濱口監督の新作ということで「ドライブ・マイ・カー」を観てきました。濱口作品と言えばなんといっても「寝ても覚めても」が大好きで、その年の年間ベストに入れたほど。今作はカンヌでもいろいろ賞を取り、注目度も高く、劇場もかなり埋まっていました。
てなわけで「ドライブ・マイ・カー」おもしろかったです!
正直あの「寝ても覚めても」のような映画的爆発力はなくて、想像よりも良くも悪くもきれいにまとまった一本だなという印象はありました。ま、なにはともあれ、今作もシーンごとの緊張感がすごい。序盤から終盤まで得体のしれない不気味さが充満していてさすがの見ごたえでしたね。かなり尺の長い映画ではあるんですが、尺の長さはぜんぜん感じず、この何とも言えない不気味さの正体を探していたらエンドロールになっていた、みたいな。この感覚こそが濱口監督らしさなのかなというのが、監督作何作かを観た印象です。
主人公の妻が死ぬというのが、ひとつ物語の軸であり、導入になってますが、死ぬ前の彼女の存在感と得体の知れなさが尋常ではないので、死んで以降の後半も強烈に「不在の中心」として映画に居続けているというのがこの映画の重要なキーだったと思います。これまであまり意識したことのない女優さんでしたが主人公の妻役の霧島れいかさん、すごかったな!序盤の彼女の存在感こそが長い長いこの映画のもっとも重要なファクターですし、ちゃんと序盤でインパクトと得体のしれない不気味さを残せたということが、この映画の一番の勝因だと思います。
あと岡田将生さんってこんなにすごい俳優だったのか!という後半の主人公との車内での長セリフのシーンとかも印象的だったなぁ。後半に行けば行くほど劇的なことは起こらないし、どちらかというと静的な、過去に起きたことやトラウマとどう向き合い、折り合いをつけていくかという話になります。そこにひとつの劇を作るという創作、また何かを演じるという演技、あと何気ない劇中のセリフとか、そういう創作活動によって少しだけ主人公の心が少し開かれていくという、大きな意味でのモノづくりセラピー映画としての側面がこの映画の好きなところだったりしました。特に序盤かな、奥さん周りのシーンはすごかった。前作も感じましたが、もっともっと女優映画を濱口監督には撮ってほしいなと思います。「ドライブ・マイ・カー」とても楽しみました。