フェデラー

 

思えば僕のテニス観戦人生はこの人と共にありました。

2003年、僕が有明アリーナで初めて生でテニスを観戦して、打球音、ショットスピード、そして何より、何時間も機敏に動き続け瞬間の判断をし続けるプロテニス選手のタフさに大いに魅せられました。

 

そしてその後、僕はテレビでちょこちょこテニスを観始めました。

このころはフェデラーはちょうど初の世界一位に躍り出たタイミングです。

 

そこから世界ランキング1位を連続237週間保持。

僕にとってテニス観戦というものは、死力を尽くして勝ち上がった選手たちが決勝でフェデラーの前に散るスポーツだったと言っても過言ではないかもしれません。

それほど圧倒的で、それでいて嫌味の一つもなく、優雅で力強く美しいテニスをする選手でした。

 

フェデラーを観ているとプロテニスというものがいかに過酷かということを忘れてしまうほどでした。

 

このころは毎日学校に行っては、「昨日のフェデラーの股抜き見た!?」「フェデラー1セット落としたけど調子悪かったのかなあ」「フェデラーのグリップサイズって3らしいよ!」「ええー!じゃあ俺次ラケット買う時3にしよ!」「いやスマッシュ(雑誌)には2って書いてあったよ!?」とフェデラーの話題で持ち切り。決して学校に部活メンバー以外の友達が一人もいなかったわけではありません。

 

 

そして現在活躍するプロ選手の多くが、幼い頃にフェデラーを観たことでプロを志したと語っています。

みんな部屋にフェデラーのポスターを貼り、同じウェア、同じラケットを買い、勝手に片手バックにしてコーチに怒られたと。笑

誰もが一度はフェデラーの真似をして極端に胸を張りながら歩き、これでもかというくらい打点に顔を残して、普段はクローズなのに試しにオープンスタンスでサーブを打ってみたことでしょう。

 

 

 

 

自分のブログを掘ったら、フェデラー引退発表当日のものがありました(俺こんな前からブログやってたっけ??)

 

 

ここに書いている通り、色々な選手を生で観た上で、この人世界で一番テニスうまいなと思いました。

ラケットの芯にボールを当てる技術、そしてパワーをボールに伝える身体の使い方のうまさの2点が際立っていました。

 

この二つはプロなら、いや少しテニスをかじっていれば当然誰でもできることです。

でもプロの中で唯一フェデラーだけが突出して簡単にボールを飛ばしていると感じるほど、テニスの基本動作を極めている人だと感じました。打った球の伸びが他の選手と違うんです。

(唯一と書いたけど厳密には初めて錦織を観た時も同じ衝撃を受けました)

 

 

 

映画のプロモーション映像。

フェデラーvs少年フェデラー。粋っすね~。

このチビ、スライスうますぎる。

 

 

 

 映画を振り返る

 

さて、そろそろ映画の話に移ります。

冒頭はフェデラーの華々しいプレーから始まりました。

開幕10秒の映像からいきなり感想を述べてるとこれ書き終わるのに一生かかりそうですが、少しだけ語らせてください。

 

 

2009年USでフェデラーが着用していたこのウェア。歴代フェデラーが着ていたものの中で一番好きです。

 

 

 

これワイが大会に出た時の画像ですが、赤黒反転してるけど同じウェアです。

当時このウェア欲しすぎて東京中のテニスショップを巡って購入したもので、今でも持っている思い出の品です。

 

 

まあ余談なので置いといて・・・

 

2022年9月14日。

物語はフェデラーが自室で引退発表のためのメッセージ動画を収録するところから始まります。

棚一面に敷き詰められたトロフィーの数々を背景に、部屋の明るさやカメラの角度などを細かく調整します。流石、自己プロデュース一つとっても王者の佇まいです。

 

フェデラーは2021年ウィンブルドン以降、膝の故障でまともにテニスをすることができていませんでした。

そして一年間、手術やあらゆるリハビリを経て、回復の見込みが立たないまま、このタイミングでの引退発表となりました。

どんな結果であれ、コートの上でシングルスを戦って現役生活を終えたい。その一心であとたった1回試合をするために一年間足掻いてきたのだと思います。

 

悔しいでしょう。誰よりも負けず嫌いなフェデラーです。

それでもメッセージ動画では引退を前向きに捉え、自身の素晴らしい夢の軌道を振り返り、最後はテニスを愛しているという言葉で締めました。

 

