大曲が登場したのです。

 

 

 

モーツァルト:セレナード第10番《グラン・パルティータ》
オルフェウス室内管弦楽団