燕
彼はいつものようにブリオーニのスーツを着て大学に向かった。ようやく暖かくなってきた春の日にキョウジは校内を颯爽と歩いて彼の研究室に入った。彼は三年前に国立大学の教授に昇進した。文芸の評論でも受賞していた。
キョウジは水を得た魚のように次から次へと論文を発表した。講演にもよく出た。ここ何年か夢中になっている下手な詩についてもさも得意げに話した。彼の欲心は足ることを知らなかった。彼の能力が一番発揮されたのは何より人脈づくりだった。しかし彼には誤算があった。
それとは知らずキョウジは彼の詩の新作についていつもと同じように偉そうに振る舞った。彼は自分の出世だけを考えて生きてきた。彼は全ての物事が思い通りに運んで内心ほくそ笑んでいた。彼はこれまでの人生を器用に生きてきたと言えたが彼は目の前の餌に目が眩んで生まれれば死ぬという肝心なことを他人事のように捉えていた。
ある日大学に一台の車が乗り込んできて校舎が揺れんばかりの怒声が彼の過去の生活を洗いざらい暴露した。その途端、彼はあまりの動揺と恐怖のために自分の教授室の中で縮み込んだ。その怒声は三十分くらいのものだったが彼の足は震えた。
キョウジは一週間ほど大学の授業を休講にした。ほとんど眠ることもできずに彼は考えたあげく勇気を振り絞って大学に向かった。いつものように抜け道に入り込んだとき前に車が道を塞いだ。後にも同様だった。彼は冷汗をかいていた。しかし彼は何でもないように時計を見ながら車を降りた。彼の足は動けなくなっていた。後と前の車のドアが開いた。いく本もの小刀が朝の光に燕のように翻って彼を刺し殺した。