フェデラーは引退の舞台を、この日から9日後にあるレーバーカップに決めました。

レーバーカップとは、ざっくり言えばトップ選手だけを集めたエキシビジョン大会です。公式の試合ではありません。

先ほども書いた通り、本来ならばもう一度だけでも公式試合の場に立ちたかったはずです。

 

 

 

動画を撮り終えたフェデラーの周りには、フェデラーの人生のパートナーであり、プロ生活を支えてきたミルカ。そして家にいた二人の子どもたちが。

これ知ってる人は知ってるかもですが、フェデラー一家は一度目の出産で女の子の双子、そして二度目の出産で男の子の双子を授かっています。

やっぱりテニスの神さまは常人とは違う神秘的なエネルギーを持っているんだなと思わされるエピソードです。

 

奥さんのミルカは現スロヴァキアの元プロテニス選手で、なんというかよくいる美人アスリート妻という感じではなく、肝っ玉母ちゃんのような人物です。

オリンピックで知り合い、フェデラーが猛アプローチをかけたと聞いています。

熱狂的な応援やファッションが独特で、よく中継中にカメラに抜かれて笑いを取っていました。

 

これミルカ史上一番面白いトレーナー。

 

 

いつでも試合に付き添っていましたが、フェデラー曰くミルカがいなかったら自分は平凡な選手として終えていたと言わしめるほど、献身的なサポートを続けていたそうです。

 

 

 

この日からフェデラーは取材対応など、現役として最後の仕事をこなしていきます。

とても穏やかに、いつも通り明るく人々と接していきます。強さだけでなく、史上最高のアスリートと評される理由がよくわかります。

 

途中でリハビリ中の様子の映像が出ました。

ジムでほとんど負荷をかけない状態でトレーニングを行い、それをやり切れたことを喜んでいる姿は、楽しそうでもありましたが、つらい場面でもありました。

 

しかしユニクロと契約してくれたのは本当にラッキーでしたね。僕自身ユニクロ大好きなので、こうしてフェデラーを観るたびにユニクロのロゴが目に入るのはまだ違和感もありますが嬉しさもあります。あとおじさんだからユニクロよく似合ってる。

 

 

レーバーカップの現地に到着し、フェデラーだけでなく、マレー・ジョコビッチとライバルたちも続々と揃います。

多忙なシーズン合間のエキシビジョンなのでここまでのメンバーが揃うことは普段無いのですが、フェデラー引退の舞台のためならと全員参戦。あぁ健康だったらWORLDの方に錦織もいたのかもしれないのに・・・。

 

 

印象的だったシーンが、会場でフェデラーが個人会見を受けていたシーン。

重々しい雰囲気の会場が、入ってきたフェデラーの「Hello」の一言でフェデラー色に染まったような感覚を受けました。やっぱりすごいオーラだなと。

 

この映画内でフェデラーは色んな人との思い出を語りますが、この人本当に記憶力がいいんですよね。

誰とどんな試合をしてどんな言葉を交わしたかをしっかりと把握している。これもまた一流選手の条件だと思います。

 

 

 

 

ここで僕が好きなフェデラーエピソードを一つ。

日本人で杉田祐一という選手がいたのですが、2017年に無名のところから覚醒してアンタルヤオープンを優勝しました。

その杉田の勝利をフェデラーは把握していて、初めて顔を合わせた時に祝福してくれたというエピソードがあります。

 

 

杉田曰く、フェデラーが自分のことを知っているとは露程も思っていなかったのに、幼い頃から尊敬していたフェデラーの方から声をかけてくれたこと、そして注目度の低い自分の試合までチェックしてくれていたことに感動し、そしてなにより驚いたと。

 

そう、フェデラーってテニス大好きおじさんなんですよね。

メジャーからそうでない試合までチェックして、テニスのことを把握するのが大好き。

 

 

サッカー観戦中までテニスを観ていたというコラか本当かわからないものもありますが、実際これ当時海外で拡散されまくってたしマジだと思う。

本当にこんなテニス好きなテニス選手見たことないです。

 

 

 

 

さて、フェデラーを語る上で最も重要な人物が、ここまで一切映像に出てきませんでした。

満を持して、ここでラファエル・ナダルが登場します。

 

