サイダーのように言葉が湧き上がる
フライングめく
監督:イシグロキョウヘイさん
出演:市川染五郎さん、杉咲花さん、他
「俳句の映画」という雑な前情報のみで「サイダーのように言葉が湧き上がる」を観てきました。これが観てびっくり!!かなりグッときたし、今年ベスト級の大傑作だと思います!!めちゃくちゃ好き!!!(´;Д;`)
この映画を観て思い出したのは、私の亡き祖父のこと。祖父は歌人でした。小さいころから祖父の家にいくと俳句を教えてもらい、一緒に歌を探しに散歩したりもして、この映画ではショッピングモールでしたが、世代の離れた人々と歌を探しに行くという姿を観てものすごく懐かし気持ちになりました。もうだいぶ前に亡くなったので忘れてましたが、「そういえば俺、小さいころずっと俳句やってたじゃん」ということに気づかされました。小学校の夏休みの宿題で歌集とか出してたなぁ。そうなると思いでスイッチが発動。今は亡き歌人であった祖父に思いを馳せました。祖父の歌集とか引っ張り出して読んでみたりなんかしたり。
そんな自分の記憶を呼び覚ます映画でもあった「サイダーのように言葉が沸き上がる」ですが、ほんとに素晴らしい映画でした。「俳句の映画」という雑な前情報は確かにあってて、堂々たる俳句の映画でしたし、もっと言うと「表現」についての映画でした。なぜこの世界には「詩(うた)」というものが存在し、それを必要とするのか。誰かを想い言葉を紡ぐということの尊さと希望、そんな「なんかわからんが今表現したくてたまらない」という若者の沸き上がる思いを肯定し、心底キュートにカラフルに描き出した映画で。私は大傑作だと思いました。
この映画の偉いところは俳句という一見堅苦しいイメージのあるものを見事にポップにしてるところ、若者にとって魅力的なものとして説得力があるように描いている、というところだと思います。よくよく考えたら俳句ってSNSと親和性めちゃくちゃ高いんじゃないか?というのに気づかされたりとか、俳句を町中にタギングされてるのとかもすごいカッコいいし、そこも含めこの現代社会に俳句を持ってくるとすごくヒップホップ的というかラップに近いんじゃないだろうか、というところが見えてきたり。ともかくこの映画の一番素晴らしいところは観ると「俳句最高!」ってなっちゃうところだと思います。もう今にでも「#俳句」でTwitterにつぶやきたいよ。そう思ってる観客は多いんじゃないかな。「ちはやふる」で百人一首をする学生や部活が増えたようにこの映画にも「俳句やりたいな、俳句いいな」って思わせる何かがあると思います。少なくとも私も、「もう一回俳句やりたいな」と思いました。
そう思わせるためには映画内に出てくる俳句が魅力的であるというのは必須だと思うんですが、私が一番感心したのが途中に出てくる、
「夕暮れの フライングめく 夏灯」
あと、映画全体が醸しだす、若者の表現を否定しないという姿勢にすげぇグッときて。主人公の俳句、ヒロインのライバー活動、少年のタギング。その負の側面というか、例えば邪魔する大人だとか、否定したり茶々入れる外野だとか、そういうノイズを描かず、若者の表現を全面肯定してる感じ。当たり前に表現したいものを表現するし、それは決して否定されるべきものではない!という描かれ方にすげぇ感動しました。この間観た細田さんの「竜とそばかすの姫」と対比してみるとおもしろかったりもしましたね。SNS描写とかもすごくリアルでした。もう青春映画はSNSで「いいね」するしない「フォロー」するしないでドラマを紡げる時代になっているのだ~というのもおもしろかったですね。
後半のアナログレコードをめぐる展開では涙腺やられたな。あの回想。そして大貫妙子。泣 クライマックス、よく考えると「アナログレコード」と「盆踊り」と「俳句」なんですよね。これすごいですよね。令和の青春アニメのクライマックスとしてめちゃくちゃカッコいい。そしてそこで描かれるクライマックスがもうたまらなくキュートで切実でね…。文面だけで完結していた主人公の俳句が声に出され音になり、ヒロインに伝わる。花火をバックにした最高のポエトリーリーディングにまじ爆泣きですよ。エンドロール後の映像にも涙。
観る前はこんなに素晴らしい映画とは思ってもなかったです。文句なく今年ベスト級の大傑作!もっともっと色んな人に観られるべき映画だと思います。本当に素晴らしかった。忘れられない映画になりました。