僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46/欅坂初心者が見た嘘と真実 | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。

 
 
 
僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46

 
欅坂初心者が見た嘘と真実
監督:高橋栄樹さん
出演:欅坂46のみなさん
 
 
欅坂46のドキュメンタリー「僕たちの嘘と真実」を観てきました。私、欅坂についてはほんとに知識がなくて、完全に門外漢。平手さんと長濱ねるさんは名前と顔が一致する、「サイレントマジョリティー」と「黒い羊」はわかるという程度で、ほんとにドが付く初心者です。周りの映画好きやアイドル好き、何人もの人にすすめられたので、気になって素人ながら観てきました。
 
物凄く、興味深く観ました。色々思うところがあるけどともかく観てよかったと思います。


平成生まれモーニング全盛期世代ということもあり、幼い頃から元来ハロープロジェクトのファンの私。基本的にハローを中心にアイドルシーンを観てきました。2010年〜2013年、この辺りがいわゆるアイドル戦国時代と言われてますが、この辺りから、ハロプロ系、48系、ももクロなどのスタダ系、Tパレ系、とより広いアイドルソングを宇多丸さんのラジオ「タマフル」やBUBKAの盛り上がり、吉田豪さんや南波一海さんのキュレーションやなどに刺激され、個人的にも1番アイドル熱が高かった時期がこの時期かなぁと思います。

そしてこの辺りで1番大きかった事件が、AKBドキュメンタリー映画の2作目「Documentary of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら夢を見る」でした。アイドルに負荷をかけて、ギリギリまで追い込んだアイドルから出るドラマ性みたいなものを求める世の中の欲がいくところまでいったモノとして、これはほんとに事件でしたし、今見ても凄いし、時代を切り取った貴重な資料としてとても大きな1本だったと思います。その監督が今回の作品も監督してる高橋栄樹さん。この映画の公開が2012年の1月。その1年後の2013年の1月に更に事件が起こります。峯岸みなみさんが坊主になったという事件です。ここで私のアイドルに対する気持ちみたいなものが一度完全に離れることとなります。

アイドルに負荷をかけるエンターテインメントみたいなものが物凄く歪な形で表に出てしまったのがあの峯岸みなみさんの映像だったと思うんですよね。夢中になっていたものが一気に冷めてしまったというか…。ともかく構造の歪さと諸々の不健全さを突きつけられ。完全にアイドルというかアイドル運営とその構造みたいなものに心底げんなりして秋元康さん的なるものやそれ以外もアイドルという組織形態から心が完全に離れていた、というのが僕とアイドルの距離感のザッとした流れ。そこからはハローだけはかろうじて楽曲を追ってたもののアイドル全体への熱量は低めになっていた、という感じ。

てなわけで、欅坂46ですが。出てきた初期の「サイレントマジョリティー」はほんといい曲だなと思ってたし、センターの平手さんのスター性はおっ!すごい子出てきたなと遠目ではありましたが見ておりました。ですが、この映画でも描かれますけども、だんだん平手さんが不安定になってきたり、明らかに何かおかしくなってる、倒れたとか、そんな映像を見るにつけなんかね、そこに乗れなかったんですよね。またその方向行ってるの?というかさ、確かにすごいパフォーマンスだとは思うけど、1人の女の子がゼェゼェいってぶっ倒れてる姿を私はもう今は消費したくない、というのとなんかタイミングがあれだったのかもしれないけど全体的に漂ってる満身創痍感と悲壮感が個人的に今アイドルに求めるものと真逆のもので、正直けっこう拒否反応があったりしたんですよね。

で、この映画を観てさらに、私が欅坂46を受け入れられなかった理由がさらにハッキリした感じがしました。私はやっぱり受け入れられない。というわけで、映画の中の話。

私は欅坂のことは何もわからない素人だからあくまで素人目線ですが、単刀直入に言って「1人の女の子に負荷をかけ続けた結果、1人の女の子が壊れ、そして組織も崩壊した」という風にしか見えなかったんですよね。明らかに病んだブラック企業ですよ。なんとかポジティブな方向になるように編集されてるけど、あくまで欅坂初心者目線の私が見ると、要素を取り出せばかなり悲しいお話だなと思って。

「大人たちに支配されるな」というのがサイレントマジョリティーの歌詞でしたが、この映画は素人目に見ても、ここには見えない大人たちに支配されてる感をビンビンと感じました。とにかくボロボロになっていく平手さん。平手さんはキリストのようでしたね。あらゆるショットがそう見せてるし、ラストの背景に教会が映るのも作為的だろうと思う。で、重要なのは「じゃあ誰が彼女をキリストにしてしまったのか?」ってことで。ここが1番の見所というか、素人目に見てもこの映画に出てこない大きな空洞がこの映画には存在してるんでは?と思います。大人たち、ですね。

なんとも言えない悲壮感と重苦しい雰囲気が映画全体を充満してるのも印象的。メンバーたちがみんな口が重く歯切れが悪く笑顔がない。とにかく暗く重い。話題の中心の平手さんからは証言が取れないため、周りのメンバーの証言で構成されるのだけど、これがそういう雰囲気なので、なんだかブラック企業の社員から話を聞いているような感じでした。さっきキリストと言ったけども、平手さんを神として、天才として、消費(消耗)することで欅坂という組織が回っているという、不健全さが浮き彫りになってきます。「彼女は天才だから」って一見聞こえはいいし、天才って便利な言葉だから「天才だから突飛で変な行動もとる」とかなんか枠にはめちゃうこともできるわけでさ。本当に欅坂をよく知らない素人目から見ると、天才という名のもとに組織に潰された可哀想な子にしか見えないんですよね。平手さんが問題なんじゃなくて、組織そのものの構造が問題でしょう、どう考えても。困った天才に悩まされるみたいなように見えちゃうけど、あの状態にさせないのが大人の役割なのでは?そのはるか前の段階に組織としての問題があったのでは?とめちゃくちゃ悲しくなりました。