フェデラーの永遠のライバルです。

2005年、フェデラーが81勝4敗と歴代最高勝率を打ち出した無敵の強さを誇った年に、突如として現れました。

年間GS(グランドスラムという主要大会を全て制覇すること)にリーチがかかったフェデラーの夢は若き新星に阻まれました。

フェデラーほどの選手はフェデラーが現役中には表れないと誰もが思っていたタイミングで、フェデラーを倒すために神さまが用意したような選手。

ナダルは強いだけでなく、サウスポーから繰り出される強烈なスピンショットは、バック側の高打点というフェデラー唯一の弱点を炙り出しました。ここからほとんどの大会の決勝はフェデラーvsナダルになっていきます。

 

そしてその後ろを追うナンバー3のジョコビッチ。他の時代であればすぐにトップを取っていたであろうジョコビッチも、初めて世界一位になれたのは2011年。

今でこそ無敵の強さを誇るジョコビッチですが、この二人に勝つために長年をかけてどれだけ試行錯誤したのでしょうか。いかにフェデラーとナダルが支配していた時代が長かったのかがわかります。

ジョコビッチも時代が違ければもっと勝っていたかもとよく言われますが、本人はフェデラーとナダルに勝てなかったからこそ、ここまで強くなれたと語っていました。

 

そして更にその3人を追っていたマレーが初めて世界一位になったのは2016年。

この10年間、テニス界はこの4人とその他の選手に区分分けされるほど、突出した4人が支配していました。

 

 

 

ところで、ちょっと自分語りをしますが、僕って歴史の年号覚えるのめちゃくちゃ苦手だったんですけど、こういう誰が何年にどの大会を優勝したとか、初めて一位になったのは何年かとか、かなりはっきり覚えてるんですよね。

むしろ学生を卒業してからは、年代を振り返る時に「東北で地震があったのはジョコが初めて1位になった年だから2011年か」みたいな考え方で年数を導きがちです。

 

 

 

場面は変わってレーバーカップ前日。

選手のロッカールームでテンション高く騒ぐフェデラーと周りの選手の様子が映されます。

これもフェデラー大好きエピソードの一つなんですが、昔はロッカールームは暗黙の了解で選手同士がほとんど話したりしない雰囲気だったそうです。

それを変えたのがフェデラー。彼はおしゃべり好きでどんな選手にも話しかけ、ちょっとウザ絡みするらしいです。フェデラーの登場でツアーが明るくなったというのは、彼の偉大なる功績の一つですね。

 

そしてこの映画内のロッカールームの話題は、打つときにうなり声を挙げるかどうか論争。このおじさんまたテニスの話ばっかりしてる・・・。

 

 

 

映像内で毎日のように、引退は悲しいことではないと呪文のように唱えます。言うまでもなくこれは本心の裏返しですよね。

当日が迫ってきてだんだん感情のコントロールが難しくなり、コート上で泣いてしまわないかを心配するフェデラー。本人以外は100%泣くことはわかってるけど。

フェデラーは滅多に負けないからこそってのもあるんですけど、負けて泣いちゃう選手なんですよね。

 

 

 

2009全豪。ナダルに負けて泣きじゃくるフェデラー(25:24~)

 

ちょっとこの2009全豪のエピソードでめちゃくちゃ余談なんだけど話していいですか!?

この試合、日本の放送では柳 恵誌郎っていうおじいちゃんが解説やってたんですけど、こいつがまたしょーもない解説ばっかりするんですよ。

で、このフェデラーが泣いたシーンで「本当に泣きたいのはロディックですよね」って言ったのがアホ過ぎで今でもこれ思い出すだけで笑ってしまいます。

(※ロディックは優勝候補の一人であったにも関わらず準決勝でフェデラーにボコボコに負けた)

今でもこのエピソード擦ってるの、日本で俺しかいなさそう。

 

 

 

 

もう一個余談話していいですか!?!?いいですよ!!

