人数の町/今そこにあるディストピア | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。




人数の町

今そこにあるディストピア
監督:荒木伸二さん
出演:中村倫也さん、石橋静河さん、他


ちょうど時間がパシッとハマったので前情報ほとんどなしで「人数の町」を観てきました。監督は初監督の荒木伸二さん。CMをやってた方らしいです。

これが、想像以上に見応えのある映画でした!満足!


観る前の何となくのイメージで正直舐めてたんですが、、ごめんなさい。同じようなことをやろうとしたあまたの和製SFとは一線を画した、思ってたものよりもワンランク上のものが出てきた喜びでかなり満足しました。

まず映画のルックが良かったですね。この題材においてここめちゃくちゃ重要。ビシッと締まった撮影とショットの構図感が良くて、本編はじまってすぐに「おっ」思ってたよりいい映画きたと思いました。あと何より大切なのが美術だと思うんですが、ここは工夫の賜物で、限られた材料をうまく工夫して、映画の設定とうまくマッチした美術を作り上げてて、この手の映画にありがちな安っぽさや浮いてる感じがなく世界観の作り方がとても良かったです。


まずこの施設はなんなのか?集められた人間が何をさせられてるのか?この2点がわからないまま進んでいく前半は特におもしろい。話が進んでいくに連れてここにいる人々が何をさせられているのかだんだんわかってくるわけですが、ここで描かれる無理のないディストピア、ギリありそうな寓話感、これらがリズミカルにテンポよく挟み込まれる「日本における年間の失踪者の数」や色んな統計データのテロップによってグルーブしていく語り口が良かったですね。

ここでやらされる「人数」というものの批評性の高さと他人事じゃなさは絶妙で、ほんとにいいバランスで作品に編み込んだなぁと思いました。今日本映画でやれる芯の食った、無理のないディストピアSFとして割と最良の作品なんじゃないかな?と思います。我々が今生きてる世界ってほんとにちょっと油断すればこの「人数」にすぐになってしまう世界だし、恐ろしいけどこのディストピアはすぐそこにある。デュードはすぐそこにいる我々の姿だよなぁなどと思ったりしました。そして、真の意味での「人間らしさ」とはなんなのか、この映画における唯一の光を差した石橋静河の凛とした佇まいは毎度のことながら見事でした。よく考えると一番人間らしく当たり前のことをしている石橋静河がどこかうっとうしく感じてくるのだが、そう感じるということはまさに我々もこの施設の気持ちのいいぬるま湯にちょっと魅了されちゃってるってことだよなぁなどと怖さを覚えたりもしたな。

その他、個人的な不満点を挙げると、せっかくここまで世界観を構築できたのなら、もうワンランクレイティングを上げたバージョンも観たかったなぁ。あと、展開の時間配分がやや気になったりしたので、レイティングあげて尺長くしたドラマバージョンをどっかで配信してほしいなぁと思ったくらいには個人的にハマった作品でした。

侮るなかれな見応えある作品でした!