1年前の夏、両親が離婚した。


血の繋がりとか色々な事情があって私は京都の祖父母に引き取られることになった。


その時にこの高校の編入試験を受けて転校してきたんだけど…。


残念ながら祖父母とはあんまり仲が良くなく、家に居場所は無かった。


担任にはそれっぽい事を愚痴ったことがある。


もしかしたらヒロちゃんは担任から私のそういう話を聞いたのではないのか?


なんかよく二人で飲みに行ったりもするらしいし。


知っているんだろうか、私の事情を。


だから優しいんだろうかとか考え出したらキリが無かった。


知っているんだったら何処まで知っているんだろうとか。


いつから?とか。


グルグルしているうちに次の授業がやってきた。


そして授業後。


「おいタナミミ、渡すものがあるから職員室についてこい。」


「…はい」


ドキドキするけど訊いてみようと思った。





Lotus in the mud-120714_2122~04.jpg





(あー思わず口から出てしもた。やってしもたわ)


「ヒロちゃん?」

「うん」

「ヒロちゃんって何や?」

「仲井博一でしょ?だからヒロちゃん。」


「………」

「………」


「じゃ嫁さんにビデオ頼んで持って来てやるからな」


「はい、ありがとうございます。」
(良かった。怒られへんかった。)


「おい。」

「…はい」


「あんまりさっきの呼び方使うなよ。」


「たまにならいいんですか?」


「…じゃあな」





野球部の新入生は顧問が恐いから退部するっていうくらい、ヒロちゃんは恐がられていた。


すぐに怒るし、しばいてくるし、威圧感も半端ないし。


授業中だって世間話とか無駄話なんて一切しない。

寝てる子がいたら容赦なく机を蹴り上げる。




そんなヒロちゃんが、私には甘い。


甘いというか距離が近い。


私と他の子とではヒロちゃんにとってどう違うんだろう?


思い当たることが無いわけではなかった。



Lotus in the mud-120714_2124~04.jpg





「衛星放送とかでライブやるときも絶対ビデオに録画してるみたいや。」


「へーいいですね。私はCD持ってるだけですよ。」


「持って来ようか?」



「へ?」


「平井堅のライブが録画してあるビデオ持って来てやろうか?」


「いいんですか!?」

「ええよ別に。」

「ヤッター☆」

「凄い喜びようやな(笑)」


「そういえば野球部調子どうなんですか?出来るだけ勝ち残れればいいですね。」


「まあまあやな。色々と不満はあるが…」


「不満って?」


「ココのグラウンド小さ過ぎんねん。試合出来ひんのやぞ!!そのくせ無駄に校舎には吹き抜けとか作ってあるしな!!何も考えずに設計した感が満載やな!!」


いきなり声を荒くするからビックリした。

普通に周りに人がいるのに…。


「ヒ、ヒロちゃん落ち着いて!」




「…ヒロちゃん?」



(あ、しまった。)


最近頻繁に友人と仲井先生の話をしていた私は、気付かぬうちに先生のことを影で"ヒロちゃん"と呼んでいた。




Lotus in the mud-120714_2124~05.jpg