この選手が泣くって話に関することなんですが、さっき上の方に書いた杉田祐一という選手の話です。

 

一度覚醒した後はなかなか勝ち続けることができず、急速にランキングが下がっていく中で鬱になったり、退路を断つために突然セルビアに拠点を移したり、かなりメンタルにもダメージがきている様子でした。

そして杉田は今年の2月に引退を表明するブログを発表しました。

 

 
最後まで自分を認めてあげることができなかったというかなり後ろ向きな内容です。
僕も自分嫌いなのでかなり共感しながら読んでしまいました。
 
 
その中の以下の一文:
いつの日か、圭(錦織圭 選手)やよっしー(西岡良仁 選手)に試合で負けて泣くことって未だにある?と聞いたことがあって、その時皆、全然あるよと答えていました。二人共きっとベストを尽くした自分を認めてあげることのできる選手なのだと思います。自分はいつもどんな良い試合で悔しい敗戦でも自分を責め認めることができなかったのだと数年前に感じていました。
 
これ死ぬほどわかる。本当に自分に失望している時って自分のために悲しんであげることができないんですよね。
僕はこの杉田祐一という人物の哲学的な考え方や、こういった一面も好きなんですが、こういう考え方は周りを不幸にするとも思っています。
生真面目な杉田が努力をしていなかったとは到底思えないのですが、それでも自分の中で決めた決め事に負け続けてきたのでしょう。こういう気質ってどうやって改善していくべきなんでしょうかね。
ちょっとこの杉田の引退の話、いつかもっと深く書こうと思っていたんですが・・・
 

 

 

 

 

まあいいや。ちょっと余談すぎた。

映像はついに試合当日。フェデラーはナダルとのダブルスを引退の舞台に決めました。最高の舞台です。

 

昔を懐かしみながらルーティンをこなして、コートに登場。

いざ試合が始まると、1ポイントを取っただけで会場からは割れるほどの声援です。

 

やっぱり技術力は群を抜いている反面、ちょっと左右に振られると足が全然追い付きません。

 

この試合の相手はソック&ティアフォー。

で、この試合は終わった後に特にティアフォーはかなりバッシングを受けることになるのですが、こいつ弱ってるフェデラーばっかり狙うんですよ。当然エキシビとはいえ真剣勝負に徹した結果なので避難される謂れはないんですが。

 

試合は五分五分の展開で進み、ついにファイナルセットタイブレークに突入。

スコア9-8でマッチポイント、フェデラーサーブというこれ以上ない展開。しかしこのポイントはやはり走らされたフェデラーの脚が追い付かずに落としてしまいます。

そしてそのまま逆転を許し、敗北。フェデラーのテニス人生が終わりました。

 

ベンチに戻るともう号泣しているフェデラー。知ってた。

そしてこの時を後から振り返り、またしても泣くフェデラー。知ってた。

オンコートインタビューの後、大勢の観衆とライバルたちに見送られ、コートを後にしました。

 

ロッカールームに戻ると泣きじゃくるナダル。コートでは気丈に振舞って裏で涙を流すの解釈一致過ぎる。

それでも、もう泣くのはやめようとはにかんで切り替えると、「ファッキン!ティアフォー!」とナダルの口からは絶対に出てこなさそうな汚い言葉がw

俺はティアフォーのそういうところ好きだよ笑

 

ロッカールームに集まった皆に改めてフェデラーが別れを告げ、フェデラーは家に帰り、テニス選手ではない一日目のスタートを切るところで映画は幕を閉じました。

 

 

 ありがとう

 

ここまで書いて思ったこと。

俺フェデラーのことめっちゃ好きじゃん!

 

いやもう最高の選手ですよ。

そして映画自体、本来はホームビデオのための映像であったということで、必要以上に感動を煽ることもなく、事実とありのままの姿を残した、本当に素晴らしいものでした。

 

先ほど書いたことの繰り返しになりますが、ユニクロがフェデラーと契約してくれたことを心から感謝しています。

フェデラー引退間近という異例のタイミングでの契約。テニス選手としてではなく一人の人間としてフェデラーと契約したいというユニクロの男気と計らいのおかげで、日本でフェデラーと会える機会というものも得られました。

経済効果がどうなのかはわかりませんが、これが無ければ引退後のフェデラーがどんな活動をしているのか知る機会は得られなかったわけです。

僕たち日本人テニスファンにとって、今後の人生でもフェデラーというコンテンツに触れることができる喜びは本当に大きいです。

 

いつでも日本に来てください。よかったらうちの実家遊びに来てもいいよ。日本の家庭料理とか食べたいでしょ。

一緒にマリカーやろうぜ!あと公園でボレーボレーとか!