そんな中、振付師の人の質問返しが、唯一の光だったようにも思います。大人側が子供側にしてあげられることについての話。あの受け答えだけで素人にもこの振付師はメンバー側なんだというのが垣間見えたりしました。この映画では見えない大人たちへの、監督の唯一の抵抗が、あの振付師の質問返しだったのかもしれないな、と思います。どう思いますか?運営さん?という。

「ドキュメンタリーは嘘をつく」と言ったのは、森達也監督ですが、そう考えると「嘘と真実」というタイトルはこの映画にピッタリだとも思いました。平手さんの証言がなく、「大人側がほしい物語」に巻き取られたような、そんな気持ち悪さを感じました。うん素人目から見て、なんだろうね、この全体を包み込む退廃的で悲壮感漂う、どこか不健全に思える構造は。病んだプロパガンダ映像のように見えるところもあって。1人の女の子に全てを背負わせて成立するエンタメって、今の時代にこの構造でいいの?と私は見たかな…。「私たちもこうなるだろうと思っていたところもあった」とメンバーが言ってしまうという、あまりにも悲しい構造で。それを承知でこの構造を用意しているということに違和感を感じ得ませんでした。負荷をかけるアイドルの限界点を見たように思います。

と、なんだか否定的なことばかり書いてるようだけどともかくかなりの見応えと読み取りがいのある映画でものすごく興味深く見たし、間違いなく見てよかったです!個人的にはやっぱりアイドルソングが好きなので、アイドルには幸せになってほしいんですよ当たり前ですが。誰かが傷つき追い込まれて成立する組織なんてそんなのは間違ってる。彼女が天才的だから、と言えばそれまでだし、どうも運営側もそこに落とし込んで物語を進めてる節があるから余計にちょっと受け入れられないんですが、そういう状態になる前に、誰かが追い込まれる前になんとかするのが、導くのが、アイドル運営の姿なんじゃないかなと思います。平手さんがそうなってから後付けでどんどんブランディングしていった感じがなんだか、うーん、私は受け入れられないし、この映画にある巨大な空洞はそこに直結してるようにも思いました。というのが欅坂を初めてちゃんと見た私の感想でした。ともかく見応えが凄かったです。観てよかった!


以下、欅坂を初めて観た側の印象をざっと書いて終わりにします。

・リーダーの子は佇まいと受け答え、あのもの悲しげな横顔含め、応援の気持ちが湧き上がらざるを得ない。とにかくみんな幸せになってほしい。

・名前はわからないけど、最後の方に「私はたぶん周りと意見が違うから…」と言ったメンバーがいて、あの子は印象的でした。なんていう子なんだろうか?あぁいう意見はもっと聞きたかったな。

・振付師の人がとにかくカッコいい。明らかに周りの大人とは違う目線と意見を持っているようでこの映画の中では物凄い希望を感じました。あの人のインタビュー素材たぶんもっと撮ってるはずなので全部見たい。

・マネージャー?なのかな?ともかく運営側のおじさんが、平手がいなくなるたびにメンバーを集めて喝を入れるんですが、その論理がことごとく体育会系の精神論でかつ言ってることが不透明でキツかった。あれじゃあ誰も納得しないだろう…と感じた。

・欅坂のパフォーマンスをちゃんとじっくり見たのは初めてだったんだけど、評価されるのはものすごく納得して見応えがあった。平手さんのパフォーマンスはとにかく危うくて、目が離せない。彼女中心に回っているというのを見せるには十分すぎるくらいのライブ映像だった。その平手さんの魅力が自分を追い込んだ状態(追い込まれた状態ともいえるが)によって生み出されてるというのもなんだか切ない。

・かつて興奮したAKBドキュメンタリー2作目との比較でいうと、ベクトルは似ているが決定的に今作に足りてないのが、「それでもみんななんでアイドルをやるのか?」という問いと答えだと思う。特に問いの部分。言い換えると第三者視点の欠如とも言えるけど。

・ファンからは蛇足という意見も見るけど最後のコロナ禍部分は僕みたいな素人には必要だったと思う。ファンには欅坂が新たに生まれ変わるというドラマは当たり前に知られてると思うけど、僕はここで初めて知ったので、ここはかろうじての希望描写として必要だと思った(平手不在が前提なので病んだ構造ではあるのに変わりはないが)。逆にここがなかったらかなり退廃的で悲壮感しかない話でキツい話しすぎるようにも思う。

・台風が過ぎる間に平手さんが来なくなった海辺で撮ってたミッドサマーみたいなPVも印象的だった。素人でわからないけど雰囲気的に乃木坂っぽい世界観で、平手さんが世界観に入り込めないと怒ってこなくなるのもなんか納得してしまった

・ハローものとしては、平手さんに鞘師のIFを見た。こうなってしまった欅坂とこうならなかったモーニング。この違いが明確に受け入れられるか受け入れられないかの違いかなと感じた

・平手さんが終始悲しそうだった。私の今のマインドでは追い込まれたアイドルを無邪気に消費できないなと改めて思った

・基本的にコントロールできない存在が大好きな節がある秋元康さんは平手さんという存在は好きだっただろうな〜と思った

・ともかく死者が出なくて本当によかったと思う

・令和時代のアイドル像がどうなってほしいか?など自分の思考がめちゃくちゃ促されたという意味で本当に見てよかった